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戻って来た日常

 さて、ようやく日常が戻って来た。

 登城命令の手紙が来たが、まだ行くまで時間がある。

 なので……山のような仕事を片付けるのに時間を割いていた。

 俺は広くなった執務室で、エミネムとギルガの三人で仕事をしている。

 

「ラス、こっちの書類は終わった。次のをよこせ」

「ああ、じゃあそれたのむ。エミネム、こっちの山を整理してもらっていいか?」

「はい、ラスティス様」


 エミネムは、ギルハドレットから毎日来る書類の山を文句の一つも言わずに整理してくれる。

 マジで秘書に欲しい……この子、有能すぎる。

 ギルガも、エミネムを見て言う。


「エミネム。お前が来てくれて本当に助かっている……ありがとう」

「いえ。書類仕事も弟子の役目なので!! そ、それに……」


 何故かエミネムは俺を見て顔を赤くする……なんだ?

 ギルガは俺をジロッと見てため息を吐くし。意味わからん。

 ってかエミネム。書類仕事も弟子の役目って言ったら、サティの立つ瀬がないぞ。


「そういやサティは?」

「カジャクトさんと狩りに出かけてます。修行も並行して」

「……自由だな」


 カジャクトは、もう完全にハドの村に馴染んでいた。

 今までは俺がやっていた魔獣退治を全部引き受けてくれるし、村の連中からも信頼されている。魔族とか以前にあの見てくれだしな……村の独身男たちがカジャクトを狙っているという話も聞いたが、みんな撃沈しているらしい。

 魔獣退治で報酬も出しているし、今では空き家を借りて寝泊まりして、酒場で毎日飲んで楽しんでいる。空いた時間ではサティやエミネムを鍛えているし、大助かりだ。


「エミネム。仕事終わったら俺が修行に付き合うから勘弁してくれ。サティと差がつかないように鍛えてやるよ」

「はい!! えへへ……これがあるからお手伝いはやめられないんです」

「ん?」

「い、いえ!! なんでもないです!!」


 こうして、俺は登城までの間、ハドの村で仕事漬けになるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 仕事漬けのある日、執務室にケインくんがやってきた。

 今日は俺とギルガだけ。エミネムはいない。


「ラスさん、久しぶりです」

「ケインくん!! いやあ、かなり久しぶり」

「今日は追加の書類を届けに来ました。それといくつか報告も」

「……ありがとう」


 嬉しいんだが、仕事は嬉しくねえ。

 ちなみにケインくん。ギルハドレットに自身の所有する商会の半分を移動させ、本部として動かしているそうだ。

 王都のが儲かると思うんだけど……「こっちのが儲かる」ってことらしい。

 それに、公爵代理の仕事も気になるんだが。


「ああ、公爵代理の仕事は問題ありませんよ。グレムギルツ公爵領地は、ボクがいなくても回るような仕組みを作ってありますので。半年に一度くらい帰る程度で問題ないです」

「そ、そうなんだ……やっぱ有能すぎる」


 エミネムもだが、兄のケインくんも超有能だ。

 この兄妹、マジでギルハドレットに欲しい。


「報告を済ませますね。ギルハドレット領内に存在するダンジョンの選別が完了し、冒険者の受け入れを始めました。ギルハドレット冒険者ギルドの稼働も始まったので、冒険者たちが殺到……ギルハドレットの郊外を整備して臨時のキャンプ場としたり、空いた土地を整備して冒険者用に売りに出したら即完売。今では冒険者たちがホームを作るべく大工が総動員しています」

「すげえな……」

「ええ。王都以上にダンジョンの数が豊富ですからね。小規模、中規模、大規模と数の揃ったダンジョン……初心者から熟練まで、様々な冒険者が集まる地となりますよ。あ、そうだ。登城命令が出ているんですよね? これ、ダンジョンに関する報告書です。冒険者ギルドに報告をお願いします」

「お、おう」


 ギルハドレットの街、さらに拡張をするようだ。

 想定したよりも移住する人たちが増えて大変らしい。ギルハドレットは『ダンジョン領地』として更なる発展をするようだ。

 そしてケインくんが言う。


「あともう一つ……実は、大規模ダンジョンのさらに上、超大規模ダンジョンが発見されました」

「……は?」

「魔獣のアベレージはS以上、中には伝説級のSSSレート級の魔獣も潜んでいる可能性がありまして……」

「と、トリプル? おいおい……仕方ねぇな、登城命令出てるが放って置くわけにもいかないか。俺が出るよ」

「と、トリプルですよ? あの……失礼ですが、さすがにラスティス様だけでは」

「問題あるまい。こいつは以前、単独でSSSレート級の魔獣を屠っている。もう十年以上前だがな」


 討伐レートSSS……七大魔将クラスの魔獣だ。

 現在、歴史上で観測されているのは四体。そのうち一体は俺が倒した。

 まさか、新しいSSSが現れるとは。


「そういや、調査したのは誰だ?」

「フローネさんのお弟子さん、という方ですね」

「フローネの弟子……誰だっけ?」


 ギルガを見ると「忘れたのか」と呆れられる。


「セリスだ。孤児院にいた『神隠』スキル持ちの」

「ああ、そういやいたっけ」


 ギルハドレットにある孤児院で、神スキル持ちの子がいたんだ。

 その子はフローネの弟子として斥候とか暗殺の技術を教えてるんだっけ。バタバタしてたし、俺もすっかり忘れていた。


「まてまて。あいつまだ十五歳くらいじゃなかったか? SSSレートのいるダンジョンなんて入ったら委縮して動けなくなるぞ」

「肝が据わってるんだろうな」

「……そんな理由かよ。まあいいや」

「それとラスティス。SSSレートのダンジョンだが……カジャクト殿に任せればいいのではないか?」

「あ」


 そっか、その手があった。

 ぶっちゃけ、SSSレートのいるダンジョンなんて『神スキル持ち』でも厳しい。

 

「よし、カジャクトに任せてみるか。それに……あいつも腕を上げたいって言ってたし、ちょうどいいかもな。よしケインくん、場所を教えてくれ」

「はい、わかりました」


 俺はケインくんから場所を聞き、カジャクトの元へ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「面白そうね」


 ダンジョンの話をするなり、カジャクトは面白そうに笑った。

 カジャクト……探してもいないと思ったら、ドバトとビンズイの二人を誘って昼間から飲んでいた。

 ドバト、ビンズイはすでに酔い潰れてグースカ寝てる。

 

「人間が定めたSSSレートだっけ。そいつなら、私のいい相手になる?」

「ああ。若いころの俺が倒したヤツも、ビャッコ以上の強さはあった」

「ふーん……」

「いつか、魔王と戦う日が来る。その時までお前も腕を鈍らせるわけにはいかないだろ? 俺も相手できるわけじゃないし……」

「わかった。じゃあ、そいつは私に任せて。それと、サティとエミネムだけど」

「その二人はまだ早い。それに、用事あるから出かけなきゃいけないんだ」

「ふーん、つまんないの。じゃあこいつら連れて行くわ。どうせラクタパクシャから連絡なんてないだろうしね」


 すまん、ドバトにビンズイ……寝てる間に申し訳ないが、カジャクトを頼むわ。

 俺はカジャクトに酒を奢り、昼間なのに俺も少し飲んでしまった。

 飲んだ状態で仕事に戻り、ギルガにしこたま怒られるのだった……。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、登城の準備だ。

 夜、俺は旅支度を終え、一人で屋敷のバルコニーで飲んでいた。

 すると、ドアがノックされ、サティが入ってくる。


「師匠、いいですか?」

「ああ、いいぞ」


 サティ、寝巻姿だ……いや、ちょっと無防備すぎるだろ。

 そりゃ子供に手は出さんが。二十歳超えてたら危なかったぞ。

 サティは椅子を持ち、バルコニーに持ってきて座る。


「お酒ですか? 明日出発なのに、飲みすぎちゃ駄目ですよ」

「わかってるよ。お前、準備できたのか?」

「もちろんです!! ……あの師匠。今回の目的って」

「……魔族について。それとお前だ」

「……イフリータ、ですね」

「ああ。ランスロットの力で、イフリータも臨解、神器に覚醒した。その子がお前との一騎打ちを望んでいる」

「…………」

「あくまで訓練だ。それと、以前の雪辱を晴らしたいんだろう。もちろん……ランスロットのやつもな」

「え?」

「あいつも、本気で俺と戦いたいんだとさ」


 手紙には書いてないが、そう感じた。

 あっちは父と娘、こっちは師匠と弟子。

 なんだか少し、年甲斐もなく血がたぎる。


「俺はやるぞ。カジャクトも強かったが、ランスロットも同じくらい強い。来るべき魔族との戦いのため、俺ももっと強くならないとな」

「師匠……」

「サティ、お前ももっと強くなれ」

「……はい!!」


 アルムート王国……そこで、ランスロットたちは待っている。

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