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「という訳ですから、リュウ先生は諸々準備をお願いしますね。聖女様の能力については私のほうでなんとかしておきますので。」
「・・・・・・」
厳しい口調から一転、いつもの穏やかで、それでいて妙な圧を感じるケヴィン様と、憮然としているリュウ先生に挟まれた私は、身の置き所がない。
― ええっと、リュウ先生が返事もしないんですが、どうしたもんでしょう。
あ・・・そういえば、部下とか上司とか言ってたっけ・・・話を遮るのもどうかと思ってスルーしてたけど、ここはいっちょ聞いてみようかしら。
このまま無言が続くより、ずっといいもんね!うん、ずっといい。
「そういえば、ケヴィン様。先ほどの天界の方は、部下の方なのですか?」
「ああ~、それですねぇ。実は、エリィ様から仕事を与えられましてね。ま、仕方なくです。」
「お仕事ですか?それは、どういう・・・」
「各世界には天界のものが神官として常駐しているでしょう?その責任者ってところですねぇ。」
― それって派遣会社みたいなものかしら!
「あなたみたいな方を野放しにしておくのは、さぞかしもったいないでしょうからねぇ。さすがはエリィ様。よくわかっていらっしゃる。」
そこで、リュウ先生が刺々しいツッコミを入れる。
― おおい、そこ、余計なこと言わない!
しかし、天界派遣会社の責任者を任された上に、転移者の能力の解放までしてお咎めがないとは、ケヴィン様はエリィ様に近い権限があるお方なのではないだろうか・・・。
そんな方にケンカを売るような真似して・・・リュウ先生ったら、もう!
「おやおや、リュウ先生からも過剰な評価をいただいてしまいました。ふふ、言い方には気を付けたほうがいいですよ、リュウ先生。さて、私もいろいろと準備に入りましょう。それでは近いうちにまた。」
やっぱり同じ土俵に上がらせてもらえない、キラキラのケヴィン様に見送られ、私たちは教会を後にした。
「なあ、ミサ・・・」
「どうしました?」
「聖女様が薬屋を開くのって、流行ってんのか?」
「さ、さあ~、どうなんでしょうね。あっ、ほら、癒しのお力をお持ちでしょうから、発想がそっちにいっちゃうんじゃないですかね~。」
「はぁ~・・・一気に二人か・・・」
― そういえば、ピンクの聖女様も薬屋でした~!
同じような時期に、二人に教えるのは、さすがのリュウ先生でも負担が大きいのかな?
「やっぱり、大変なんですか?」
「そりゃあなぁ。テキトーな物は作れないだろう?あっちの世界の情報収集して、薬草集めて・・・時間がいくらあっても足りない。まったくあのジジィ神官め!余計なことを・・・」
― とうとう『ジジィ』になっちゃったよ・・・。
リュウ先生も、仕事となると手は抜かないからなぁ~。
部屋と調剤室にあるあの本の数からして、・・・二国分となるとまた相当な量になりそうだなぁ。
「リュウ先生、今回は薬草採取にはいかれるんですか?」
「いや、行かない。あのジジィ神官の部下に依頼する。あとは二室だな。レイが担当してる聖女は、監視対象にしといたほうがいいかもしれない。」
「あ、ああ~・・・そうかもしれませんね。本人が知らないうちに、危険なことに足突っ込んじゃいそう。」
― すでに片足突っ込んでいるような気がしないでもないけど。
「ほんとにな。これからしばらく忙しくなりそうだから、遅くなる時が多くなると思う。」
「はい、わかってます。大人しく待ってるので心配しないでください。だけど、ちゃんと帰ってきてくださいね!」
「わかってるよ。調剤室にも転移陣作ってもらうかな・・・」
などと言いながら、リュウ先生と一緒に三室へ帰る。
だけど、やっぱり私はモヤモヤしたものを払しょくできないでいる。
リュウ先生も、ケヴィン様もきっと気付かない。
今度こそ、周りに迷惑をかけないよう、自分で自分に折り合いをつけなきゃ。




