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作戦

 牢屋に閉じ込められてからどれくらい経っただろうか、寝るのも天井を見つめているのも飽きてしまったので、見張りに話しかけたりしてみたが全く反応がなかった。


「どうせ殺されるんなら、せめて美味い飯でも食べてからがいいなぁ」


 と、呟いても反応する者はなし。こんなことになるんならミファーだけ売っ払っておけば良かったが、欲をかいてしまうのが人間なのだから仕方ない。


「元気そうだな」


 檻の外に目をやるとイールが立っていた。


「思いの外お早いお帰りで。拷問の準備でも済んだか?」


「はは。残念だがそれはまだ。聞きたいんだが、なぜ君はあの森に足を踏み入れた?」


「そんなんミファーとやらに聞けば分かるだろ」


「その上で、君の口から聞きたいんだ」


 相変わらず不敵な笑みを浮かべるばかりで、考えの読めない奴である。


「ミファーが街で襲われてるところを俺が助けて、足を怪我してるのにすぐに村に帰らなきゃいけないってんで、親切心で村まで送ってやったまでよ。なのにあんたらときたら、話は聞かねえわ襲ってくるわで、恩知らずもいいとこだ」


「そうか。ミファーの話と大筋はあっているな......」


 イールは、何か考えるような素振りを見せる。


「よし。腹が減っているだろう、何かご馳走しよう」


「どういう風の吹き回しだ」


「どうもないさ。ただ族長が君に興味があってね。食事でもしながら話でもと」


「まあ、ご馳走してくれるってんなら何でもいいさ」


 うまく族長に取り入れば、もしかしたら逃げるチャンスが生まれるかもしれない。どのみち牢屋に入れられては身動きが取れないし、悪い提案ではない。


 また手を縛られ、再度目隠しをされると、イールに引かれながら牢を出た。


 次に目にした光景は、テーブルに並んだ食事と奴らの言う族長と思われる初老の男だった。見れば同じテーブルにミファーともう一人の男の姿がある。


 イールに縄を解かれ席につくと、族長が話しかけてきた。


「ダリスだ。この村で族長をやっている。君が例の人間か。ミファーが世話になったようだな」


「いえ、当然のことをしたまでです。私のことはルッセウトお呼びください」


 族長に取り入るため、精一杯の作り笑いでなるべく好印象になるよう努める。


「珍しい男だ。人間なぞみな卑劣な生き物であると思っていたが」


「確かに、私の周りにはあなた達のことをまるで物のように扱う者達もいます。ですが、皆がそうではありません。もっと私のような考えの人間が増えれば、いつかはこのわだかまりも解ける日が来ると信じて、今まで生きてきました」


 気に入られようと力が入り、軽く演説のような台詞になってしまったが、命がかかっている以上大げさなくらいが丁度いいだろう。


「そうか、そうとは知らずハリスが迷惑をかけたようだな。話は聞いている」


「いえ、我々人間がしてきたことを思えば、むしろ当然です。ハリスさんのお怪我は?」


「まだ意識は戻らんが、治療を続けていればそのうち良くなるだろう」


「そうですか。それは良かった」


 族長の反応を見るにまずまずの印象といったところか。


「しかし、この森でルッセウに勝てる人間がいるとは驚いた。随分腕のたつようだな」


「いえ、運が良かっただけですよ」


「ははは。それは嘘だよ。ハリスはまぐれで負けるような男ではない」


 イールの横槍で折角の謙遜が台無しだ。


「まあたまたまですよ」


「少なくともこの森でたまたま負けるような鍛え方はしていない」


 ここで、せっかくの姿を消したのに音は消せてないとか、隙の大きい大振りで斬りつけようとしてきたこととか、指摘するのは簡単だが、心象を悪くしたくないので別の話題に切り替えることにする。


「はあ、それよりこのお肉美味しいですね、なんの肉なんです?」


 だが、空気を読まず族長が話に続く。


「ルッセウ、君の腕を見込んで実は頼みがあるのだ」


「頼みですか?」


「食べながらで構わないので聞いてくれるか。実はな私の娘でもあるこの村の姫が人間どもに攫われてな、助けようにも訳あって戦士達を向かわせることが出来ないのだ。それに、人間である君なら人間達の情報に詳しいだろう。勿論、報酬は出す」


 姫の救出か、大きく出たな。しかし、悪くない話だ。受ければ村の外に出られるし、結果がどうであれ村から脱出してしまえばこちらのものだ。


「いいでしょう。それで、報酬とは?」


「受けてくれるか! 報酬は言ってもらえれば叶えられる範囲で用意しよう」


 妖精の一二体と言いたいところだが、言えば問答無用で打首だろうし、妖精の中でも高く売れる素材といえばあれだろう。


「なら、妖精のもつ羽根を頂きたい」


「羽根、羽根か」


 一同の顔がにわかに歪むのが見えた。まずい、しくじったか。


「いや、分かった用意しよう」


 どうやら思い過ごしのようだ。


「では、あとの説明はイデアルからさせよう」


 そう言って族長は席を立った。


「おい人間、ルッセウといったか。一度しか説明しないからよく聞くように」


 族長と違ってこの眼鏡の妖精は偉そうである。


「仕事を受けるにあたっていくつか条件がある。まず一つ、監視を付けさせてもらう」


 それくらいは想定内だ。


「そしてもう一つ、期限はニ週間」


 ニ週間とはこれまた短いが、どのみち姫を連れてこれば文句はないだろうし、あって無いような期限なので表面上は条件を飲む。


「まあ努力しますよ」


「努力では困るのだ。お互いにな」


「お互い?」


「ああ。実はお前の食事に毒を盛った」


 イデアルが空になった瓶をテーブルに置く。


「はぁ?!」


 あまりの驚きに思わず席を立ってしまった。


「静かにしろ」


「静かにって、頭おかしいんじゃねえか!」


「黙って聞け! いいか、毒の効果が出るのは約一週間後、それまでに姫様を連れてこれば解毒剤を渡そう。勿論報酬もだ」


「ふざけんじゃねえ! 今すぐ寄越せ!」


 衝動的に掴みかかりそうになるが、イールに剣を突きつけられ動けなくなる。


「途中で仕事を投げられても困るのでな。なに、期限を守ればいいだけの話だ」


「あーー! クソッタレがよ! いいぜやってやるさ! その代わり嘘は無しだ!」


「分かればいい。イール、後は頼んだぞ。この人間は煩くてかなわん」


「承知した。ということで、悪いなルッセウ」


 そう言ってまた俺は目隠しをされた。

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