天賦の才能、虹の輝き
久しぶりの更新です!
遅くなって申し訳ありません。
ルシオ、イチカ、そしてバーミリオン。
イチカは、ガチガチに緊張しているルシオをチラッと見て思った。
使い物にならない。
最初から、一対一を想定した戦いをするしかない。
イチカは、目の前にいる『怪物』ことバーミリオンを見て、背筋に冷たい汗が流れた。
「かっかっか!! いやぁ、ガキ同士、未熟同士とはいえ、昂る試合だったぜ。こうなっちまったら、女を抱くか、思い切り暴れるしかねえ。手加減はするが、血ぃ見ると思えよ」
「愚問。拙者、負けるつもりはない。それに、拙者の刀も血を吸いたがっている……覚悟することだ」
「かかかかか!! いっちょ前にほざきやがる。そういう馬鹿は嫌いじゃねぇぜ。それと、お前!!」
「ひっ!?」
ルシオがビクッと震えあがった。
バーミリオンはビシッと巨大な槌を振り、ルシオに突きつける。
「ビビッて震えてんのか、緊張して震えてんのか、どっちだ? 緊張してんなら酒をやる。ビビッてんならおうちに帰りな」
「……ぼ、僕は」
「戦いを知らねえガキなら許してやる。だがな……ここに立ち、戦士として臨むんなら容赦はしねえ。さあ、帰るか、やるか、選べ」
「…………」
ルシオは拳を握る。
イチカも、ルシオの覚悟を見ることにしたのか黙っている。
そして、ルシオは弓を構える。
「……ボクだって、ずっと辛い訓練に耐えてきたんです。に、逃げません……!!」
「よーし。じゃあ、やるか。おい兄貴!!」
バーミリオンが叫ぶと、ボーマンダが頷き、手を上げる。
「それでは、試合開始!!」
手が振り下ろされると同時に、ルシオは矢筒から矢を三本抜く。
そして、イチカが身体強化。刀の柄に手を添え、バーミリオンの懐へ一瞬で潜り込む。
「『虹の弓』───『三本の赤い矢』!!」
「『旋風鴉』!!」
三本の炎の矢、そして空間を断裂し、刀を捻ることで空間そのものを歪め飛ばす斬撃。
バーミリオンはニヤリと笑い、左手で大槌を握ったまま、右手を伸ばした。
そして、なんと抜刀中のイチカの腕を掴み引っ張り、飛んで来た矢の盾に使った。
矢の一本はバーミリオンが首を傾けると躱され、残り二本はイチカに刺さる。
「ぐがああああああああ!?」
肩、足に矢が刺さり燃えた。
ギョッとするルシオ。急ぎ神スキルを解除しイチカの火が消える。
そして、イチカを投げ捨てバーミリオンは接近。ルシオはバーミリオンが拳を振り被ったのを見た。
「ほー、見えるか」
ズドン!! と、ルシオが後ろに飛び、拳が地面に激突。爆発した。
神スキル『神爆』は、触れた物全てを『爆破』する、超攻撃の神スキルだ。
爆発した地面の破片がルシオを叩き、ルシオは地面を転がった。
「ぐ、っぁぁぁぁ!?」
「ははは。まだまだ序の口……ほう」
「ッシャアア!!」
イチカが、殺意剥き出しでバーミリオンの首を両断しようと剣を横薙ぎに振る。
だが、バーミリオンはそのまま刀を首で受けた。
「!?」
斬れない。
首で刀が止まっていた。
「身体強化っつうのは、いわば筋力の強化だ。超パワー、超スピードを出すのに筋肉が耐えられるよう、その硬度も増す……つまり、チョイと魔力の分配を変えれば、硬さも自由自在ってわけだ」
「くっ……」
イチカは、肩と足から出血していたが、痛みを忘れ高速で動いた。
身体強化による超速度。そこから繰り出される連続抜刀術。
「『荒犬鷲・夜鬼五月雨』!!」
恐るべき速度だった。
残像が見えるほど、緩急を付けた動き。
バーミリオンを包囲するように動き、接近し斬撃を放つ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「鬼気迫る、ってやつか。かかかかか!! お前、いい傭兵になれそうだ!! が……!!」
バーミリオンが腕を伸ばし、イチカの胸倉を掴み、地面に叩きつけた。
地面に亀裂が入り、イチカは吐血。
「度胸も、殺意も一級品。未熟だが、いい剣だぜ」
バーミリオンの頬に、一筋の血が流れていた。
ほんのわずかに届いた刀。イチカは涙ぐむ……涙を流さないよう、必死に堪えていた。
バーミリオンは微笑み、ボーマンダを見る。
「兄貴、もういい。収穫はあった……このガキども、強くなるぜ」
「うむ……では、勝者、バーミリ……」
と、ラスティスがボーマンダの前に手を出し、止めた。
ボーマンダも気付いた。
「あん?」
「…………」
ルシオが、立っていた。
手にある弓を捨て、腰にある剣を抜き、構える。
その目が、ギラギラと輝いていた。
「なんだろう、見える。できる気がする、わかる……すごく、わかる」
「おいおい、なんだお前……いい目してるじゃねぇか」
「行きます」
ルシオは、イチカに匹敵する身体強化でバーミリオンに迫る。
剣を振るが、バーミリオンは手で受ける。ルシオはすぐに離れる。
「違う。こうじゃない。師匠はどうしてたっけ……サティさんは、イチカさんは……こう、かな」
ルシオは、その場で剣を振る。まるで試し斬りをするように、踊るように。
その様子を、その異質さを、その場にいる全員が見ていた。
そして理解する。ルシオは、今、まさに、成長していた。
「こう、だ……こう、こう」
剣筋が鋭くなる。
そして、ルシオは笑う。子供のように、新しい遊びを見つけたように。
「よし、こうだ!!」
「!!」
身体強化のレベルが上がっている。
魔力を精製するのではなく、周囲から取り込む特異体質のせいか、周囲の魔力が薄くなっていた。
バーミリオンの笑みが消える。
(このガキ……成長してやがる。今、この瞬間にも……!!)
バーミリオンは、背負っていた大槌の柄を捻る。すると、柄が抜けロングソードが現れた。
ルシオの剣を受け止める。
ルシオは、イチカやサティ、ラスティスの剣を真似しようと、身体を動かす。
その速度は、イチカを遥かに上回っていた。
「なんて子……」
「マジかよ……」
「な、何者、この子」
アナスタシア、ラストワン、フルーレが驚愕する。
「……すごい」
「ルシオくん……」
エミネム、サティも目が離せない。
「……ば、馬鹿な」
「…………」
「……天才。そう呼ばれたこともありますが……今では、恥ずかしいですね」
イフリータが唖然とし、ミカゲは無言、ランスロットがため息を吐く。
「……ここまで、とはな。ラスティス、貴様……何をした?」
「何も。ただ、きっかけがあれば化けると思いましたけど……」
ボーマンダは唸り、ラスティスは笑った。
だが、ルシオは終わらない。
ロングソードが砕け散り、ボーマンダと距離を取る。
「剣だけじゃない。もっと強い武器が欲しい……もっと、もっと」
次の瞬間、ルシオの周囲に七つの異なる色の紋章が輝いた。
誰もが愕然とした。
そして、ラスティスが言う。
「嘘、だろ……じ、神器!?」
◇◇◇◇◇◇
虹色だった。
赤い剣、緑の弓、紫の大斧、青いナックル、黄色い双短剣、水色の槍、橙色の盾。
異なる属性を宿した七つの武器が、ルシオの周囲に浮かんでいた。
「『七天虹神器』」
バーミリオンはもう手加減できなかった。
槌を構えると、ルシオは浮かんでいた盾を手に取る。
「『爆裂破』!!」
大地を槌で叩くと爆発する、が……大地に干渉する盾が防御障壁を作り出す。
そして、赤い剣を手にし、ルシオが迫る。
赤い剣は燃え、ルシオが剣を振るうと炎の衝撃波が飛ぶ。
「『赤の飛空剣』!!」
「ぬぅ!!」
バーミリオンは槌で防御。ルシオは剣を投げ、紫電を帯びた大斧を掴み、バーミリオンに向けて振り下ろす。
「『紫の大戦斧』!!」
「おいおい、マジかよ!!」
大槌、大斧の衝撃が地面に亀裂を作る。
ルシオは離れ、ブツブツ言う。
「強い。だめだ。ボク一人じゃ……ボクがもっといれば、全ての武器を使う『ボク』が」
成長が止まらない。
ルシオは笑っていた。
「神虹臨解。顕現せよ、『英雄七曜騎士』!!」
現れたのは、騎士だった。
赤、緑、紫、青、水色、黄色、橙色の全身鎧を纏った、マントをなびかせた騎士。
それぞれが神器を手に取り、ルシオと並ぶ。
そして、ルシオの手に現れたのは、白銀に輝く両手剣。さらに、ルシオの身体が白銀の鎧に包まれ、さながら騎士たちを束ねる王のように見えた。
「『白帝騎士王』!!」
七人の騎士、そして白銀の騎士がバーミリオンに向け武器を向けた。
◇◇◇◇◇◇
「『閃牙・轟』」
◇◇◇◇◇◇
突如、割り込んだラスティスの剣が、七人の騎士、そして白銀の鎧を纏ったルシオを両断した。
騎士が消滅し、ルシオの鎧だけを斬った一撃。
ルシオはすでに意識を失い倒れ、ラスティスがルシオを支える。
バーミリオンは、ラスティスに槌を向けた。
「お前……」
「わかってんだろ。このままじゃ、殺し合いになる。あんたに触発されて、神器はおろか臨解も覚醒しちまった……さすがに異常レベルだ。ルシオの『神虹』が、戦うまでもなくルシオを認めたんだからな」
ルシオはがっくりと気を失っている。
ラスティスは、イチカも抱えた。
「イチカが見てなくてよかったぜ。この成長具合を見せつけられていたら、自信を無くすどころじゃねえ」
「……まあ、いい。そのガキ、大事にしろよ。間違いなく兄貴を、んでランスロットを超える逸材だ。将来の七大剣聖の団長は決まったようなモンだぜ」
「わかってるよ。それと、悪かったな」
ラスティスがボーマンダを見ると、ボーマンダは頷く。
「勝者、バーミリオン!!」
こうして、ルシオの異常なまでの覚醒劇は、幕を閉じるのだった。
書籍3巻準備中です。
コミカライズ企画も進行中!
決して書いてないわけじゃありません。書き溜めはあります……が、通常のペースで連載したら、書籍やコミカライズ始まる前にWeb版が終わっちゃうので……お待ちいただいてる読者の皆様には申し訳ございません。しっかり完結まで書きますので、まずは1話更新します。