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閑話②

「お」

「……はぁ」


 アルムート王国、王城通路にて。

 七大剣聖序列四位ラストワン、序列五位アナスタシアの二人が出会った。

 アナスタシアの手には書類の束。対するラストワンは手ぶらだ。


「相変わらず、書類とか部下に任せねぇで自分でやるのな。あー、潔癖症なんだっけ?」

「うるさいわね。あなたには関係ないでしょう? 女の敵」

「おー、怖っ」


 ラストワンは肩をすくめる。

 ラストワンは七大剣聖であるが、爵位を持っていない……というか、拒否をした。

 その代わり、王都で一等地を手に入れ、そこに王都イチの娼館を運営している変わり者。だが、剣の実力は序列四位に相応しい腕前だ。


 対するアナスタシアは伯爵位を持っている。

 アナスタシアの治める領地は王都からほど近く、さらに他国との流通拠点にもなっているので、アナスタシアは文官を大勢雇っては領地の維持を任せている。アナスタシア自身は王都の別邸で、アルムート王国を中心とした『商業ギルド』の管理を任されていた……そう、アナスタシアは国の流通関係に関するトップでもあるのだ。

 なので、アナスタシアの元には、さまざまな情報が入ってくる。


「聞いたわよ。ランスロットの娘の件」

「お? さっすが耳が早いぜ」

「……『神スキル』持ちの娘をあっさり除名するランスロットも気に喰わないけど、それ以上に気に喰わないのはあなたよ。どうして、『神雷』の子をラスティスの元へ送ったの?」

「決まってんだろ。ラスティスの野郎に、やる気になってほしいからさ」

「…………」

「お前だってわかるだろ? 今のあいつは腑抜けてやがる。理由は不明だが……あいつが変わっちまったのは、十四年前の『冥狼侵攻』からだ」

「……それは」

俺とお前の憧れ(・・・・・・・)だったラスが腑抜けちまって、いろいろ変わったよな。ランスロットのクソ野郎はやりたい放題、団長はラスを腑抜けと決めつけてクソ田舎のギルハドレット領地に送っちまう。しかも、その二人は犬猿の仲ときたもんだ。やりにくいったらありゃしねぇ」

「……ラスティスがやる気を出せば、変わるというの?」

「……さぁな。でも、魔族も動き始めてやがる。上級魔族のことは聞いただろ?」

「ええ」


 ラストワンは壁際に移動し、寄りかかる。

 アナスタシアは動かず、その場で話を続けた。


「上級魔族なんて、最後に見たのは十四年前ね……」

「オレもお前もガキだったな。ラスの背中追いかけて、木剣を振っていた時代だ」

「ええ……」

「アナスタシア……お前さ、今もそのデカい胸張って言えるか? 『冥狼ルプスレクス』を討伐したのは、ランスロットだって」

「…………」

「あれはラスの手柄だ。ランスロットは、横から手柄を奪っただけだ」

「私は何も言えないわ。現に……ルプスレクスの首を取ったのはランスロットよ」

「……チッ」


 ラストワンは舌打ち。

 すると───通路の奥から、いくつかの足音が聞こえてきた。

 その人物を見て、ラストワンは舌打ちする。


「これはこれは……ラストワン、アナスタシアではないですか。こんなところで楽しそうですね」


 ランスロット。

 そして、ランスロットの背後には四人の少女たちがいる。

 アナスタシアは肩をすくめた。


「あーあー、お前さんの悪口で盛り上がってたのさ。なんなら、お前も混ざるか?」


 ランスロットの背後にいる四人の少女たちに殺気が籠るが、ラストワンは無視。


「お? お前ご自慢の娘たちか。アロンダイト騎士団、最強の四騎士だっけ? ははっ、ボーマンダ団長が見たらどう思うかね?」

「ふふ、そうですね。ちなみに───彼女たちは、アロンダイト騎士団『四聖天(キャメロット)』です。優秀な『神スキル』の使い手です……いずれ、あなた方と並ぶ騎士になるでしょうね」

「あー、そうですかい」

「…………」


 ラストワンは鼻を鳴らし、アナスタシアは無言だった。

 ランスロットはにこやかにほほ笑み、歩き出す……が、ラストワンが言う。


「な、ランスロット。お前が捨てた娘のこと、どうなったか知りたいか?」

「───」


 ぴたりと、ランスロットの足が止まる。

 ランスロットは、笑顔を張り付けたまま振り返った。


「サティだよ。お前が、能力の制御もできない出来損ないって捨てた子だ」

「……ああ、そういえばいましたね。それが、どうかしましたか?」

「……その感じ、マジで知らないみたいだな。ま、お前らしいわ」


 すると、ランスロットの後ろにいた赤髪の少女、イフリータが眉をピクリと動かす。

 興味があるのか。だが、剣聖同士の会話に口を挟むことができないでいるようだ。

 ラストワン、ではなく……アナスタシアが言う。


「『神雷』の子は、ラスティスの弟子になったわ。今は、ギルハドレット領地にいる」

「……ラスティスの元へ?」

「ええ。ラスティスが、あの子を鍛えるみたいよ」

「……そうですか。まぁ、落伍者同士、別にいいのではないでしょうか?」


 話は終わりとばかりに、ランスロットは歩き出す。

 落伍者───その言葉に、ラストワンの額に青筋が浮かんだ。だが、アナスタシアが制止する。


「ランスロット……」

「まだ、何か?」


 立ち止まったが、ランスロットはもう振り返らない。

 アナスタシアは、静かな声で言う。


「予言するわ。あなたご自慢の『四聖天(キャメロット)』は……ラスティスが鍛えたサティに敗北する」


 その言葉に、イフリータたち『四聖天』が反応する。アナスタシアを睨むが涼しい顔だ。


「あなた、言ったわよね。『あなた方と並ぶ騎士になる』って……でも、ラスは違う。きっとラスは、『俺を超える剣士になれ』って言うわ。あなたは、『自分を超えろ』とその子たちに教えてはいないでしょう? そこが、あなたとラスの差……」


 ランスロットは振り向かない。

 だが───冷たい何かが、ランスロットに纏わりついているような何かを感じた。

 ランスロットは、何も言わずに歩き出し、その場から消えた。

 ランスロットが去ったあと、ラストワンは『ピュウ』と口笛を吹く。


「お前があんなこと言うとはな。へへ、いい気分だぜ」

「……本当のことを言っただけ」

「ははっ!! な、メシでも食わないか? オゴるぜ」

「まだ仕事あるから遠慮するわ。それと、あなたが知らない情報、教えてあげる」

「あ?」

「序列七位フルーレ。あの子、ラスに挑むために、ギルハドレット領地に向かったらしいわよ」

「……マジ?」


 アナスタシアは去り、残されたラストワンは「くくっ」と笑った。


「へへ、面白くなりそうな予感がするぜ……なぁ、ラス」

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