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終わり

 首をなくした胴体が、何かを探すように辺りをさ迷い始める。


 そうして、広場の中央にある噴水まで辿り着くと、力なく倒れそれっきり動かなくなった。


 振り替えると、ディルが血溜まりの中で倒れているのが見え、駆けよった。


「ディル! 聞こえるか?」


「ああ。やったなルッセウ。これで終わりだ。......羽根は俺達の物だ」


「そうだ! そうだよ。今医者を呼んでやるから、だから、それまで死ぬんじゃねえぞ!」


「当たり、前だ。こん、な、とこで死ねるかよ。これからだ、これ、から」


「ディル? ディル!」


 ディルの体が徐々に冷たくなっていく。


 俺は、ディルの瞼を閉じると、倒れているミファーの側まで歩いていく。


 変わらず力なく倒れているが、息はしているようだ。


 ミファーを背負うと、隠れていた姫が駆け寄ってきた。


 俺達は、ディルを残してまだ騒然としている街を後にした。


 ミファーが目を覚ましたのは街を出てからしばらく経ってからだった。


 夜も開け、丘の向こうから朝日が昇ってくる。


「ディルのことは、その、残念だった」


「ああ。そうだな」


「それで、その、約束のことなんだが」


 そう言って、ミファーは鞄から液体の入った瓶を一つ取り出した。


「これ、解毒剤だ」


「おま、最初から持ってたのかよ?!」


「ああ。こうでもしないとお前はどのみち死んでたからな」


「どういうことだよ」


「村の者はお前に解毒剤を渡すつもりが無かったんだ」


「はあ?!」


「考えてもみろ。村のことを知ってる人間を馬鹿正直に解放する奴がいると思うか? 毒で死ねばそれまで、もし生還しても村に戻った時点で殺す手筈になっていたんだ」


「なんだ? じゃあどうしてお前は解毒剤なんか持ち出したんだ」


「それは、私にだって道義くらいあるからな。助けてもらった手前、騙し討ちのように殺してしまうのは道義に反するだろう?」


「てこと、報酬の件も」


「無しだ」


「嘘だろ?!」


 俺はその場で頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


「なら、俺は、ディルはなんのためにここまで」


「ミファー、剣を抜きなさい」


 姫は、この期におよんで俺を殺そうとでも言うのか、ミファーにそう指示をした。


「け、妖精てのはどいつもこいつも不義理なやつばかりなのか?」


「勘違いしないで。あなた、羽根が欲しいんでしょ。なら私のをあげるわ」


「姫様! いけませんそんなこと」


「彼も、彼の友人も命の恩人よ。それを手ぶらで帰すなんて妖精の名に傷がつくわ」


「しかし」


「ミファー、これは命令よ。やりなさい」


「......分かりました」


 ミファーは剣を抜くと、ゆっくりと構え姫の羽根を一枚切り取った。


「さあ、これでいいわね」


「あ、ああ」


 目の前の少女の気迫に気圧されながら、羽根を受け取った。


「姫はいつから俺が人間だと気づいていたんですか?」


「あなた、自分で鎧を脱いだこと忘れちゃったの?」


「そうでしたね」


「ルッセウは、これからどうするの?」


「どうもこうも。俺はその場のノリで生きてきたような人間ですから、これからも同じですよ」


「そう。あなたさえ良ければ村に来ない?」


「姫様! さすがにそれは」


「ミファーあなたには聞いてないわ」


「折角のお誘いですけど、俺は人といるのは性に合わないんでね。これからも一人でやっていきますよ」


「そう......。残念ね」


「姫様、そろそろ。まだ人間のテリトリーであることをお忘れなく」


「そうね。ありがとルッセウ。またどこかで会いましょう」


「世話になったなルッセウ。達者でな」


「ああ。次は良き隣人として会えることを願うよ」


 二人の背中を見送ると、貰った羽根を朝日に透かして見る。


 日の光が羽根の中で反射して、虹が幾つも重なったように輝いている。


 俺は鞄にそっとしまうと、次の仕事を探すために次の街へと歩き始める。


 冬はまだ長い。

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