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ピンクの聖女様が帰られた後、やけに静まりかえった三室で、リュウ先生が口を開く。
「・・・どうしてこうなった。いったい何があった?」
「ああ~、実はさぁ・・・」
レイ君が聖女様の顛末をリュウ先生に話した。
「あ、そう。なんとなく予想はついてたけど。で、なんでよりによって薬屋なんだよ。」
「知らないよ~。癒しの力を持ってらっしゃるから、そうなっちゃったんじゃないの~?」
「はぁ~・・・能力を持っている人への指導は、やっかいなんだけどな。仕方ないか。」
― 薬草の組み合わせとかを教えるだけじゃないの?
オリビアさんにも、そうやってご指導していた気がしたけど・・・。
「リュウ先生、やっかいとはどういうことですか?あの、オリビアさんの時はそんな感じに見えませんでしたけど。」
― ・・・嫌味っぽかったかな。
「彼女は魔法とかそういう能力はなかったからね。ただ知識を教えるだけで済んでたんだよ。」
「オリビアさんって、誰?」
― あ、そっか、レイ君は知らないんだ。
私が来て間もない頃だったし、ジュエル先生がいた時のことだもんね。
「転移者の方で、以前、リュウ先生に薬の指導を受けにいらっしゃった人だよ。」
「ふ~ん。今は来てないよね。そんな名前の人見たことないもん。」
― おっと、スルドイな。
ええっと・・・どこまで説明したらいいのやら。
私は、リュウ先生をちらっと見た。
「彼女、少々オイタしてな、ここは出禁になった。」
「ああ~、そう、そういうことか。なるほどね~。金儲けにでも走っちゃったやつ?」
「まあ、そんな感じだな。それで、あの聖女のことだけど、癒しの力を使って薬を作るんだろう?」
― リュウ先生、当たり障りなく躱して、しれっと話題まで変えちゃってる。
「う~ん、話ぶりからすると、きっとそうだろうね~。」
「そうなると、その力の配分も考えなきゃいけない。なにより、ここで試作品を作る時には、その力を使えるように申請しなきゃいけないから、手続きがなぁ・・・。」
ゲンナリとした表情でリュウ先生がぼやいた。
― へぇ~、そんなシステムになってたのか、知らなかった。
そういえば、聖女様は安価な薬を販売するって言ってたし、あまりにも効果が高いものがお店に並んだら、目をつけられちゃうのか。
・・・でも、商魂逞しそうな会長様が、それを見逃すだろうか。
「聖女様、商会の会長に利用されたりしないでしょうか。少し心配ですね。」
「それねー。なんか体よく利用されそうだよね。まあ、でも、あの聖女様なら大丈夫じゃないかなぁ。すぐに次のターゲット見つけて立ち直りそう。」
― た、たしかに!!すっごいマイペースだし、ポジティブだし!!
・・・それがリュウ先生じゃありませんように、と思う私は心配しすぎだろうか。
「なになに~?ミサトちゃん、心配?」
― また顔に出ていたのか、私ってば!
「そ、そんなことないよ。聖女様が詐取されなきゃいいなって心配してただけ!」
「ふ~ん、ほんとに~?ま、聖女様が稼ぐようになったら、また店に連れて行くから安心してよね!仏頂面の室長センセーより、お姫様扱いしてくれる若いオニーサマ達のほうがいいに決まってるからさ。」
「仏頂面で悪かったな。レイ、聖女の引っ越し先の手続きはやっておけよ。」
「ええ~!!それ、室長の仕事でしょう!?」
「レイが担当だろ。なら、お前がやれ。」
― レイ君や・・・その一言が余計だってばよ・・・。
しかし、リュウ先生の苦悩はこれだけでは終わらなかったのである。




