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「なんですって?あなた、レディーに対して、ずいぶん失礼な方ね。」
「・・・アンタ、臭うな。」
そういうと、リュウ先生は女性から離れ、ポケットからマスクを取り出した。
「先生もさぞかし不快な思いをされたでしょう。よろしければこれをどうぞ。」
「あら、気が利くわね。それじゃ遠慮なくつけさせていただきますわ。」
そう言うと、二人は日本でおなじみのあの白いマスクをつけた。
「ちょっと待ちなさいよ。臭うってなんのことかしら?」
「そのままの意味だよ。アンタの国にはオーラルケアっていう習慣がないのか?その吐く息が臭いって言ってんの。なに食ったらそんな臭いに・・・ああ、そうか、男のアレしか食ってないのか。はっ、ゲテモノ食いにも程があるな。それにその小じわ、毛穴。アンタ・・・結構歳いってんだな。」
― うわぁ、それは傷つくぅ。
『酒臭い』くらいならともかく、まんま『臭い』って言われたら、気にする!心が折れる!二度と立ち上がれない!!
それに、『魅了』のスキルで周りの目は誤魔化せても、自分の目は誤魔化せない。
女性ならかなり気にしている部位をあんな風に言われたら・・・お、おお、恐ろしすぎる!!
「な・・・」
その女性も、二の句が継げないようだった。
リュウ先生は、パラパラと書類のようなものを見ている。
「さて、では手っ取り早く済ませるか。アンタが男を侍らせて国を潰したのにはワケがありそうだな。その口で言えないんだったら体に聞いてやる。」
リュウ先生はそう言うと、アタッシュケースを開けて、何かを取り出した。
その手には、注射器が握られている。
「ほら、どれがいいか選べ。自白剤、催淫剤、筋弛緩剤、下剤、いろいろあるぞ。」
「なによ、それ。」
「はあ?いちいち説明しなきゃわからないのかよ。どんだけ頭悪いんだよ。自白剤はアンタの意志とは無関係に質問に答える、脳みそをいじる薬、催淫剤はアンタらの国でいうところの媚薬、これは説明しなくてもわかるよな。実際使ってるだろうし。筋弛緩剤は筋肉の動きを弱める薬。適切な量なら肩こりを緩和させるくらいだが、量を間違うと心臓を動かしてる筋肉まで麻痺する危ない薬だな。最後は下剤。腹の中にある悪いものを全て出す薬。そこで座ったまま垂れ流しになるが、ま、仕方ない。さあ、どれがいい?」
リュウ先生の説明を聞いているうちに、どんどん顔色が悪くなっていくその女性。
「ああ、言っておくけど俺は薬師であって医者じゃないからな。実験用の小動物にしか注射したことがないから。手元が狂って変なところに変な量を注射しても、悪く思うなよ。」
「ちょっと待ちなさいよ。あたしにこんなことしてタダで済むと思ってるの?」
とうとう、余裕がなくなってきたようだ。
最初の勢いはどこへやら、あの勇者サマと同じセリフしか言えてない。
「ああ?ほんっと、頭悪いな。このセンターが封鎖されれば、どこの世界からも立ち入ることができないって、理解できてる?それに、最後のコレ、アンタの記憶を消す薬を飲ませれば、どうってことないだろ?薬師をなめんじゃねぇぞ、オ・バ・サ・ン。」
リュウ先生は、5本目の小瓶を振りながら、悪魔みたいな笑みを浮かべている・・・んだろう。
なにせ、顔が半分マスクで隠れているからわからないけど、あの目つきは、きっと、多分、そう。
― これが・・・リュウ先生の拷問・・・もとい面接・・・・・・。
『知らないほうが幸せ』、『知らぬが仏』、という諺をこれだけ実感したのは、初めてだった。




