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脱出

 大きな人数差に視界不良の状況で、勝ち筋を見出だすのは難しい。ジリジリと距離を詰めてくる相手に注意を向けつつ、必死に打開策を考える。


 ふと、手に持っているランプに目がいった。そして、考えるよりも早くそれを相手に投げつけていた。


 ランプは兵士の一人に直撃し、鎧をアルコールで濡らすと、次の瞬間には燃え上がっていた。


 兵士はパニックに陥り、武器を手放し必死に鎧を脱ごうとする。


 その光景に残りの二人が気を取られている内に、俺は椅子を掴みもう一人に向かって投げつけた。


 二人目の兵士に椅子が直撃するかしないかのタイミングで最後の一人に向かってタックルを繰り出す。


 不意をつくことに成功したのか、予想より簡単に兵士を地面に倒すと、ヘルメットの隙間へ剣を突き刺した。


 隣では椅子に倒された兵士が立ち上がろうとしているので、半壊した椅子の一部を手に取り、兵士の顔目掛けて渾身の力で殴り付ける。


 その一撃が良いところに入ったらしく、兵士が力なく倒れるのを見届け、兵士の剣を奪い取り一人目と同じように止めをさした。


 最後の一人は、まだ炎と格闘している。その背中を蹴って姿勢を崩し、剣で首を突き刺す。


「案外なんとかなるもんだなぁ! なあ?」


 振り返り、白衣の男を威嚇する。


「こ、こんなことが......。お前は一体」


「んなことはどうでもいい。今なら、鍵さえ渡してくれりゃ悪いようにはしないぜ?」


「わ、分かった。渡すから、な?」


 震える手で差し出された鍵を受け取り、ランタンも奪い取る。


「よし、もう行っていいぞ」


 と、男が梯子に向かうために振り返ったところで、すかさず足を切りつけた。


「あぁぁぁぁぁぁ! 何をするんだぁ! 話が違うじゃないかぁ!」


「騒ぐな騒ぐな。命までは取りゃしないよ。ただ、上で騒がれると面倒なんでね。しばらくここで大人しくしといてくれや」


 が、痛みで話を聞くどころではないらしく、ただただ悲鳴をあげ続けている。


 一瞬殺してしまおうかとも思ったが、一応約束はしたので、悲鳴が響くなか牢に向かう。


「つ、強いんだな」


「お褒めいただき光栄です。さあ、開きましたよ」


 姫の手を取り梯子に向かおうと思ったが、渡された鍵にもう一つ鍵がついていることに気がついた。


 もしや、あそこの開かずの扉の鍵ではないかと思い差し込んでみると、予想が的中した。


「脱出しないのか?」


「もしかしたら金目の物でもあるかもしれません。やられっぱなしってのも癪ですし、貰えるもんは貰っていきましょう」


 ぐいっと扉を開けると、先程から漂っていた臭気を何倍にも濃縮した臭いが鼻を襲った。


「なんだぁこの臭いは? 酷いな。姫はここで待っててください」


「そ、そうさせて貰う......」


 臭いからといって金目の物が無いとも限らないし、意を決して足を踏み入れる。


 中に入るとますます臭いを強く感じ、吐き出しそうになりながらランタンの明かりを頼りに進んでいくと、臭いの正体が姿を現した。


「こいつは......、死体か?」


 頭の無い死体が台に載せられ、腹が切り開かれている。さらに、周りをよく見ると無数の頭の無い死体が天井から吊り下げられているではないか。


「なんだってこんなことを」


 吊り下げられている死体の一つをよく見ると、背中に見覚えのある羽根が生えている。


 妖精だ。


 この部屋にある死体の全てが妖精だった。さしずめ、姫の護衛達だろう。


「金目の物と言えばそうだが、妖精の姫様の前で堂々と死体を漁るのは無理だよなぁ......」


 他にめぼしい物も見つからず、これ以上臭いに耐えている理由もないので、早々に部屋を出た。


「どうだった? 中には何が」


「つまらん物しかありませんでしたよ。さぁ、行きましょう!」


 姫の手を取り、今度こそ梯子に向かう。


 白衣の男は、もう悲鳴をあげることはせず、ただ壁にもたれ掛かっていた。


 そんな男を尻目に、梯子を登り外に出る。ここまでは順調だ。後は、二人と合流して無事に屋敷から出るだけだ。


「ミファーは? ミファーはどこにいるの?」


「ミファーとは門で落ち合うことになっています。なに、すぐに会えますよ」


「そうか、なら早く行きましょう!」


 俺だってそうしたいが、外で敵が待ち構えているとも限らない。ここでへまをするのだけは勘弁願いたいので、慎重に外に出る。


 と、外に出た瞬間、兵士が目の前を走っていった。しまった、バレてしまったか。


 だが、不思議なことに兵士は俺達に目もくれず一心不乱といった様相でに門へと駆けていく。


「ルッセウ!」


 名前を呼ばれ振り返ると、ディルとミファーの二人が屋敷から走って向かってきている。


「こっちだ! 見ろ、姫は無事だぞ!」


「ミファーだ! ミファー!」


 俺達二人は再開を喜ぶように手を振るが、向こうの様子はと言うと、どうも二人して危機迫ったような顔をしている。


 もしや侵入がバレたか。


「姫! 無事でしたか!」


 息も絶え絶えに、ミファーは姫の姿に気がつくと包容を交わす。


「ええ! ミファーも無事で良かったわ!」


「そんなことしてる場合じゃないだろ! とにかく今は逃げるんだよ!」


「そうだった! 姫、とにかくここを離れましょう!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ディルもミファーも何をそんなに慌ててるんだよ」


「理由は後で説明する! 今は時間がないんだ!」


 と、屋敷の入り口で何かか爆発したような爆音が響き、思わず音のした方を見ると、屋敷の扉が派手に飛び散っていた。


「来たぞぉ!」


 ディルが興奮気味に声をあげる。


 粉々になった扉を跨いで、女が一人出てきた。


「ありゃ誰だ?」


「そんなことどうでもいいから、早く行くぞ!」


 ディルに急かされ、状況を飲み込めないまま門へと走る。


 走りながら振り返ると、女は中庭の真ん中に突っ立って空を見上げていた。

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