エミネムの戦い①
エミネムの周囲に風が渦巻いている。
そして、冷たい目をアロンダイト騎士団スペースに向けた。
イフリータは、ロディーヌに言う。
「ロディーヌ。あいつの神スキルは『神風』だ。エニードが吹き飛ばされたのを見たか?」
「そりゃ、目の前だし……」
「……技は見えたか?」
「竜巻。気づいたら発生してて、エニードが観客席に吹っ飛ばされた」
「……突きだ。奴は、突きで正面に竜巻を飛ばした。その速度、私よりも遥かに上……やはり、侮れん」
「ま、勝ち抜き戦だしね。勝てないとしても、少しは削ってくるよ」
剣を手に、ロディーヌはステージに上がる。
エミネムは、冷たい目をしたままだった。
「こ、こっわ……」
「申し訳ありませんけど、遠慮できません」
「いいよ。あたしだって、アロンダイト騎士団の一人。普段は怠け者だけど~……やるときはやるしね」
「その心意気、よし」
───試合開始。
エミネムの槍に風が付与される。
そして、ロディーヌに向けて放つ瞬間───ロディーヌが消えた。
いたのは、背後。
一瞬だけ消えたような速度で走れる『急加速』のスキル。その力で、エミネムの背後に回った。
そして、剣を振り背中を斬りつけようとするが。
「っ!?」
弾かれた。
目に見えない《何か》が、エミネムの背中を守っている。
「風は『気流』です。私は風の流れを操作できる……つまり、そのまま留めておくこともできますし、密度を上げれば鋼鉄よりも硬くすることができます」
エミネムは、後ろを振り向かず言う。
「『風盾』……ラスティス様のおかげで、風の使い方をいろいろ学べました。ふふ、サティさんが雷を磁力に応用したように、私もいろいろ応用させる知恵をつけました」
「あらら~……」
「では───お疲れ様でした」
竜巻に吹き飛ばされ、ロディーヌも観客席まで吹き飛ばされた。
◇◇◇◇◇◇
イフリータは、言う。
「……お前たちでは、勝ち目がない」
「で、ですよね……」
「……悔しいですが、勝ちの目が見えませんわ」
カリア、ブランゲーヌが青い顔で言う。
二人はもう、エミネムに呑まれ恐怖していた。
決してこの二人の技量が低いわけではない。スキルも持っているし、戦闘力は王国騎士よりも上。
だが……エミネムは、それ以上。
自分が強いからこそ、エミネムの強さが理解できる。そして、敵わないと気付いてしまった。
すると、二人の肩をガシッと組むリン。
「わっはっは!! 勝てぬなら、諦めてみよう、騎士の道。お二方、勝ち目がないからと戦わずして諦めるのは、騎士の恥ですぞ」
「……リンさん」
「言いますわね。勝てずに挑み無駄死にするのは、恥でなく愚かでは?」
「うむ!! 愚かで、恥。つまり、生きる価値などない!!」
きっぱり、笑いながら言う。
これには、カリアもブランゲーヌもムッとした。
「あなたは、勝てるというの?」
「そ、そうですよ。リンさん、今の言葉は、さすがに失礼です!!」
「わっはっは。拙者は、勝てる戦いも、勝てない戦いも、胸を張って挑めば、それだけで意味があると思いますぞ。カリア殿、ブランゲーヌ殿……お二人は、誇りあるアロンダイト騎士団であろう? だったら、皮算用などせず、誇りを胸に挑めばよろしい!!」
「「…………」」
「では、先に拙者が参る。見ててくだされ、拙者の剣を!!」
リンは、『刀』を手に、ステージに上がった。
エミネムはリンの武器を見て、眼を細める。
「その剣……」
「おお? そなた、見る目がありますな。これは『刀』という、東方にある島国の剣です。拙者の故郷の武器であります」
「……ラスティス様のに、似てる」
「おお、同じ武器を扱う者が!! ふふ、ぜひお会いして、話を聞いてみたい!!」
「……なんかイヤだからダメです」
───試合開始。
「参る!!」
「『風渦巻』!!」
槍を回転させると、竜巻が発生した。
観客席まで影響を与えないよう、調整された風。
細かいスキル制御。リンは笑った。
「はっはっは……これは、勝てませんな!! だが、一矢報いる!!」
リンは風に向かって飛び込む。
風圧で足が止まる。前から押す力に、足が耐え切れない。
リンのスキルは、相手に接近しないと使えない。射程内に入れもしない。
「終わりです。『風雅突』!!」
「ぬっ!! っぐぅぅぅぅぁぁ!!」
風の槍を真正面から受け、リンは拭き飛ばされた。
◇◇◇◇◇◇
「……リンさん」
「…………」
リンは観客席に激突し、気を失っていた。
カリア、ブランゲーヌもその姿を見ていた。
イフリータは言う。
「あれが、誇りを賭けて戦った者の姿だ」
「「…………」」
「私には、恥にも愚かにも見えないが……お前たちは、どうだ?」
ブランゲーヌは、小さく笑う。
「なかなか、魅せてくれましたわね。ふふ、もう……熱くなってきましたわ」
カリアも、震える手で剣の柄を握る。
「かっこいいです……私も、あんな風になりたいです!!」
イフリータは頷き、二人に言う。
「私は、無駄死にしろとも、諦めろとも言わん。だが……自分に、アロンダイト騎士団に恥ずべき戦いはするな。その結果がどうあろうと、私はお前たちを誇りに思う」
「「…………」」
「それに、最初から負けると決めつけるな。お前たちは強い……勝ってこい」
「「はい!!」」
結果。
二人は同じように、風で吹き飛ばされた。
でも……その表情はどこか満足そうだったという。
◇◇◇◇◇◇
五人が医務室に運ばれ、イフリータは残った一人……デボネアを見た。
今までのやり取りを見ていたのに、まるで興味がなさそうにしている。
「デボネア」
「何?」
「お前の番だ」
「ええ、わかった」
「……お前、何を考えている?」
「殺すこと」
サラリと言い、イフリータはデボネアを睨む。
「お前のことを調べた。デボネア……いや、『神毒』」
「…………」
「暗殺者だそうだな。暗殺に失敗し、処刑されるところをお父様に救われた。お前の毒で死なない生物はいないという」
「それ、嘘。時間をかければ殺人毒も生み出せるけど、時間が必要なの。こういう戦いで生み出せるはせいぜい……麻痺毒」
「…………」
ポタポタと、デボネアの人差し指から雫が落ちる。
「そんな物で、戦えるのか?」
「馬鹿ね……毒っていうのは、相手を苦しめるだけの物じゃないわ。まぁ……見てて」
デボネアは、ステージに進む。
途中、振り返りイフリータに言った。
「ああ、お父様だっけ? 救われたことに感謝はしてるけど、別に父親だなんて思ってないわ」
「───!!」
それだけ言い、デボネアはステージに上がった。