0001 『変身しないで縺ゅj縺ちゃん』(作者:夜明様)
◯作品名:『変身しないで縺ゅj縺ちゃん』<Web小説>
◯掲載媒体:
なろう:https://ncode.syosetu.com/n1222gj/
ノベルアップ:https://novelup.plus/story/511198643
◯作者:夜明さん
◯連載状況:完結<令和5年5月28日>
※一奥の過去のイチオシレビュー(転記)
『悪夢と絶望、狂想と羨望のジュブナイルは「鬲疲ウ募ー大・ウ」の形で現れる』
貴方に夢はありますか。
その夢は何物にも代えがたいものですか。
たとえ、何を犠牲にしても。
貴方は夢見る幼子ですか。
夢の中に生きる無垢なる魂ですか。
――しかし人は、己の皮膚を破り血を噴き出しながら、性徴して成長していく。全てが蜂蜜色に見えたパステルな世界が、灰色の泥濘と血色の霧の中にただ漂い、キリキリと舞うものだと知っていく。
それでも彼女は、夢を掲げる。
夢を見る者から、誰かに夢を見せ、夢を紡ぐ者へと。
狂気と幻想という瘡蓋に覆われた、どこまでも痛々しくて、そして切なく愛おしい、ジュブナイルな夢 戮譚は「鬲疲ウ募ー大・ウ」の形で降り立ちます。
どこか刺すようなノスタルジックさの中に秘められた深淵を見つめる時、貴方はきっと、見つめ返す「怪物」が、縺ゅj縺ちゃんだけではなく自身の中にも在ることに気付くでしょう。
人は、変身しないために、変身せずにはいられない生き物なのですから。
***
<以下、本文>
魔法少女は人々に夢を与える。
誰にも、己の心の中に、夢と憧れがあること、世界はきっと綺麗で、きっと美しくて、嫌なものや悲しいものを乗り越える力があると信じさせる、そういう象徴である。
生きる力と活力を与え、ともすれば暗さが見えてしまう世の中にあっても、灯火となる何かは確かにあるのだと信じさせてくれる。必ずしも、応援する者やそれを観劇する者自身が魔法少女ではなくとも(当然だが)、しかし、そこに一体感が宿ることによって、その身をその在り方を通して、そうした大切な何か――「きらきら」と擬化された、そんな何かを与えてくれるものである。
ある意味では、現世と幽世を繋ぐ、現代における"巫女"の一形態でもあると語る視点も珍しくはなかろうが――だが、この物語のヒロインは、どこまでも魔法少女なのである。
まぶたを閉じたその裏側の、青色に蠢いてゆらめくその不定形の深淵の中から、姿を現し、時に我々の五感をも支配するようなおぞけを放つ、その概念の具象と具現という意味における「怪物」である。
魔法少女にして、怪物である。
怪物にして、魔法少女なのである。
おそらくは最も対極にあると言える概念の、その狭間が一人の少女に宿ることが意味するのは、それぞれによって顕される概念同士の我々の認識のうちにおける対比であろう。
「魔法少女」を通して我々は閉じこめられた夢を見る。
「怪物」を通して我々は啓かれてしまった恐怖を知る。
いずれも、彼女の夢であり恐怖であり――そして自分自身によっては認識することすらできなかった、連綿か、はたまた脈々か、さもなくば蝶が羽ばたいて雷に打たれるが如き複雑系の気まぐれによる偶然のものでしかない――そんな因果と因縁の果てである。
本作を読んで、夢に焦がれれば良いのか。
はたまた、怖気と悍ましさと、目を向けたる深淵の在り方、つまり怪物の形を取った貴方か私自身の内面に潜む不定形の揺蕩いたる恐怖そのものを見れば良いのか。そうしたものに直面するあなたが感じる恐れと吐き気は、しかし、その暗闇の中に潜む不定形の形の在り方をその怪物の在り方に、なんとか、押し込めて受け止めることで、彼女と彼と彼らと私と、そして貴方自身の内面に踏み込んでいく、恐怖なれども甘美なる営みであるのか。
――だが、私達は知っている。
あるいは知り得て、そして思い出す。
怪物を生み出すものが何であるのかを。
知られず、不定で不気味にそこに形無く漂うからこそ、それは恐ろしくあるいは悍ましい。
これは決して、物理的に不定形の形状である生命であることや、数多の色を混ぜ合わせた結果の黒色が不定であるという、境界の曖昧さのみを指して述べる言ではない。
見つめ続けることで、そして見つめられることで。
認められ、そして識られることで、怪物という名のヴェールの裏側には、きっと純なるものが、澄んでいたものが、歪められねじ伏せられていながらも確かにそこにあった、何か、着の身着のまま飛び出した旅人がお守りのように手の中に握った淡く光る小石のようなものがあることに気づく。
本作は、そうした過程の物語でもある。
其れが怪物であるのか、魔法少女であるのか、あるいはヒロインかヒーローか、はたまた希望か恐怖か、それとも己であるかを決めるのは貴方であり、彼女自身である。
人が怪物を生み出す。
人の見方が、ただ単に一部がそう視えているというだけで、ありもしないその裏側に無限の己の眼下の青い暗闇を投影して膨らませることで、暗鬼により促成されたる疑心と共に次々に"怪物"を見出すが――同時に、それが必ず消え去り、そこに確かな、大事な、たどたどしく荒削りではあれども心に残るべき何かを定める意思を残すものであるということを私達は知っている。
怪物は人によって生み出され、しかし、人によって消え去るのである。
だが、単なる妄想として消え入るに過ぎないのは、それがただただ只の怪物であればの話。
林檎の打撲痕によってザムザが家族か周囲かはたまた貴方か私の周囲に漂っていたあらゆる膿と穢を引き受けて消え去るまでもなく、消え去るのが怪物の役目である――。
――では、怪物であると見られていた、只の少女は?
物語に現れる彼の、彼女の、彼女自身の、その認識の中に膨れ上がった怪物が弾けるべくして弾けて、その後に残ったものは?
ただ、消えるのではない。
泡沫か白昼の亡失の夢と同じなのではない。
概念という意味において消え去り、具体的な文言その他あらゆる認知機能によって定義し説明できうる形にまで矮小化され、零落した、その後に残された、ものにこそ我々は大事なものを見出す。
そこに最も純粋で、大切な、しかしその過程を経なければ酷く陳腐で、共感性羞恥の無い人間にまでそれを発現させて見ていられなくさせてしまう痛々しい何かを――酷く、酷く、酷く、素直なまでの形であなたの心の中に積もらせるのである。
これは、魔法少女「と」怪物の物語。
これは、魔法少女「が」怪物の物語。
これは、魔法少女「の」怪物の物語。
これは、魔法少女でもなんでもない少女と、彼女を取り巻く人々の物語。
夢と、願いと、生の醜悪さと容赦の無さのその象徴という意味における臓物の物語である。
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