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捜索

 俺は奪った鎧で全身を包み、何食わぬ顔で門に向かう。


 夜も更けて周囲も暗く、ヘルメットを被れば中身が誰かなんてそうそう見分けがつかないはずだ。


「ずいぶん遅いじゃないか。皆もう戻ってるぞ」


 二人いる門番の内の一人がそんなふうに呑気に話しかけてくる。


「へへ、ちょっと飲みすぎちまってな」


 門番の合図で門が開かれれ、通り際に門番の一人をちらっと見る。


「おい、ヘルメットになんか付いてるぞ」


「何かって何だよ」


 門番がおもむろにヘルメットを脱いだ瞬間、俺の肩の上を通り抜けてむき出しになった頭に矢が突き刺さった。


 力なく倒れる門番をもう一人が凝視してい間に、俺は、剣を抜き鎧の脇の隙間から一突きにする。


 続けざまに門の内側に居た兵士の足を蹴飛ばし、相手が転んだところにヘルメットの隙間へ剣を刺し込んだ。


 門番の無力化を確認すると、後方に手を振って合図する。


 合図を見て暗がりから二人が姿を現した。


「す、すごいな。あの距離から頭を射抜くとは」


 ミファーがディルの腕前に感嘆の声を上げる。


「昔なら鎧の隙間を射抜く自信があったんだけどな」


 確かに、全盛期のディルであればわざわざ敵のヘルメットを脱がせる必要も無かっただろう。


 死体を物陰に隠し、中に足を踏み入れる。


 敵が入り込んでいるとも知らず、中庭の警備は手薄なようで、門番以外に兵士が見当たらない。


 だが、中庭を走り抜ければ人目につく可能性があるため、壁の影に隠れて外出を回っていく。


「さて、地下室とやらはどこだ?」


「屋敷の中じゃないか?」


 屋敷に入るにしても正面玄関から堂々と入る訳にはいかない。


 外壁沿いに別の入口を探していると、壁内への扉を見つけてそっと聞き耳を立てる。


 人の気配が無いことを確認して内部に侵入すると、壁内に延びる廊下に出た。


 廊下は明かりが灯っているものの、明るいとは言い難く侵入している身としては好都合な状況だ。


「他の奴らが門の異変に気づくのも時間の問題だ。ここは手分けした方がいいだろ。鎧を着てればそうそうバレることもないだろうから、俺は一人で、お前らは二人で行動しろ」


「そりゃいいが、俺は妖精の姫とやらを見たことが無いんだぜ。見つけた妖精が姫かどうかどう判断すればいい? 囚われてるのが姫一人とは限らないだろ」


「そう言えばそうか。ミファー、姫の特徴とかは無いのか」


「特徴で言えば、右目の下にホクロが一つある。それでも分からなければ背中側の右肩より下辺りに小さな古傷が残っている。ただ、もし本人と話が出来るようであれば『ミィル姫』かどうか聞いて貰えれば分かるはずだ」


「ディル、今の説明でいけそうか?」


「大丈夫だ。で、見つけた後はどうすれば良い?」


「可能なら門で集合してほしいが、難しいようならそのまま脱出してくれていい。屋敷を一周して見つからない場合も門で集合だ。いいな」


 二人は頷くと、屋敷とは反対側へ消えていった。


 隠し物と言えば誰だって目の届く範囲に置いておきたいはずだ。となると、屋敷の中心を目指すのが良いだろう。


 なるべく不振に思われないよう、堂々と廊下の真ん中を歩いていく。


 早速、向こうから同じく鎧を着た二人組の兵士が歩いてくるが、やはり廊下が暗いこともあった顔までは見えない。


 すれ違いざまにチラリと見られた気がしたが、話しかけられることもなく、すんなりと通ることが出来た。


 それから数人とすれ違い、その内の誰一人として俺を不振に思わないのを見て、いい気になってガチャガチャと音を立てながら廊下を練り歩いていると、開けた場所に出た。


 部屋の真ん中には二階へと続く大階段があるのを見るに、屋敷の玄関口といったところだろうか。


 俺はそのまま目に入った扉に近づくと、中から話し声が聞こえ、ノブにかけた手を引っ込めてそっと耳を当てた。


 どうやらメイドか何かが居るらしく、女性二人の話が聞こえてくる。


「......正直、ダメかも知れないわね」


「何バカなこと言ってるの。ご主人様に聞かれでもしたら......」


「奥様の今の姿を見たらそんなこと言ってられないわよ。見てるこっちが辛いくらいなんだから」


「そんなに酷いの」


「ええ。あと幾日もつかしら」


 領主の嫁の話をしているらしいが、どうやら余り容態が良くないらしい。


「そうそう、あの出入りしてる医者見た? どこで奥様のことを聞いたか知らないけれど、気味が悪いわ」


「どうしてよ。見た感じ普通じゃない」


「見たのよ。薬だか何だか知らないけど、奥様に......」


「そこで何してる」


 声に反応して心臓が跳ね上がり、反射的に振り向くと見知らぬ男が立っていた。


 鎧ではなく襟付きの派手な服を着ているところを見るに、貴族だろうか。


「あ、いやそのー。ちょっと腹の調子が悪くって、もたれ掛かってたんですよ」


 どう考えてもそんな風には見えなかったであろうが、苦し紛れに適当な言い訳を話す。


「そうだったのか。大丈夫か? 丁度先生が来てるんだ。診てもらうか?」


 うまいこと誤魔化せたようだが、先生と言うのは医者のことだろうか。診察となれば鎧を脱ぐことになるので、それだけは避けなければ。


「いや、ほんのちょっと痛かっただけで、もう良くなりましたから」


「何かあるといけないから診てもらった方が」


「大丈夫、大丈夫ですよ。ほら」


 その場で大袈裟に何度か屈伸して健常であるのをアピールする。


「じゃあ、仕事に戻りますので」


 返事をさせる間もなくさっさとその場を離れた。


 そのまま大階段を上がり一目のつかない物陰に身を潜める。


 ひやひやしたが、先程のあの会話、危険を冒しただけの価値はあっただろう。


 領主の嫁の病気、不審な医者の姿、妖精が絡んでいる可能性が高い。無闇やたらに歩き回るよりも医者を捕まえた方がいいかもしれない。


 大階段を上がったついでだ、二階から探すとしよう。医者がいるとすれば病気の奥方の部屋だろうか。


 一部屋一部屋扉を開けて確認する時間もないので、ここはこの格好を利用させてもらうとしよう。


 物陰から身を出すと、屋敷の関係者を探すため歩き始める。


 すぐに兵士を見つけると、小走りで近づいていく。


「おい、ちょっといいか?」


「どうした、そんなに慌てて」


「旦那様に奥様の部屋にすぐ向かうよう言われたんだが、場所をどわすれしちまって。どこか教えてくれ」


「間抜けな奴だな。この先突き当たりを曲がった少し先の部屋だろうが」


「あ、ああそうだった。いやすまん、助かったよ」


「たく、しっかりしてくれよ」


 俺は、廊下を小走りに進み突き当たると、丁度屋敷の角になっおり、左に向かって更に進む。


 あとは人の声を頼りに、それらしい部屋を探すだけだ。

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