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助っ人

 夜明け前には出発したかったが、思いの外疲れていたらしく、気がつけば昼も近い時間になっていた。


 目的の町に馬車が出ていると聞き、なけなしの金を叩いて飛び乗った。


 連日晴れていたお陰か、道に雪は少なく馬の足取りは軽快である。これなら思いの外早く着けるかもしれない。


 馬車に揺られながら、まだ疲れが残っているらしくウトウトしていると、眠気を割くようにミファーが話しかけてきた。


「なぁ、今更なんだが、お前何者なんだ? 昨夜は瞬く間に四人を伸してしまったし、あのダールという女とは旧知の仲だったし。お前と言う男が掴めんのだ」


「......昔な、俺がまだこんなに男前でもなく、ダールも肌に張りがあった頃、他に仲の良い奴らとつるんで色々仕事をしてたんだ。まだ、『ブルーブラッドローズ』なんて大層な名前も無かった頃さ」


「なぜ抜けてしまったんだ」


「簡単さ、人が増えたからだよ。最初はそれこそ仲良しごっこの延長で仕事が出来てたが、人が増えるとその分組織としての動きを求められるようになる。俺は自由にやりたかったんだが、部下を任されるようになって嫌んなっちまったんだ。それだけさ」


「そういうものだろうか」


「お前みたいなお利口さんには分からんだろうな。で、一人でブラブラしてる内に、腕っぷしだけ一人前になっちまったって訳さ」


「とは言え、こうまで強くなれるだろうか」


「あんたらがどんだけ長生きするのか知らないが、剣振って、魔物でも人間でも殺して生きていれば嫌でもこうなるさ。んで、気がついたときには殺すことしか能のない人間の出来上がりだ」


「そういうものか?」


「とりあえず毎日剣を振れ。そしたら分かるさ」


 彼女は余り納得していないようだが、俺は嘘をついているつもりはない。


 実際特別に何か研鑽を積んできたつもりはないし、生きるために剣を選んだ結果が今の状況と言うわけだ。


 俺はあくびをして、改めて昼寝を始めた。


 目的の町についた時にはもう日も暮れていた。


「さあついたぜ」


「イーデンの屋敷まではまだあるだろ?」


「いや、ここで仲間を増やす」


「いや、いやいや。私が言うのもなんだが、こんな馬鹿げた話に着いて来る奴など見つかるわけ無いじゃないか。それとも、騙して連れて行く気か?」


「いいや。もう目星はつけてる」


 ミファーの頭に明らかにハテナマークが浮かんでいるが、無視して目的の場所まで歩いていく。


「なあ、本当に当てなんかあるのか?」


「まあ任せろ。伊達に歳だけ取ってないさ」


 と、言っている間に目的の場所に辿り着いた。


「ここだ」


「ここが? 本当に合ってるのか?」


 ミファーが疑うのも当然で、俺達はレストランの前にいた。


 俺達はそのままぐるっと裏手に回り、裏口を見つけると扉に手をかけた。


「お、おい。勝手に入っていいのか?」


「嫌なら来なくたっていいんだぜ」


 扉の先は厨房に繋がっており、堂々と厨房を歩くも忙しなく働く従業員達は誰一人として俺達に関心を示さない。


 そんな中でよく知った坊主頭の男が、男よりも年下であろう従業員に叱責されているのが見えた。


「てめぇ、良い歳して皿の一枚も洗えないのか?!」


「......」


「何とか言ったらどうだ? ああ!」


 叱られている男は、今にも噴火しそうな憤りを抑えているのだろう、じっと拳を握って耐えている。


 だが、こちらとしては彼の状況などどうでもいい話で、二人の間に割って入る。


「よおディル。久しぶりだな」


「な、なんだあんたらは」


 ディルは俺に気づくと、みるみる内に顔をしかめた。


「おい、嘘だろ? お前ここで何してやがる!」


「何って、お前に会いに来たんじゃないか」


「おい! あんたらがディルとどんな関係なのかは知らないが、勝手に厨房に入ってきて何を呑気に話してやがる。さっさと出ていけ!」


「だってよ。俺達は裏で待ってるからよ」


 それだけ言い残して厨房を出ると、しばらくしてディルが出てきた。


「よくもノコノコと顔を出せたな? 一体どういうつもりだ」


「そうカッカするなって。実はな、良い仕事があるんだ」


「断る。忘れてねえだろうな。こっちはお前に騙された挙げ句、罪を全部着せられてとっ捕まったんだからな!」


「それは悪かったって謝っただろ。それに、保釈金だって払ってやったじゃないか」


「それで済まされると思うなよ! どうせ今回の仕事だってろくでもないに決まってんだ」


「報酬が妖精の羽根だとしてもか?」


 その言葉に、ディルの目が丸くなる。


「......まじで言ってんのか?」


「本当だ。仕事が上手くいけば、こんなとこで働かなくても、しばらく遊んで暮らせるぞ。お前だって、あんな歳の離れた奴に怒鳴られながら生きたくはないだろ」


 俺の言葉にディルの目が泳ぐ。


「ちょ、ちょっと待て。仲間の当てとは、もしかしてこいつのことか? レストランの従業員なぞ私はお断りだからな!」


 と、後ろでモジモジしていたミファーからツッコミが入り、ミファーの存在に気付いたディルの口が歪んだ。


「なんだこの女」


「俺の仲間だ」


「嘘だろ? おいおい、ルッセウともあろう男が、こんなチンケな女なんか連れちまって、どうしちまったんだよ」


「ち、チンケとはなんだチンケとは! 大体お前のような髭面のナヨナヨした男など、仲間にする気は無い!」


「んだと! そもそも俺は一緒に仕事をするなんて一言も言ってねえよ!」


「落ち着け二人とも。いいかミファー、ディルは昔一緒に仕事をしてた仲間なんだ。見た目は胡散臭そうだが、腕は保証する」


「胡散臭いは余計だ」


「とにかく、今は一人でも仲間が必要だ。好き嫌いを言ってる場合じゃないのはよく分かるな?」


「そ、そうだが」


「おいおい! 俺はまだやるなんて一言も言ってないぜ?」


「いいや、お前はやるね。ミファー、背中を見せてやれ」


「何を言ってるんだ! 見せられる訳ないだろ!」


「いいから」


 軽くミファーを睨みつけると、観念したのかミファーは背中のコートを少したくし上げ、隙間から羽根を見せた。


 羽根を見たディルが、目を見開いて言葉を失っている。


「おいまじかよ」


 絞り出したような声だ。


「こいつの村から依頼が来てんだ。報酬については保証するよ」


「何をすりゃいい」


「イーデンに囚われてる妖精の姫様を助け出す手伝いをしてくれりゃいい。簡単だろ?」


「イーデンて、あのイーデンか?!」


 頷く俺を見て、ディルは頭を抱える。


「確かにイーデンを相手にするのはヤバイ。だが、このままだとお前は一生をあそこで過ごすことになるんだぜ?」


 そう言ってディルが働いている厨房を指差す。


 ディルは目をつぶって大きく頭を掻くと、何かを吹き飛ばすように声を荒らげた。


「分かったやりゃいいんだろ! やってやるよ!」


「そう来なくっちゃ」


「そうと決まればこうしちゃいらない。俺の家に行くぞ。装備を取りに行く」


「待て! まだ私は仲間に入れるとは」


 ミファーがまだダダをこねているが、どうせ頼れる相手が他にいる訳でもないので、黙ってディルの家に向かう。

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