0003 『Doggy House Hound』(作者:ポチ吉様)
◯作品名:Doggy House Hound<Web小説>
◯掲載媒体:
なろう:https://ncode.syosetu.com/n5839el/
◯作者:ポチ吉さん
◯連載状況:完結<令和3年11月1日>
※一奥の過去のイチオシレビュー
『主無き"猟犬"にとっては、絶望郷と化した世界それ自体が"主人"なのかもしれない』
コールドスリープ技術とは、未来への奴隷供給装置。
そんな"奴隷"の一人だった主人公の青年は"兵士"となります。平時では開花し得ぬ"人殺し"の才能が、たまたま、少しだけマシな道を切り開いたのです。
しかし、それだって「金を稼ぐ」という最低ギリギリを保つ上での一芸でしかない。兵士から脱しても、"傭兵"として、敵対する人間やエイリアンを撃つ日々は、やっぱり変わらない。
それでも、旅の中で増えゆく「守るもの」のため、命すら賭け金にしてしまうからこそ、支えようとする仲間達も在る。"道具"として扱われる機械生命体達が、いかに主人公と友情を育み、かけがえの無い"友"として全霊を賭していくかも、本作の読みどころ。
善き旅路を、そんな言葉を贈りたくなるハードボイルドな傭兵譚です。
***
<以下、本文>
世界ってやつは最悪だ。
……何が最悪か、だって?
強大過ぎて話が通じない侵略勢力に蹂躙されて、人類が滅びつつあることなんかじゃ、ない。
そんな状況でも人間って奴は、未だに互いに残されたパイを奪い合って、出し抜きあったり机の下で足を踏み合ったりしてるって状況ですら、ない。
――そんな世界の中でも、利用する者と利用される者が分かれちまって、親兄弟、親友、師匠と弟子ですら、ちょっとした状況と、あとはささやかなる何かを守るためにどうしたって必要な「マネー」のために、昨日まで仲良く話していた同士が次の瞬間にゃ敵味方に分かれて、どこまでもどこまでもビジネスライクに殺し合わなきゃならないことが、最悪ってやつなんだ。
そんな世界で、心から信頼し合える関係なんてできるのか?
そんな世界で、背中を預け合って地獄まで付き合ってくれる"友"なんてできるのか?
ドライに生きりゃいい。利用して、利用されて、奴隷のように使い捨てられるか使い捨てる側になって。
死肉を喰らうハゲワシやハイエナの方が、まだお行儀が良いってもんだとは思わないか? ――だって連中は、喰らうための死肉を作り出すために、まだピンピン生きて元気な奴だって死体に変えちまうための算段を、どいつもこいつも腹の底で黒く黒く思い染めているに違いねぇんだからよ。
……だから、さ。
"彼"はあんまりにも不器用すぎるんだよ。
来る世界の危機のために、過去からコールドスリープされて未来に送られた「英雄」だって?
ただの人間貯金(物理・冷凍)だろうが、それってよ。
理想と思想は大層なものだったのかもしれないが――結局は、送り込まれた未来の世界の小狡い連中の道具として金のなる木扱いされて使い潰されるのが落ちだろうがよ。
……ただ、ほんの少しだけ、敵をぶっ殺すのが得意だって才能が、コールドスリープされる前の世界で役に立ったかどうかはわからないけどよ。
それでも、身よりも何も無い中で道具みたいに――それ以外の才能は、コミュ力もビジネス力も含めてからっきしなんだから――利用されちまうんだ。
なのに、なんてぇそいつは純粋なんだろうな。
どうして、そこまでして必死になれるんだろうな。
強烈な信念があるわけですら、ねぇんだよ、そいつはさ。
――だから。
"そいつら"は、"そいつ"を見捨てられねぇんだ。
どこの誰よりも"そいつ"が、彼が、見ていてあんまりにも痛々しいからな。
共感性心痛なんて症状があったら、そいつらはみんな揃ってそれに罹患してしまった、いや、させられちまったって言ってもおかしくはないんじゃないか?
――人間ではない、ただの兵器が、どこまでもどこまでも"彼"のために、命を賭けてよ。
世界は最低で最悪だ。
滅びに向かいながら、なお、生きている奴は他の生きている奴から分捕るためにそのエネルギーを使って尽くして果たして果てるしかない。
信じられる奴なんていない――滅多には、な。
これは「友情」の物語だ。
この世紀末にして終焉をゆっくり迎えていく、死にゆく終末の世界で――だが、それでも、彼らは確かに彼を「友」と呼んだんだ。
そこに至るだけの不信がある。
そこに至るだけの経緯がある。
そこに至るだけのドラマが、ある。
駄目人間のくせに。
「英雄」だなんて呼ばれるにはふさわしくない、よわっちくて、殺す才能以外は何も無い奴のくせに、だからこそ、そんな彼が見ていられなくて――そしてどうしても、少しでも、幸せになってほしいと思ったから、彼らは彼を「友」だって呼んだんだよ。
いじり倒しながら。
でも、同時に我が子みたいに見守りながら。
無茶振りされながら、一緒にクソみたいな戦場を駆け巡りながら、それでも、彼らがいなかったら彼は無かったし、それがわかっていたから、だから、彼は彼らに「死んでくれ」と頼むことができたって言ってんだよ。
灰色に霞むような世界だ。
おままごとみたいに綺麗で美麗で、甘っくてとろけちまうような線で描かれた世界じゃあ、ない。
たばこの煙が灰に霞んで、掠れて、今にも崩れ落ちそうになってしまうセピアな色合いがお似合いの世界さ――だが、そんな、そんな最高に「映えた」世界だからこそ、普通じゃ絶対にあり得ないような、そんな絆を結んだ彼らの友情がどうしても胸を突くんだよ。
彼らが――モノズという名前の兵器達が、どうして彼を「友」と呼ぶようになったのか。
これは、そんな物語なんだ。
「英雄」っていうのはそういう意味じゃ結果論に過ぎないよな。
だが、磔にされて民衆の色々な感情をぶつける器としての英雄じゃあないんだ。
確かに己のことを「友」と呼んでくれる、そんな奴らがいると信じられて、それで、客観的にじゃなくて主観的な意味でそうなれる、そう自認できるとしたら、その意味では彼は本当に幸せなんだろうよ。
深淵の、クソのような奈落の底に希望があるんだとしたら、これはそういう類のもんだろ。
こんなことを言ったら"彼ら"は、こぞって全身の回路をショートさせんばかりに、あるいは犬の涎の沼の中に投身自殺でもしたくなるぐらい身悶えするかもしれないがよ。
――「友情」の物語なんだよ、こいつはな。
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