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「それと、もう一つ・・・」
「断罪されるという理由が、他にも?」
「はい。以前にもお話しましたが、異国の聖女は役目を終えた後、将来国母となり、国を守っていく風習があります。」
― ああ~、ナニソレ設定ね・・・。
「そうでしたね。聖女様にもそういうお話が?」
「はい。ちょうど年齢が釣り合う相手が、第一王子です。しかし、殿下にはすでに婚約者がいらっしゃいました。」
― 過去形・・・ということは、その立場を奪ったということか。
「殿下のお相手のご令嬢は、人々に求められている癒しの力を行使できます。そして、とてもお美しい方で、表では淑女の鏡と呼ばれているお方です。」
― これまた、ベタベタな設定だな!
となると、聖女様はそこに割り込んだ形になるから、さらに印象が悪い。
『表では』って言っちゃってるし、悲劇のヒロインぶってるな~、きっと。
しっかし、王族は『癒しの力』が使える人と結婚しなきゃいけない、なんてルールでもあるのかしら?
「美しいって、聖女様もとてもお綺麗でいらっしゃいますよ?」
アンバー色のさらっさらなストレートの髪に、鮮やかなエメラルド色の瞳を持つ聖女様。
派手ではないが、全体的に知的なムードを漂わせるスッキリとした感じの美しい方だ。
しかし、聖女様はふるふると首を横に振る。
「このぼんやりとした髪の色も、よくある瞳の色も、おおよそ目立つ部類ではありません。そのこともあって余計にふさわしくない、と言われているようです。」
「そんな・・・。まさか、そのご令嬢は身分の高い方なのですか?」
聖女様は、私の問いにこくりと頷いた。
― これは・・・聖女様の置かれている立場はかなり厳しそうだ。
王子様の婚約者になるくらいだから、序列としてはかなり上の身分なんだろう。
『淑女の鏡』とまで呼ばれているくらいだから、同性の信奉者も多そうだし、なにより権力には逆らえないよな~。
「先ほど、断罪と言っていましたが、その中身はどのようなものでしょうか。」
聖女様の話を黙って聞いていたリュウ先生が、聖女様に問う。
「さあ・・・。聖女の身分をはく奪されて平民、さらに国外追放、といったところでしょうか。」
― 勝手に呼んでおいて、放り出すってあんまりじゃないの!
「命の危険はないのですね?」
「これでも女神様に召喚された聖女です。私を害すれば神の怒りに触れるのでは、と恐れる方も一定数いるでしょう。信心深い人は多いですから。」
「なるほど・・・。あなたはどうしたいですか?」
リュウ先生の質問に、聖女様はまた俯いて自分の手を見つめる。
「私は・・・逃げてもいいのでしょうか。」
聖女様が、消え入りそうな声で答えた。
「あなたが逃げたいのなら、逃げればいい。自分を犠牲にする価値のある国ですか?」
リュウ先生の言葉に、ハッとした表情で顔を上げた聖女様である。
リュウ先生も、ジュエル先生がセンターに来る原因となった聖女様のことが頭にあるのだろう。
「でも、女神様のご意志に・・・」
「神は、世界を見守る存在だと私は思います。それは、あなたの国だけではない。隣国やそのまた隣国、その世界にあるすべてを見守るのが神。あなたが使命を全うするのであれば、どの国でも問題ないのではないでしょうか。」
「それは・・・そうなのでしょうか。そう思ってもいいのでしょうか。」
聖女様のエメラルドの瞳から、スーッと涙がこぼれた。




