始まり3
いつものことながら上機嫌で帰宅したお兄ちゃんはお姉ちゃんから、家族でコスプレサミットに参加することになったからお兄ちゃんもお願いねと言われ、一瞬キョトンとなった。お兄ちゃんの頭の上をハテナマークが大量に飛び交っている。そこでお姉ちゃんは順を追って説明した。お父ちゃんの職場の仲間内三人で、ガンダムの登場人物に扮しコスプレサミットに参加しようと盛り上がったこと、いい年をしてこんなことをしようと思い立った三人の過去と様々な想いについて、そこのところの事情を酌んで自分達家族も協力してあげなければならないこと、お姉ちゃんはこういう事得意なんだよね、実に情感たっぷりに説明した。
お姉ちゃんの話を聞いているうちに、お兄ちゃんの顔は困惑の表情から少し興味を持って来たような表情になり、更に段々と面白がっているような表情へと変貌していった。これはお兄ちゃんが諦めが肝心と観念したためなのか、それとも本当に楽しんでいたのかは分からない。
「ほう、状況は大体分かったわ。けどがお前、ようほんなもん引き受けたな。いつものお前だったらぴしゃっとはねつけてまうだろうに。まあ、もしこれが百日紅のお栄ちゃんとかだったら、お前も喜んでやるだろうけどな。」
「大きなお世話よ。自分だって、妖怪ハンターの稗田礼二郎だったら喜んでやるでしょうに。」
「おう、初期のやつだったらやれるわ、あの頃の礼二郎さんは不気味だったで。けどなあ、新しいのはあかんわ。沢田研二に似とるらしい、ちょっと俺には無理だがね。」
「そりゃそうだ―――そんなことはともかく、こんなこと引き受けたってこと、あたし自身不思議な気がするんだ。お父さんのお話を聞いていたら、何となく身につまされちゃったんだろうな。」
「親父さんの話だで、どこまで本当か分からんが。おおよそはほんなようなもんかも知れん。ところでな、その話に出て来る親父さんの同僚の二人、これ夫婦だろ?」
「えっ、そうなの?」
「そうなのって言われても、知らんけど、ただそう考えるといろいろ辻褄が合うで。」
「でもご夫婦だったら同じ職場にはいないんじゃ?」
「公務員とかだったら絶対無いことだわさ。けど普通の常識的な会社なら合理性の方を選ぶて。それにほれ、その京都の大学の先生の話、そこで縄文人とか弥生人とか渡来人とかいう言葉を使わんかったんだろ?三十年近く前のことのはずなんだけどな、そこんとこは手柄だわ」お兄ちゃんはくすくす笑った。いつものことながら、変なところに興味を持つんだから。
「しかしちびさん、お前は何も言われとらんのか?」
僕は何も聞かれなかったと答え、ずっと蚊帳の外だったと不平を言った。
「ほりゃ可哀相だて。お前らはちびのこと何も言ってやらんかったのか?」
お姉ちゃんは照れ笑いを浮かべつつ「忘れてたわ」と一言。
「今更言ってもしょんないで。まあ結論としては、ちびも出なかんってことだわな。それにしても、丸いロボットの作り物を頭に載せろっちゅうのはあんまりだがや。頭に被れってことだでね。宇宙飛行士のヘルメットじゃあるまいし、格好の悪い。そこんとこは何とかしたらなかんぞ。」
「おいおい考えればいいことでしょ。衣装とかはお母さんが作ってくださるし。」
「その衣装とかのデザインやら小道具とかはどうしやぁす?」
「本に載ってるものとかネットで調べて、それを見せてこういう風にって。」
「裁縫のことはよう分からんが、ほんなんで出来るんか?ほんじゃあ肝心なとこだけどが、うちんとこの家族で誰が何に化けるのかっちゅうとこはどうなんだ?」
「決まってない、皆がやりたいものを‥‥‥」
お兄ちゃんはあきれ顔で、「行き当たりばったりの出たとこ勝負だがね」と苦笑いをした。
「ほいじゃあ、そんさんにお願いするしかありゃせんわ。」
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