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「あぁ、マリアちゃん、いらっしゃい。今からちょうど休憩するところだったんだ。」
「ちょうどよかったですぅ~。これ、よかったらどうぞ。クッキー作ってきました。」
― さすがヒロイン。テッパンアイテムの手作りクッキー。
「マリアちゃんの手作りは評判がいいもんね。じゃあ、みんなでいただこうか。リュウ先生もサトもこっち来て休もうよ。」
マリアさんの肩が、少しだけピクッと動いた。
「マリアさん、いつもありがとう。」
― リュウ先生もお礼を言うんだ、しかも笑顔で。
「そんなぁ。喜んでもらえて嬉しいですぅ。」
うつむき加減で、前で手を組んで、はにかんでいるマリアさん。
「まだいろいろと揃ってないかと思って~、ハーブティーも持ってきました~。」
― こっちをチラチラ見ながら言うのはやめてくれませんかね。
「それとぉ、お二人ともこれをお忘れでしたよ?」
と、マグカップを二つ取り出した。
そして、お手製ハーブティーをマグカップに注いでいく。
― さすがの気遣いですね、マリアさん。
「あぁ、見当たらないと思っていたら忘れていったのか。助かったよ、マリアちゃん。」
「マリアさんが淹れるお茶は、相変わらずいい香りがしますね。」
診察用の椅子にジュエル先生が座り、ソファーにはマリアさんとリュウ先生が座り、マリアさんを中心とした世界が出来上がる。
明るく穏やかな診察室の雰囲気も相まって、さながら、その手の小説のラストを飾るスチル絵のようだ。
さすがにこの中にモブがズカズカ入っていく勇気は、ない。
というわけで、私は戦略的撤退を選択したい。
― ここで声をかけてもなぁ、それはそれでわざとらしいよなぁ。
でもなぁ、黙っていなくなっても、それはそれでわざとらしいよなぁ。
う~ん、どうしたものか。
・・・・・・・・・・仕方ない、ここは一声かけて撤退しよう。
「すみません、備品管理室からスライムのことで連絡が来ていたので、ちょっと行ってきますね。」
― 我ながらナイスアイディ~ア!!
・・・やっぱりちょっと苦しかったかな。




