638
ピンクの聖女様に呼ばれたリュウ先生が、診察室に入っていく。
「リュウ先生~、お久しぶりですぅ。」
聖女様が立ち上がり、リュウ先生のもとへと歩み寄る。
― ストーップ、これ以上近づかないで!
心の中では、立ち入り禁止テープを貼りたい気分だ。
「お元気そうでなによりです。私に相談ということですが、なにか?」
ポーカーフェイスを崩さず、冷静に対応するリュウ先生。
レイ君が、「リュウ先生、こちらに」と自分が座っていた椅子に、リュウ先生を誘導し、自然に聖女様と距離を取る形にしてくれた。
そして、「ミサトちゃんは隣に座って」と助手が座る席を譲ってくれた。
― さすが、ナンバー3!気遣いの鬼!!
「先ほども、レイさんには説明したんですけどぉ~、実は追放されちゃってぇ。それで、今いる国で薬を売ろうと思うので、リュウ先生にご指導していただけたらなって!」
「・・・・・・え~と・・・」
あまりにもざっくりした説明に、リュウ先生も困惑気味だ。
「追放の件は、あとでレイ先生に確認するとして・・・。聖女様は癒しの力をお持ちでしたよね。ご自分の力で治されたほうが早いのでは?」
「それ、私も言ったんですよぉ。でも、それじゃ他所の国に売れないから金にならないって、会長が!」
― なるほどねぇ~。
聖女様が治療院を開いても、そこに足を運べる人しかお金を落とさないけど、商品にしてしまえば、持ち運びができるから、こっちから売り込みもできる。
なかなかの商売人だなぁ、その会長様。
「薬というと、どういうものを考えているのですか?」
「えっとぉ、薬草がいっぱい生えている土地なので、このハーブティーみたいなものがいいかなぁって。そうすればぁ、安価に買えるから、裕福じゃない人にも薬を届けられるって、会長が!」
「なるほど、貴族向けの高価なものではなく、庶民向けのものですか。」
「高価なお薬は、王宮ナントカさんが作ってるから、そことはケンカしないって言ってました、会長が!」
― 『王宮ナントカ』って、王宮魔術師とか、王宮医師団とか、そういう役職の方たち・・・だよね。
名前じゃないよね。
「はあ、そうですか。その商会の会長さんとやらは、ずいぶんと優秀な方のようですね。」
リュウ先生は、少々投げやりな言い方であった。
ニコニコしている聖女様を前に、リュウ先生はしばらく考え込んだ後、
「わかりました。私でできることなら、協力しましょう。」
と、聖女様に告げた。
「ほんとですかぁ~!やった~!!」
「それでは、次に来るときには、聖女様の国に生えている薬草と・・・そうですね、可能であれば街で出回っている薬を持ってきていただきたい。」
「わかりました!えっと、薬草と薬として飲まれているもの、ですね!」
「聖女様、その前にあなたがいる国の教会に窓口を設置するので、ちゃんと国の名前と場所を教えてくださいね。それと、安全が確保されてからこっちに予約をいれてください。わかりましたか?」
隣から、レイ君が聖女様に釘を刺した。
「レイさんに怒られちゃった!はぁ~い、わかりました。」
「今日はこのまま帰るんですか?店には寄っていく?」
― 聖女様・・・アズ師匠のお店にも足を運んでいたのか・・・。
「そうしたいのは山々なんですけど~、今日は時間がなくて!早いとこ帰らないと会長に叱られちゃうから。」
「そうでしたね。それにしてもずいぶんと会長を慕っているんですね。」
「だってぇ、会長カッコイイんだもん!」
「「「・・・・・・」」」
― あくまで基準はそこなのね・・・ほんと、大丈夫なのかしら。
それから、いくつかやり取りをして、嵐のように去っていったピンクの聖女様であった。




