脇役剣聖、神スキル『神風』に宿るモノと対峙する
サティたちと別れ、俺とエミネムは二人で進んでいた。
荷物は、ヴォーズくんから二人分の野営道具を用意してもらい、俺がリュックに入れて背負っている。
エミネムと二人、会話は少ない。というか……十七歳の女の子と会話するって厳しいな。俺、おっさんだし……なんかこう、難しい。
エミネムをチラッと見ると。
「っ!!」
目が合った。そして、慌てて逸らされた。
うーん……エミネムも、気まずいのかな。
「ふ、二人きり……なんですよね。緊張してきました……神スキル云々で忘れてましたけど、これからしばらく二人きり……二人きり」
なんかボソボソ言ってるな……よく聞こえないけど。
俺は地図を確認し、エミネムに言う。
「エミネム。この先に広い平原がある。そこで、お前の枷を外す」
「…………」
「お前の『神風』から『神』が飛び出す。それを、俺が抑えつける。そうすれば、お前の中にある『神風』が完全に開放されて、お前のスキルの力が増すはずだ」
「…………」
「できれば一瞬で終わらせたいが、何が飛び出すかわからんからな……もしかすると、戦いになる。お前はたぶん動けないから……おい、聞いてるか?」
「え!? あ、はい!! ふ、二人きりですね!!」
「……聞いてなかっただろ、お前」
まあ、いいか。
エミネムは顔を赤くし、わたわたしながら俯いてしまう。
もう一度説明すると、エミネムが質問した。
「あ、あの……ラスティス様は、神スキルの枷を外したとき、自分で『神』を押さえようとしたんですよね? それって、私にも……」
「うーん、普通は無理だな。俺は動けたけど、普通は無理」
「そ、そうですか……でも、頑張ります!!」
「ああ。じゃあ、準備しておけ」
エミネムは気合を入れ、俺も『冥狼斬月』の柄に触れるのだった。
◇◇◇◇◇◇
平原に到着した。
周囲は何もない。『神眼』で確認したが、鳥とか虫とかだけで、魔獣や魔族の存在も感じなかった。
俺は荷物を岩場に置き、緊張しているエミネムに言う。
「これから、俺のスキルでお前のスキルを刺激する」
「し、刺激……?」
「ああ。『枷』を外すために編み出された、選ばれた『神スキル』持ちにしか伝えない、七大剣聖だけに伝わる方法だ。こいつを使って、ラストワンやアナスタシアの枷も俺が外した」
「……ごくり」
「枷を外したら、お前の意識は落ちる。目を覚ましたら、指一本動かせないだろう……まあ、安心しろ」
「は……はい」
俺は右の五指を開き───……あ、忘れてた。
「……あの、エミネム」
「はい?」
「その……『枷』を外すんだけど、えっと」
「覚悟はできてます!!」
「……胸」
「え?」
「その、胸……触っていいか?」
「…………」
ごめん、マジで変態っぽいが……その、忘れてた。
「その、枷を外すには、心臓付近に触れなきゃダメなんだ。だからその、触らなきゃいけないわけで」
「…………」
真っ赤になっちゃったよ……いや、女の子の胸触らせてとか、当然だよな。
だがエミネムは、着ていた服を脱ぎ、サラシに包まれた胸を出す。
「ど、どうぞ!! さ、触ってください!!」
「……本当にすまん。じゃあ、行くぞ!!」
「はい!!」
俺は右の五指を開き、エミネムの心臓付近に五本の指で触れる……うっわ、でっか、柔らか。
「んっ……」
エミネムがビクッと震えた。
そして、俺は指先から魔力を放出。エミネムの心臓に送り込み、一気に魔力を膨張させた。
「『神魔解放』!!」
「!!」
ドクン、と……エミネムの身体が跳ねる。
サラシがはじけ飛び、心臓付近から莫大な魔力が噴出する。
俺は指を放して距離を取り、『冥狼斬月』を構えた。
「さぁ、出るモンが出てきたな……!!」
風が舞う。
エミネムの周囲に小さな竜巻がいくつも生み出され、すでに気を失ったエミネムの身体が浮いていた。
そして、風が形となる。
エメラルドグリーンに輝く風。強大な十二枚の翼を持つ鳥だ。ただの鳥じゃない……まるで獣のような、四足歩行の鳥……か?
「まあ、ブッた斬れば終わる!! さぁ───…………」
俺は、現れる『神の力』を斬ろうと、柄に手を添えた時だった。
◇◇◇◇◇◇
『ちょっと待った』
◇◇◇◇◇◇
「───……あれ!?」
冥狼斬月が抜けない。
ギョッとして剣を見た。すると、解放された『神風』が一気に爆発したように、暴風を巻き起こす。
「うおぉぉっ!?」
あまりの強風に吹っ飛ばされ、俺は宙に浮かんでいた。
そして、空中落下……周囲を検索し、近くにあった大木の枝を掴んだ。
そして、ようやく声を出す。
「おま、ルプスレクスか!? 何やってんだこの馬鹿!! 早くアレを斬らないと」
『だから待った』
冥狼斬月から声が聞こえてきた。
暴風が巻き起こり、エメラルドグリーンの風がキラキラ光る。
そして、実態があやふやだった『神風』の鳥が、完全に実体化をした。
『クォォォォォ───……ンンン!!』
全長三十メートル以上、十二枚の翼が広がり、エメラルドグリーンの風が輝いている。
恐るべき圧を感じた。あれが『神スキル』に宿る神。
『思った通りだ……』
「おいルプスレクス!! お前、何考えて」
当然、俺は抗議する。
強く鞘を握り、本気で怒る……エミネムがいない。あの鳥の中に飲み込まれた。
「神スキルの枷を外して、神が実体化する前に倒す。それが神スキルの枷を安全に外す方法だ!! あんな風に暴走したら───……」
『かつてのキミのようになる、かい?』
「……お前」
『キミと一緒に長くいるからわかる。キミの中にいる『神』……あれは、ボク以上のバケモノだ。そして、キミたちが神スキルに宿る『神』と呼ぶ存在……これを見て確信した』
「な、何をだよ……」
『この力。ボクら七大魔将が宿す魔獣と同種のものだ。ボクはフェンリル、ラクタパクシャはフェニックス、ビャッコがワータイガーと、伝説の『神獣』を宿しているように……人間の神スキルにも、同じようなモノが宿っていたなんてね』
「お、同じ、だと……?」
『間違いないよ。そしてこれは……神獣の一体、プネウマだね』
「プネウマ?」
『ああ。かつて風の化身として存在した神獣プネウマ。あのエミネムって子に宿る神獣が完全に顕現した。これは厄介だね……』
「お前な……」
『でも、チャンスだよ』
と、ルプスレクスは言う。
俺は首を傾げた。
『完全に顕現した今、あの状態で屈服させることができれば、本来の意味で『神』を使役できる。ボクらが『完全獣化』を使い神獣になることができるように、人間も同じようなことができるかもね』
「人間でも同じ……そうか、『臨解』か。こいつを屈服させれば……」
いろいろ驚くことが多くて参ったわ。
でも、真の意味で『枷』を外し、力をモノにするチャンスってことでもあるのか。
すると『神風』……いや、風神獣プネウマが俺を見た。
『クォォォォォォォォォォォッ!!』
「おいおい、やる気満々だな……」
『フフフ、夜叉神鎧武を思いっきり試すいい機会だ。さあ、いくよラスティス』
「おい、エミネムは」
『プネウマの心臓付近だろうね。まあ、死なないと思うよ』
「ったく、仕方ないな……まあ、やるか!! 『抜刀』!!」
俺は変身する。
灰銀の狼鎧。そして、冥狼斬月を構え、風神獣プネウマと対峙した。





