623
「ちょ、ちょっと待ってください。」
テディさんの即決に、思わず口が先に出てしまった。
「なんだ、しもべ。」
「なんですか、ミサトさん。」
既に息ピッタリの二人である。
「そもそも、ケーキ作れるんですか!?」
各方面に才能を見せているテディさんであるが、繊細なスイーツを作れるようには見えない。
安請け合いをして、ジン様を怒らせようものなら、どんな目に合うかわかったもんじゃない。
そんな私の心配をよそに、テディさんは首をすくめ、やれやれというリアクションをする。
「はぁ~、ミサトさん。私を誰だと思っているんですか?」
「え?宰相で、軍師で、デザイナーで、ホテルのオーナーで、裏社会のボス?」
「その通り、間違ってはいませんがねぇ。あのホテル、もともとレストランが発祥だったんです。そのメニューを作ったのは、なにを隠そうこの私です。そう、もちろんデザートも全て!」
― え、ええええ!!
あの、ホテルのフランス料理のようなコースメニューを、テディさんが考えて作ったの!?
「ふふふ、驚きましたか?幸い、私たちのいた地球は食文化が発展してましたからねぇ。その知識を使えば、他の世界の胃袋を掴むなんて朝飯前ですよ、レストランなだけに!いわゆるチート技ってやつですね。ミサトさんも料理くらい作るのでしょう?」
「え、ええ・・・まあ、家庭料理くらいですが。」
「その知識を使えば、私のように一流とまではいかなくても、大衆食堂で庶民の胃袋は掴めたでしょうに。惜しいですねぇ~。」
― そ、そんな裏技、思いつきもしなかった!
でも、さすがにケーキまでは作れない・・・独り暮らしの時には電子レンジしかなかったもの。
買って食べたほうが早くて美味しかったもの!
「ほう、しもべも料理が作れるのか。」
― まずい!ジン様が食いついた。
「い、いぃえ、ジン様のお口に合うようなものなど、作れませんから!!」
これでもかというくらい、首をブンブン振る私である。
なんならリュウ先生の方が、と言いかけたところで、リュウ先生に視線を向けると、『余計な事を言うな』と言わんばかりの鋭い眼光で睨まれた。
「まあいいでしょう。」
― なにがいいんだよ!
「ひとつ確認したいことがあります。ケーキに必要な材料として、小麦粉、卵、牛乳、バター、砂糖。最低限、これらが必要となりますが、あなた様の世界にはありますか?」
「なんだ、バカにしているのか?そのくらいあるに決まっておろう。」
「それなら安心です。バターがあるということはチーズもありますね。それと、もう一つ大事なものは、ケーキを焼くオーブン・・・窯のようなものですが、それはありますか?」
「ふむ・・・あれは焼き菓子になるのか。パンなどは出回っている故、それで代用できるか?」
「おお、パンが焼ければ充分です。あとは向こうにある食材をいくつか組み合わせて作ってみましょう。」
「おお、おお、それはいいな!我の目に狂いはなかったようだな。」
「私にスイーツを求めるとは、お目が高い。さすがは高位のお方でございますね。」
ジン様とテディさんは、黒い笑顔を交わしながら盛り上がっている。
「盛り上がっているところ申し訳ないのですが。」
水を差すように、リュウ先生が口を開いた。
「なんだ、薬師。」
「なんですか、リュウさん。この盛り上がりに水を差すような無粋な態度は。」
リュウ先生が、ジロリとテディさんを睨む。
「先日のジン様と、クローズとかいう輩の所業から、そちらは魔法と呼ばれるものが存在する世界だと思われますが。」
「そうだな。それがどうしたというのだ?」
「目の前にいるこの者は、魔法が使えません。それでも、なんの問題もなく暮らしていけるのですか?」




