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拒絶反応

 門は、兵士でごった返していた。と言っても、侵入者の俺達を待ち構えている訳ではなく、俺達と同じように逃げているようだった。


 騒ぎに乗じて難なく門を抜けると、焦る二人をなだめて状況を整理することにした。


「で、ありゃなんなんだ? 見たところ皆あれから逃げてるようだが」


「街を出てからじゃだめか?!」


「お前の様子からやばそうなのは分かるが、情報が無いとこれからの行動の正誤の判断が出来んだろ」


「分かったよ! ありゃ領主の妻だ。兵士が話してたから間違いない。二人で屋敷を捜索してたらよ、急に兵士達が騒ぎ始めて、見ればあの女が暴れてんだ!」


「女が暴れてるくらいで何を」


「ただの女だったらこうもなってねえよ! 見たんだ、あの女がヘルメットごと兵士の頭を潰すところを!」


「あんな光景は初めて見た......。私もディルも、あんなものを見たら、あれに立ち向かおうとかそんな考えは出なかったよ」


「じゃ、なんだ。よく分からんが領主の妻が怪力女に変身して暴れ始めたから皆逃げ出したってことか。なんだそりゃ」


 にわかには信じられないが、二人の顔を見ると嘘とは言い切れない。それに、兵士達があれから逃げているのも事実だ。


「とりあえず、その話を信じるとして、要はこの街から逃げるのは変わらないってことだな?」


「そうだよ! 分かったらさっさと行こうぜ。こんなとこにいたら、あいつがいつ襲ってくるか」


 と、言い終わらない内に玄関扉に引き続き、今度は後ろで門が吹き飛ばされる。


 俺を含め皆門のあった方を見て固まっていると、土煙からヌっとあの女が出てきた。


 女との距離は歩数にして10歩程度と、逃げるにしては心許ない距離である。


 俺が彼女の次の動きを伺っていると、ビュンッと音を立てて矢が女の頭に突き刺さった。


 横を見るとディルが弓を構えていた。


 だが、信じられないことに、女が倒れることは無く、更には頭の矢を掴むとそのまま引き抜いたのである。


 その光景に流石に肝を冷していると、


「走るぞぉぉぉぉ!!」


 ディルの叫びで我に返り、脱兎のごとく走り始めた。


「化け物じゃねえか!」


「だから言っただろ! いいから走れ!」


 どれくらい走っただろうか、街の外に辿り着く前に体力に限界が来たため、手近な店に飛び込み息を整えていた。


「あんたら大丈夫かい?」


 店主の男が心配そうに声をかけてくるが、誰一人として返事をする余裕がない。


「ん? お嬢さん、その背中のは」


 しまった。姫の背中のことまで気にしている余裕なんて無かった。バレてしまったのならいっそ殺してしまえば......。そう思っていると、店の壁を何かが突き破って店主を貫いた。


 それは、黒い木の幹のような太い棒状の物体だった。


「なんなんだよこれはよぉ!」


 半ば狂ったようにディルが叫んでいる。


「落ち着け! とにかくここに居るのはやばい! 出るぞ!」


「も、もう行くの? 私まだ息が、上がって」


「そんなこと言ってる場合か!」


 ミファーが姫に背中を差し出した。


「姫、背中に掴まってください」


 ミファーが姫を背負ったのを確認して、店を飛び出す。


 街は地獄の様相に変わっていた。どこから出火したのか炎で包まれ、正体不明の黒い蔦が建物を覆い、太い幹が煉瓦を貫通して崩している。


 街の外を目指して走る。だが、同じように騒ぎに気づいた住人で次第に道は圧迫され、思うように先に進めない。


 後ろでは逃げ遅れた人々が黒い触手に貫かれ、巻かれ、次々に倒れていく。


 無理矢理人の間を縫うように進み、ようやく門まで辿り着いたが、ほっとしたのも束の間、門に並んでいた住人が触手に絡め取られていく。


「嘘だろ! もうこんなとこまで来てやがんのか!」


「とにかくここを離れるぞ!」


 前に進めない以上身を隠す他になく、路地裏に身を寄せる。


「どうする? このままじゃあれがここに来るのも時間の問題だぜ」


「他の門から脱出するのは?」


 ミファーの提案にディルが首を横に振る。


「触手の速さを見ただろ。まず他の出口も抑えられてると考えた方がいい」


「しかし、このままではいずれ街全体が触手に覆われるぞ」


「なら、そうさせなきゃいい」


 俺の言葉に皆が俺を見る。


「あれとやり合おうってのか?」


「ああ」


「馬鹿言うなよ! あんな正体不明の化け物相手に勝てると思ってるのか?!」


「じゃあお前はここで黙って殺されるのを待つってのか? 俺はごめんだね。それに、まだまともに戦った訳じゃないし、案外なんとかなるかもしれないだろ?」


「ふざけたことを言うな。あれと戦うだと? そんな姫様を危険にさらすようなことが出来るか!」


「いえ、彼の言うことはもっともだわ」


 意外にも姫だけが俺の意見に賛同した。


「出口を塞がれているなら、逃げ回っていてもいずれ掴まる。それなら、攻撃に転じるしかないのは分かりきった話じゃないかしら。外からの助けがあるのなら別だけど、そう言う訳でもないしね」


「流石姫様。話が分かりますね。てことで、俺達二人はあれと戦いに行くけど、お二人さんはどうする?」


「......私は姫様の側を離れるつもりは無い」


「やればいいんだろやれば! たく、こんな仕事安請け合いするんじゃなかったぜ!」


「意見が一致したようで嬉しいね。それじゃ行くぜ!」

 

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