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居場所

「......今なんと言った」


「分からないならもう一度言ってやる。あの兵士を誘惑して来いって言ったんだ」


「な、なな、なんだと!」


 ミファーが顔を赤らめ体を震わせる。


 ディルは、俺の考えが分かったのか横でケタケタと笑っている。


「そりゃいい! なんで今まで気づかなかったんだか」


「だろ? こいつは背中さえ見せなけりゃ、ただの女だし顔を悪くない。兵士の一人や二人だまくらかすなんて難しくもないだろ」


「なにを勝手に盛り上がってるんだ! この私に、人間の男を誘惑してこいだと! ついに気でも狂ったか?!」


「狂っちゃいねえよ。察しの悪いお前さんに一から説明してやる。まず、あそこの兵士一人をどうにか誘惑して、それから俺たちの宿まで連れてこい。そしたら後は俺達二人で奴から情報を搾り出してやる」


 俺の説明を聞いてようやく理解したらしく、震えた拳を下ろすと、ゆっくりと席についた。


「だ、だが、私に出来るだろうか」


「出来るかどうかじゃない。やるんだ。姫を助けるんだろ」


「そうだが。そうは言われても」


「なにモジモジしてんだよ。生娘でもあるまいし」


「.......」


 ミファーの沈黙の意味を理解し、ディルと顔を見合わせる。


「まじかよ」


「わ、悪いか! そもそも我々はお前らのように年がら年中発情するような下等な生き物じゃないんだ!」


「そうカッカすんなって。悪かったよ」


「だが、やってもらわなきゃ進めようがない。男なんて尻ふってちょっと優しく声かけてやればホイホイ着いてくる生き物さ。大丈夫、処女でもやれるやれる」


「処女と言うな処女と! 人間相手にそんな下劣なことができるか」


「でも、姫を助けたいんだろ?」


「それは......」


 処女だからといってやらないとは言わせない。


「ここで待っててやるから、パッと行って声かけてこいよ」


「こうしてる間にも姫が助けを持ってるぜ」


「分かったやればいいんだろやれば! 後で覚えてろよ!」


 ミファーは勢いよく席を立ち上がると、そのままの勢いで兵士に向かう。


「大丈夫かあれ」


「さあ?」


 まあ、男なんて女が声をかければホイホイ着いていってしまうのは事実だし、あまり心配せずにミファーの背中を見ていると、そのまま兵士を通りこしてぐるっと店内を一周して戻ってきてしまった。


「なにやってんだ?」


「......無理」


 と、か細く泣くような声が聞こえた。


「ディル」


「はいよ」


「娼婦に金握らせてこい」


 ディルが娼婦を探している間、俺達は店の前で兵士を待つことにした。


 しばらくして、食事を終えた兵士が店から出てくるのを確認して、ディルに合図を送る。


 ディルの用意した娼婦が兵士を声を掛けると、流石商売にしているだけあって兵士はまんまと娼婦の尻を追いかけ始めた。


 俺達は先回りして宿に戻ると、兵士が部屋に入るのを確認して扉に聞き耳を立てる。


 いくつか言葉を交わすのが聞こえ、準備が整ったらしく中から娼婦の合図が聞こえた。


 俺はゆっくりと扉を開けると、いままさにことをおっぱじめようとしている男の背後から首を絞めた。


 突然のことになすすべもなかったのか、兵士は少しの間暴れた後、気を失ってベッドに倒れ込んだ。


 娼婦に金を払い厄介払いすると、ディルを部屋に呼ぶ。


「ミファーは扉の前で誰か来ないか見張ってろ」


「わ、分かった」


 男を椅子に縛り付け目隠しをして、目を覚ますのを待つ。


「うぅ......」


 男がうめき声をあげるので、頬を叩いて意識をはっきりさせる。


 男はしばらく朦朧としているのか、ゆっくりと頭をグラグラ揺らしていたが、自分の置かれている状況を把握したようで、突然動きを止めると声を上げた。


「な、何だこれは?!」


「起きたか。早速で悪いが、今からお前に質問するから、はっきり聞こえるように答えるんだぞ」


「何を、ぐぁぁぁぁぁぁあ!」


 と、男が言い終わらないうちにむき出しの下半身を踏みつける。


「誰が話していいって言った。お前は質問に答えるだけだ。いいな」


 男は黙って頷く。


「よしいい子だ。ここ数日のうちに屋敷に何か大きな荷物が運び込まれたりしたか?」


「い、いやそんなものは見てない」


 ディルに目配せをして男の口を塞がせると、今度は太ももに剣先を軽く突き立てる。


「嘘付いてるんじゃないのか?」


 男は口を塞がれ、ガタガタと震えて首をふる。


「じゃ、次だ。屋敷の中で誰か囚われてるのをを見たか?」


「そんなの見るわけ無いだろ!」


 口を塞ぐためにディルへ目配せをすると、気配を感じたのか男が震える。


「待て! 本当なんだ信じてくれ! そ、そうだ。妖精なのか知らないが、使用人の一人が何処かに食事を届けてるのを見たことがある。きっと、探してるやつはそこにいる!」


「ほんとかー?」


「本当だって信じてくれ! そうだ、屋敷の中には地下室があるんだ。きっとそこだ!」


「それじゃ今からそれが本当かどうか見てくるから、帰ってくるまでここで大人しく待てるな?」


「あ、ああ」


 ディルは俺の頷くのを見て、男の首に腕を回して締め上げる。


 男はしばらくもがいたのち、事切れた。


「ミファーもういいぞ」


 ミファーは扉を開けるなり、死体になった男をみて硬直した。


「バカ! 早く閉めろ」


「す、すまない。殺したのか?」


「ああ。なんだ、解放するとでも思ってたのか?」


「そうじゃないが......。その、同じ種族なのに簡単に殺してしまうんだな」


「んだよ。妖精ってやつは人間が憎いんじゃないのか?」


「そうだが。我々は同族殺しなど余程のことが無い限りしないからな......」


 妖精の目すると、簡単に同族を殺してしまう俺達が奇妙に映るのか。


「さて、屋敷に妖精がいるらしいと言うところまでは分かったが、どう潜り込む?」


「それについては心配無用。それを使う」


 俺の目線の先には、男が脱いだ鎧があった。

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