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「魔法が使えないだと?」
リュウ先生の言葉を聞いて、ジン様が訝しげな表情をされた。
「ええ。今までそういった能力を必要としない世界ばかりにおりましたので。残念ながら、その方面の才能はありません。」
テディさんが淡々と答える。
そして、テディさんの後にリュウ先生が言葉を続ける。
「センターとしても、転移者にとって不遇な扱いを受ける世界に行かせるわけにはいきません。まあ・・・個人の希望は尊重しますが。」
「ふむ・・・。」
ジン様は腕を組み、なにやら考え込んでいる。
すると、ジン様はおもむろにご自分の眼帯を外した。
私の首にかかっているネックレスと同じ、玉虫色に輝く瞳が露わになる。
クローズさんに以前盗まれたその眼は、義眼なんだろうか。
おおよそ、『瞳』と呼べるような形状ではない。
私が見たのは二度目であるが、こうしてまじまじと見るのは初めてであり、大きな宝石が嵌まっているジン様の顔は、この世の者ではないことを改めて思い知らされた。
さすがのテディさんも、言葉がでないようである。
ジン様は、その眼でテディさんをじっくりと観察しているようだ。
「・・・お前、魔法の才は持っておるな。おお、これは珍しい。全属性持ちか。普通の人間ならたいてい一種類、多くて二種類までなのだがな。」
― なんですと?テディさんは、魔法の才能まで持っていたの?
しかも全属性って・・・相当レアなのでは!!
「そ、それは本当ですか?私にも、魔法が扱えると!」
「我は嘘はつかん。ただし、極めるには少々魔力が足りぬ。典型的な器用貧乏というやつだなぁ。どうだ?我のもとに来るなら、その力、開放してやってもよいぞ?」
― うわぁ・・・これは悪魔的な誘惑だぁ。
先ほど、魔法について熱く語っていたテディさんなら、飛びつくだろうなぁ。
「商談成立、ですね。あなた様の世界に行き、スイーツで世界を制しましょう。」
― やっぱり・・・。
「あ、ちなみに、ミサトさんも魔法が使えないという事でしたが、どうなのでしょう?」
― どうして、ここで私を引き合いにだすかな!
エリィ様にお墨付きをいただいているから、分かってるってば!!
ジン様は、私をちらりと見て、フッと鼻で笑った。
「見るまでもないな。我がチョチョッといじれば使えないわけではないが、それは薬師が許さないであろう?」
『チョチョっと』って何をするのさ、と聞きたかったが、リュウ先生が許さないという時点で、ロクなことではない。
きっと、そういうことなんだろう。
「私も彼女もここを離れる気はありませんので、不要です。」
リュウ先生も、そのことに気付いたらしく憮然とした表情で答えた。
「フン、つまらん答えだな。そうだ、お前の名を聞いていなかったな。名はなんというのだ?」
「私ですか?私は世界を巡る名もなき旅人。どうぞお好きなようにお呼びください。」
― なんだそれ!!どこのチュウにだよ!!
「我に名を求めるか。そうだな・・・『ラルド』。お前の名はラルドだ。我に名を与えられたことを光栄に思え。」
― 言い方はアレだけど、高位の方に名付けてもらえるなんて、人間ではありえないことなのかも。
それだけ、テディさんのことを買っている、という証拠だ。
「・・・『ラルド』。悪くない響きだ。その名前有難く頂戴いたします。ということで、私は本日からラルドになりました。改めてよろしくお願いしますね!」
ニッコニコのテディさん改め、ラルドさんであった。




