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脇役剣聖、報告する

「ギルガ、おいギルガ!!」

「なんだ、騒々しい……」


 馬を走らせ、日が暮れる前に何とか村に戻ってこれた。

 ギルガは執務室で書類の束に目を通りしている。


「ちょうどいい。フローネから報告があった」

「その件で話がある」


 俺は、クロロ山脈で中級魔族と戦った話をした。

 クロロ山脈のドラゴン、そして背後にいる上級魔族のこと……一通り話すと、ギルガは頷いて立ち上がり、俺の元へ。


「こんの、大馬鹿モン!!」

「いっでぇ!?」


 げ、げんこつで殴られました~!! い、いってぇぇ!?


「なな、何すんだ!?」

「慌てて馬で飛び出したから、何かと思えば……クロロ山脈に行ったのか!? なぜ一言説明してから行かない!!」

「い、いや……まぁ、忘れてたというか」

「ほう、まだ殴られ足りんようだな」

「すすす、すまん!! と、とにかく!! 中級魔族は倒したし、上級魔族と、その名前や『二つ名』もわかった!! しゅ、収穫ありってことで!!」

「…………」


 えー、もう一発殴られました!! 

 頭を押さえていると、ギルガは青筋を浮かべたまま言う。


「……とにかく、お前は報告書を作れ。アルムート王国に手紙を出す」

「あ、ああ……」

「ギルハドレット領地で中級魔族が出たとなると、本命はやはり……」

「魔界領地だろうな。上級魔族がいるとしたら、そこしかねぇ」

「……どうなると思う?」

「あ? 王都にはランスロットたちがいるだろ。俺んとこに中級魔族が出た以上は、俺はここから動かないし、動くつもりもねぇよ」

「確かにそうだな。やれやれ……」

「とりあえず報告書を作る。お前は、ラストワンとアナスタシア宛てに俺からってことで手紙書け。あいつらなら動くだろ」

「了解した」


 俺は自分の席に座り、急いで報告書を作成。

 書きながら、ギルガに言う。

 

「……中級魔族なんて、マジで久しぶりだぜ。十四年前の『冥狼侵攻』ん時は、中級魔族なんて当たり前に来てたしな」

「魔界領地と人間界の国境でも、ほとんどが下級魔族との小競り合いだからな」

「上級ともなると、それこそ十四年ぶりだ。あんときは、団長たちが上級魔族を相手にしてたっけ」

「……お前は、ルプスレクスと一騎打ちだったな」

「……あー」


 少し無言になる。この時のことは……正直、誰にもあまり話したいことじゃない。

 すると、ギルガが話題を変えた。


「そういえば、ここにも七大剣聖の一人がいたな。情報を共有すべきだろう」

「だな。今は神経すり減らして休んでるから、明日にでも言うさ」

「……どういう修行をしたんだ?」

「サティの潜在能力をフル解放させて、フル-レは棒切れで戦わせた」

「……口を出すつもりはないが、大丈夫なのか?」

「多分な。俺の見た感じ、フルーレは防御に不安がある。だから、受けるんじゃなくて、攻撃全部躱せるくらい動けるようになれば、一年しないうちにアナスタシアといい勝負できると思う」

「サティは?」

「サティはとにかく足りない。スキルの前に、身体と剣技を鍛えまくる。毎日『潜在解放』のツボを刺激して限界まで追い込む」

「……地獄だぞ」

「ははは。そういや、俺の部下たちみんなにやった時は泣いてたな」


 と、くだらない話で盛り上がり、報告書は完成。

 ギルガに報告書を渡す。


「最速で頼む」

「ああ。グリフォン便を使う」


 グリフォン便。

 その名の通り、グリフォンって魔獣を使い手紙を運ぶ方法だ。

 魔獣だけど、幼体から育てたグリフォンは人になつく。訓練すれば目的地に手紙も運べる……が、育てるのと、訓練に手間がかかるので、なかなか希少だ。

 村には一匹、ギルガが育てた優秀なグリフォンがいる。


「手紙を出してくる。ラス、お前はもう休め。中級魔族と戦ったんだろう」

「そうだけど、別に疲れてないし、このまま一杯ひっかけに……」

「…………」

「い、行くのはやめておく。うん、メシ食って寝るかなぁ~」


 ギルガが怖いので飲むのはやめておこう。

 部屋から出て、一階にあるキッチンで水を飲もうとすると。


「あ、お、お疲れ様です……し、師匠」

「……お、お前」


 なんと、サティがいた。

 驚いた。マジで驚いたぞ。


「お前、動けるのか?」

「え、ええ……なんとか。その、喉が渇いて」

「…………」


 嘘だろ。

 サティは間違いなく、『潜在能力』を解放するツボを刺激して、限界まで身体を酷使した。

 身体だけじゃない。『気』……魔力も限界まで出し切った。

 毎日ツボを刺激するとは言ったが……二日くらいは動けないし、指一本動かせないと思っていたのに。

 まさか、立ち上がって、水を飲みに来るなんて思いもしなかった。

 考えられるのは……おそらく、サティの身体の『性能』がズバ抜けているんだ。

 

「…………」

「あの、師匠?」


 逸材だ。こいつ、鍛えれば化ける。

 思った以上に、面白くなりそうだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 修行の前に、俺はフルーレを呼び出した。

 内容はもちろん、上級魔族について。


「中級魔族が、ギルハドレット領地に……!?」

「ああ。先兵だし、雑魚だったけどな。そいつ、頭足りないヤツでいろいろ喋ったぜ」


 上級魔族の名前、二つ名……これらをフルーレに話すと、フルーレは頭をグシャグシャと掻いた。


「中級魔族……本当なの?」

「……ああ、そっか。お前らの世代は、下級魔族しか会ったことないのか」

「癪だけど……私は見たこともないわ。おじいちゃんから話を聞いたくらい。下級は一般兵士や騎士、中級は部隊長が四名以上、上級は七大剣聖に任せろって。『七大魔将』が現れたら、七大剣聖が四人は必要になる……ってね」

「ははは、爺さんらしい分析だ」

「でもあなた、『七大魔将』と戦ったのよね? しかも一人で」

「……ま、そうだな」

「それなら、中級程度なら私でもどうにかなりそうね」

「……おい、慢心するなよ。戦場じゃ、そういう奴らから真っ先に死んでいく。勇敢と無謀を履き違えることだけはするな」

「……わかっているわよ。説教しないで」


 プイっとそっぽ向くフルーレ。なんか子供みたいだな……子供か。


「そういやお前、いくつだ?」

「何よいきなり……十八だけど」

「そーかそーか。うんうん」

「……その、親戚のおじさんみたいな顔して見るの、やめてくれない?」


 と、ここで屋敷の二階からサティが降りてきた……急いでいるのか、慌てて。


「お、遅れてごめんなさい!! 師匠、フルーレ様!!」

「おう。よし、今日も『潜在能力』解放しての修行だ」

「はい!! 昨日のツボ押しですね、お願いします!!」

「こ、こら、いきなり脱がないの!!」

「あ」


 いきなり俺の前でシャツを脱ぎだすサティを、フルーレが俺の前に立つことで隠す。

 サティはフルーレの背で服を脱ぎ、俺に背中を見せた。


「じゃ、やるぞ」

「はい!!」

「……ね、それ私にもやってくれない?」

「今はダメだな。サティがツボ押ししなくても、ある程度お前と渡り合えるくらいにならない、と!!」

「くぁぁっ!!」


 サティのツボを刺激すると、全身がビクッと跳ねる。

 俺は棒切れを拾い、フルーレに言う。


「フルーレ。今日もこれな」

「……まったく、そんな棒切れで戦うなんて、本当に怖いのよ?」

「そうか? よし、試しに斬りかかって来い」

「え?」

「いいから、ほれほれ」

「……手加減しないから」


 フルーレは剣を抜き、俺に向かって振り下ろしてきた。

 俺はフルーレの剣先に棒切れの先端を合わせ、振り下ろしの流れに逆らわないように棒切れを動かし、打ち下ろしが終わる瞬間真横に力を込め、剣の軌道を変えた。


「───なっ」

「フルーレ。俺ほどとは言わんけど、相手の動きをよく見ろ。お前の動体視力なら、今みたいに相手に攻撃を合わせて『いなす』ことも不可能じゃない」

「……『パリィ』ね」

「ああ。お前は華奢だ。受けるとなるとどうしても力負けする。受け流し、避けるスペシャリストになれ」

「……ふふふっ、本当に面白いじゃない」


 フルーレは楽しそうに笑い、ウズウズしているサティに向けて棒切れを向けた。


「さぁ、やるわよ」

「はい!!」


 この二人、いいコンビになりそうだ……まぁ、今のところ実力は雲泥の差だけどな。

 未来の七大剣聖。もしかしたら、サティとフルーレが引っ張っていくのかもな。

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