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「断罪って・・・、聖女様はお役目を果たすよう頑張っていらっしゃったじゃありませんか。」
― 『断罪』といえば、謀反とか、浪費とか、買収とかだろうか。
しかし、目の前にいる聖女様が、そんなことをするようにはとても見えない。
せいぜい、厳しい言い方がイジメと取られてしまったり、肩と肩がぶつかったくらいで、大げさに騒ぎ立てられたり、そんな程度な気がする。
「私は、そのつもりでした・・・でも・・・。」
何があったか聞き出したい気持ちに駆られたが、ここはじっと次の言葉を待つ。
少し間を置いた後、聖女様が口を開いた。
「ミサトさん、『癒しの力』と聞いて、どういう力を想像されますか?」
逆に質問された。
「そうですね・・・。こう、手から光がパアッと放たれ、傷がふさがったり、苦しさが消えたり、そういう感じでしょうか。」
自分の語彙力のなさにガッカリしながら、二次元の知識を総動員し答える。
「おおむねそんな感じです。私がいる世界は、魔法で成り立っている国。私以外にも聖女と呼ばれる人たちがいるのです。」
「そうでしたね。でも、異国から召喚された聖女様は、桁違いの魔力を持っていらっしゃるのですよね。」
「ええ。その通りです。でも、私の能力は、ご想像のようなものではないのです。」
― 癒しの力じゃないってこと?では、どういう力なの?
「あっ、癒しの力には間違いありません。でも質が違うと言いますか・・・。」
「それは、どういうことですか?」
― 癒しの力って、そんな何種類もあるの?
人々から痛みや苦しみを取り除く、そういう力だけじゃないのだろうか。
「実は・・・」
大いなる厄災が起こるとき、聖女様が召喚されるが、その厄災によって与えられる力が違うのだそうだ。
そして、召喚され、その世界に降り立つ間に、その神様から直接使命を伝えられるとのこと。
「今回の厄災は、疫病です。私の能力は、人々の力を活性させる力。直接癒す力ではないのです。」
― 活性化?・・・って、なに?
「なるほど。本来自分が持っている治癒力を高める力ですか。それは、免疫力や耐性を活性化させる、というわけですね?」
リュウ先生が、私にもわかり易いように変換してくれた。
「さすがは、薬の先生ですね。仰る通りです。魔法が当たり前の国ですから、大なり小なり癒しの力を使える者はいます。人々は、それに慣れ過ぎてしまったのです。」
「ふむ・・・すぐ魔法でどうにかするのが当たり前になって、かえって弱くなってしまった、ということですか?」
「ええ。女神様もそれを憂いておられました。ミサトさん、体調が悪い時って、どうしますか?」
聖女様は、私を真っ直ぐ見つめる。
「え?そうですね・・・消化の良いものを食べて、しっかり睡眠をとり休息する。あとは手洗い、うがいをして予防する。こんなところでしょうか。」
私の答えを聞いて、聖女様が頷く。
「私のもといた世界でも、そんな感じでした。それが当たり前でした。そして症状がひどくなった場合は、病院に行き、薬に頼る。でも、今いる世界は、そんなちょっとの予防もできないんです。すぐに魔法で治しますから。」
― なるほど、聖女様の言いたいことが、ようやく私にもわかった。
つまり、今回の疫病は、一人一人の予防である程度防げるもの。
さらに、自身の免疫力が高ければ、厄災と呼べるほどの大惨事にはならない、ということだ。
それだけ感染力が高いとなると、インフルエンザとか、そういう類だろうか。
「私は、傷も病気も直接治すことはできません。治りを早めるだけです。ですので、私は一部から『ニセモノ』ではないか、と思われているようです。」
「誰が、そんなことを・・・!!」
「・・・・・・先日、神殿に奉公している侍女たちの噂話を偶然耳に・・・。」
「そこで、断罪されるとの話も?」
聖女様は、ただ頷いただけであった。




