628
「お久しぶりです、お待ちしておりました。」
天界の方に伴われ、三室にやってきた聖女様をお迎えする。
その聖女様は、柔らかい微笑みを浮かべて診察室に入ってきた。
リュウ先生がハーブティーを淹れ、私の隣に座る。
他愛のない世間話の後、少しだけ沈黙される時間があった。
― なにか、別に言いたいことがありそうだ。
そして、それはあまりいいことじゃなさそう。
このセンターでいろいろな人と接しているうちに、私もそのくらいはわかるようになってきた。
聖女様は、自己主張は控えめな方。
ここは、話しやすいように振ってあげたほうがいいかもしれない。
「聖女様、最近、なにか変わったことでもありました?」
「え・・・?あ・・・そう、ですね・・・。」
聖女様は、それだけ言うと視線を下げ、膝の上で組んでいる自分の手を見つめていた。
言うか言うまいか、悩んでいるように見えた。
「最近、眠れていますか?少し顔色が優れないように感じますが・・・お悩み事でも?」
「・・・・・・」
― う~ん・・・これ以上、無理強いはできないかなぁ。
あまりしつこく聞いても、かえって心を閉ざしちゃうかもしれない。
その様子を見ていたリュウ先生が、口を開く。
「眠れないようであれば、安眠効果のあるお茶を処方しましょうか?香りも良いのでリラックスできますから。」
「い、いえ!それは大丈夫です。むしろ眠ってしまったら・・・ああ、いえ、なんでもありません。ご心配には及びませんので、大丈夫です。」
― それは、『眠りたくない』ってこと?
眠るとなにかマズイことでもあるのかしら。
ぐっすり眠るときって、自分の意識がなくて、無防備・・・って、それを警戒している?
「聖女様、もしかして、身の危険を感じていらっしゃるのではないですか?」
「・・・・・・」
「このことを、他の誰かには・・・」
ただ、黙って首を振る聖女様。
リュウ先生と私は顔を見合わせる。
やはり、いい話ではなさそうだ。
聖女様のいる国では、天災や疫病など、その世界に大いなる厄災が起こる時、神様のお告げにより、異界から聖女様を召喚する儀式が執り行わるそうだ。
そして、召喚された聖女様は、神殿で女神様のように大切に保護されると聞いている。
無事に役目を終えた聖女様は、その国の王、または王子の伴侶となり、末永く国の守護者となる風習があるらしいのだが・・・。
その話を聞いて、なにそれ、と思ったことは言うまでもない。
いきなり知らない国に放り込まれて、その国の王様と結婚しろだなんてあんまりだ。
王様が高齢なら、年齢の釣り合う子供や孫と、ということだが、すでに結婚して妻がいたらどうするのよ。
二番目の奥さんってことになるの?
いくら神様のお告げだからって、正妻の女性だって面白くないに決まってる。
それに、王様が人格者ならともかく、性格破綻の暴君だったらやってられないよ?
見た目も性格も、好きになれない人だったら、幸せになれないじゃない。
「あの・・・実は私、断罪されるそうなんです。」
聖女様が、ポツリと呟いた。
― ・・・断罪?
ええっと、悪役令嬢が、婚約破棄されるときに起こる、定番の、あの断罪?




