脇役剣聖、風神獣プネウマとタイマン勝負
風神獣プネウマ。
十二枚の翼、上半身は完全な鳥で、下半身は獣のような四足歩行。
グリフォンっていう中級魔獣を見たことあるが、それに近い……大きさは桁違いだが。
そして、この圧力。
『クォォォォォォォォォォォ!!』
「うおっ……」
吠えただけで、風が舞う。
しかも、風がエメラルドグリーンに輝いている。色付きの風とか見たことない。
すると、竜巻がいくつも発生し、固形化していく。
「な、なんだ……風が、物質に」
『おお、すごいね』
狼尾刀が動き、俺の顔の横へ。
そして、竜巻が十二本の槍となり、風を纏って周囲を旋回した。
「エミネムの槍?」
『どうやら、宿主の知識を吸収して学習しているみたいだ。さすが神獣』
「感心してる場合じゃ───……なさそうだ!!」
俺は木の枝から飛ぶ。
そして、風を纏った槍が六本、俺に向かって飛んできた。
「頼む!!」
『ああ』
狼尾刀が飛んで来る槍を弾き落とすが、ルプスレクスが言う。
『なんて重さだ。ラスティス、同時に捌けるのは六本が限度だよ』
「ああ、大丈夫───……見えた!!」
着地し、走り出す。
すると、今度は十二本の槍が飛んで来た。
「『閃牙・乱』!!」
俺は十二本の槍を叩き落とす。そして納刀、再び抜刀した。
「『飛燕』!!」
飛ぶ斬撃。翼を削ぎ、まずは空中から引きずり降ろそうとする。
だが、プネウマは躱すどころか、斬撃が直撃した……が。
「あ、あれ?」
『効いていないね』
プネウマはピンピンしている。そして、地面に落ちていた槍が十二本、再び風を纏い回転……切っ先が全て俺の方に向き、先ほどとは比較にならない速度で飛んできた。
「うおお!? は、速いぞ!!」
『確かに。でも、それ本気で言ってるのかい?」
「ああ、本気だ。でも……俺のが速い!! 『大開眼』!!」
開眼。
槍の軌道が見える。どう動くか、どういう軌道なのか……そして俺は、槍が全て交差する瞬間を狙い、抜刀した。
「『閃牙・壊』!!」
槍は、同じ速度、ほぼ同時に俺の身体に突き刺さるように飛んできた。つまり、十二本全てが重なるタイミングも必ずある……その瞬間、俺はバックステップで一歩下がり、抜刀……思い切り地面に振り下ろす。
すると、槍が全て砕け散る。
『クォォォォォォォォォォォ!!』
「こんなモンじゃ俺は殺せない。お前が来いよ、デカブツ」
『オォォォォォォォォォォ!!』
プネウマは、全ての翼を思い切り広げ、周囲を暴風で包み込む。
俺は納刀し、居合の構えを取った。
『ボクはどうする?』
「まあ見とけ。奴さん、俺の挑発にキレてやがる。間違いなく、あいつが向かって来るぞ」
すると、読み通り。
プネウマは暴風を纏い、俺に向かって突っ込んできた。
わかりやすい……普通ならこの速度、対応できない。
サティたちじゃ剣を振ることもできない。ラストワンやアナスタシアも反応はできるだろうが、反応した瞬間には激突され粉々だ。
団長、ランスロットは……無傷じゃ対応できないな。
でも、俺なら。
「『神開眼』」
動きがスローに見える。
すごい勢いだ。これはビャッコじゃ勝てない強さ、速さ。
でも───……いける。というか、楽勝だ。
「『閃牙・雷』!!」
『!?』
雷のような速度、そして形状の斬撃が、向かって来るプネウマを切り裂いた。
十二枚の翼が千切れ飛び、前足が吹っ飛ぶ。
そして、プネウマは地面を転がり、岩に激突して止まった。
『グ、オ……』
「俺の勝ちだ」
俺は一瞬でプネウマの近くまで移動し、冥狼斬月の切っ先をプネウマの首に向ける。
『…………』
「…………(おいルプスレクス、こいつ硬直してるぞ)」
『まあ見てなよ』
すると、プネウマが身体を起こし、首を上げた。
『クォォォォォォォォォォォ───……』
そして、身体が半透明になり、エメラルドグリーンの風を吹かせながら消滅……いや、これは。
「エミネム……の、中に?」
プネウマの心臓付近にいたエミネムの中に、プネウマが還っていく。
プネウマが消え、エミネムがゆっくり立ち上がる。
そして、エメラルドグリーンの風がエミネムの前で吹き、そこに一本の槍が現れた。
「……ありがとうございます、プネウマ」
エミネムはにっこり微笑み、槍を手に取った。
俺は変身を解除、エミネムに近づく。
「え、エミネム……」
「プネウマが言いました。私に、力を貸すと。そしてこの槍……『神器』を、『風神器ビーナスゴスペル』を私に……」
「あ、いや、えっと」
「神スキルの真の力……それは、内に眠る『神』を屈服させること。すごいです。今までの比じゃないくらい、力が沸いてきます。それに、ラスティス様が言うような疲労は感じません……これは、真に神に認められたから、なのでしょうか」
「……あ、ああ」
「ラスティス様? あの、なにか」
「いやその……服。おっさんにはその、眼に毒というか」
「え?」
エミネムは自分の姿を見た。
その……すっぽんぽん。枷を外した時にサラシは弾け飛んだけど、今はプネウマの体内にいたせいなのか、下半身もすっぽんぽん……完全な『入浴スタイル』だ……というか、デカい。いろいろと。
エミネムはポカンとして、俺を見て、自分の身体を見て、俺を見て……見る見る真っ赤になり、両手で胸を隠し蹲った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
こうして、エミネムは神スキルの『枷』を外した。
サティやフルーレとは違う、真の意味での力の解放。
参ったな……まさか、この歳で『神器』まで解放するとは。神スキル持ちでこの領域に至ったのは、俺の知る限り三人だけ。
神器……完全な極秘事項。こりゃ団長が大喜び……まあ、それは後でいいか。
◇◇◇◇◇◇
エミネムが着替え、ようやく俺の前に来た。
今日はここで野営。俺はエミネムが着替え、出てくる前に野営の準備を終えた。
さっそく、焚火を起こしてエミネムと座る。
「身体、問題ないか?」
「は、はい……その、お見苦しい物を」
「そんなことはない……ああ、団長には内緒な? マジで殺される」
ちなみに、エミネムのアレ……俺が今まで見た中でも、トップクラスのデカさ。まあ言ったら確実に嫌われるだろうから言わん。言うことは別にある。
「エミネム。お前は真に『神スキル』の枷を外した。さらに『神器』まで」
「ラスティス様、神器のことはご存じで?」
「まあ……俺も持ってるからな」
「そうなのですか? えへへ、一緒ですね」
「ちなみに、団長とランスロット、ロシエルも持ってる。七大剣聖になるには『神スキルの所持』、『神スキルの枷を外している』、『神器の覚醒』のうち二つを満たしていなくちゃいけない。それと……『神器』は、神スキル持ちの最大武器だ」
『臨解』と『神器』……この二つが、神スキル持ちが最強と言えるもの。
「『神器』は、通常のスキル持ちもごくまれに覚醒する。うちでは、ギルガとホッジ、ミレイユにフローネってところか」
「え!? そ、そうなのですか!?」
「ああ。まあ、別に言わんし、使うタイミングあまりないしな」
「え、ええと……ラスティス様も?」
「俺のは無理。使えない」
「……えっと」
「まあ、俺のことよりお前だ。これでお前は『臨解』と『神器』を使えるようになった」
七大剣聖になる条件を完全に満たした。
くっくっく……サティじゃなく、エミネムを俺の後継にするの、アリかもしれん。
「とりあえず、今日は休んで、明日から中級のダンジョンを攻略する」
「は、はい……あの、ラスティス様」
「ん?」
「私、力が増したのは感じますけど……サティたちに追いつけるでしょうか」
エミネムは不安そうだった。
だが、俺は笑う。
「追いつくどころか、神器を生み出した時点で、お前はフルーレより上だよ」
そう言うと、エミネムは困惑し、ワタワタと慌てるのだった。





