脇役剣聖、ドバトにお願い
サティ、フルーレ、エミネムに修行を付け、仕事をして、自分の修行……俺の一日、とんでもなく濃くなったわ……おかげで、風呂が気持ちいい。
「ふう……」
「邪魔するぞ」
「おう。って、あのなあ……ここは俺の憩いの場って何度も」
「細かいことは気にするな」
ギルガが入ってきた。全く、ここは俺のやすらぎの場だってのに。
たまにホッジも入ってくるし……まあ、いいか。
のんびり湯を満喫していると、ギルガが湯舟に入ってくる。
「開拓は順調だ。ラス……サティたちはどうだ?」
「順調。特に、サティとフルーレの成長が早い。サティはまだだけど、フルーレはもう村を襲った上級魔族とタイマン張れるくらいかな。でも、ドバト、ビンズイにはまだ敵わない」
「ビンズイか……彼女は開拓にも協力してくれている。表向きはスパイ……自分で言って首を傾げたくなるが、仕事をさせていいのか?」
「いいだろ。ビンズイは俺の様子を、ラクタパクシャは魔界の動きを報告してくれている。スパイってか連絡係みたいなもんだ」
「そうか……」
「問題は、エミネムだな」
俺は湯を掬い、顔を洗って髪を掻き上げる。
「明らかに、サティたちと差が付き始めた。神スキルの『枷』を外した影響が少しずつ出ている」
「……神スキルの『枷』か。オレのような一般スキル持ちにはわからん。確か、神スキル持ちには神が宿る……だったか」
「ああ。神様ってか、形ある何かだ」
「……それは、お前にもあるのか?」
「当然。俺の場合───……」
◇◇◇◇◇◇
『ラスティス……それは、二度と出すな!!』
◇◇◇◇◇◇
「…………」
「どうした?」
「……いや。俺の場合、キモイから絶対出したくない。ま、新しい力もあるし『臨解』することはないと思うけど。それより、エミネムだ」
「……枷を外す許可はもらっているのだろう?」
「ああ。でも、エミネム自身が怯えちまってる。これっばかりはどうしようもない」
「……」
「とりあえず、今できるのは鍛えること、経験を積むことだ。ヒマしてるドバトにも手伝ってもらって、あいつらをとにかく戦わせて練りこむ。あーあ、俺がのんびり昼寝できるのはいつになることやら」
「ふ……その割に、楽しそうだがな」
「……どうかなあ」
もっとこう、脇役みたいな人生でいいんだけどな。
ちょっといろいろ抱えすぎちまった……でも、そんなに悪くなと思っている。
「うし。おいギルガ、上がったら一杯付き合えよ」
「ああ」
とりあえず、今日は美味い酒飲んで、明日も頑張るか。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
仕事をギルガに任せ、俺はドバトと一緒に三人娘を村の外にある平原に連れてきた。
「さて、今日はドバトと戦ってもらう」
「チョウワッ!! 宿代だ、何でもするぞ!!」
「……朝から暑苦しいテンションやめてほしいわ」
やや低血圧のフルーレが言う。
サティはワクワクしながら俺に言う。
「あの師匠、ドバトさんと戦うってことは……『理想領域』も使うんですか?」
「いや、使わない。というか、今のお前らじゃ魔族の領域を攻略できない。領域は、上級魔族が使う最上級難易度魔法……習得に困難を極めるし、攻略法は上級魔族を叩くしかない。実力不足のお前らじゃ、ドバトには敵わない」
「むぅぅ……」
「まあ、領域は無理だけど、普通に戦うならそこそこやり合えると思う。ドバト、いいか?」
「うむ。我は飛ばんし、手加減もしよう」
ドバトは持ってきた鉄の剣を持ち、構えを取る。
「じゃああたしから行きます!! ドバトさん、殺す気で行きますので!!」
「チョウワッ!! その意気やよし、来い!!」
ドバトが走り出し、サティも双剣を抜き走り出す。
俺たちから距離を取ると、サティは右剣に雷、左剣に磁力を貯め始めた。
「お、左右に異なる属性を宿すの、かなりスムーズになったな」
「枷が外れた影響ね。それに、威力も純粋に増しているわ」
「…………」
俺が言うとフルーレが答え、エミネムは少しだけ唇をキュっと結ぶ。
「『雷磁集鉄』!!」
左剣を振ると、地面にある砂鉄がブワッと浮き上がる。すげえな。
「からの!! 『圧殺』!!」
「ぬ!?」
砂鉄が巨大な『円柱』になり、ドバトを圧し潰そうと加速する。
マジで殺す気だ……うーん、いつも『殺す気でこい』って言ってたけど、やりすぎたかな。
だが、甘い。
「墳ッ!!」
「えっ!?」
なんとドバト、翼を広げ扇ぐと、砂鉄が一気に弾けた。すごいな、サティの磁力をドバトの風圧が上回った証拠だ。
砂鉄がバラバラになるが、空中で静止する。
「砂鉄ばかり集中していいのか?」
「っ!!」
速い。ドバトのヤツ、サティに接近して剣を振り被っている。
確かに『枷』は外れて能力は強化された。でも、全体的に力を持て余してるしな。磁力の制御だけに力を割きすぎている。
磁力を解除するが、すでに剣の切っ先がサティの首に突きつけられていた。
「あ……」
「ふふん、我の勝ちだな」
「あぅぅ……負けちゃいました」
がっくりするサティ。
俺は近づき、サティの頭をポンと撫でる。
「敗因その一、まず無策で突っ込んだこと。その二、磁力に拘りすぎ。その三、右の剣に貯めた雷の意味がないこと」
「ううう……」
「雷と磁力を同時に制御できるようにはなったけど、同時に使いながら戦うのはまだ無理だな。まあ、実戦を重ねていけば、嫌でも身に付くさ」
「師匠……」
「反省終わり。次、フルーレ」
「ええ」
「……フム。そっちのお前はやりそうだ。気を引き締めねば」
「ふふ、わかっているじゃない」
フルーレが前に出て、俺たちは下がる。
互いに剣を抜き、始まった。
「あの、ラスティス様……どうして今日はドバトさんと?」
「ん。俺ばっかりと戦って変なクセ付くのが嫌だったからな。それと、人間だけじゃない。この後は魔獣とも戦わせるし……ケインくんから面白いことも聞いた」
「……面白いこと、ですか?」
「ああ。実は、ギルハドレット領地に『ダンジョン』が見つかった。魔獣の住処になってて、周囲が危険らしい。俺に何とかするよう依頼が来た……ふふふ、みんなで魔獣狩りに行くぞ」
ダンジョン。
ダンジョンがなぜ発生するのかは解明されていない。
深い迷宮、森林、遺跡、巨塔といろいろな形があり、その最奥には上級魔族に匹敵する魔獣が存在する。そのダンジョンのボスを倒すことで、ダンジョンは消滅する。
この世界には無数のダンジョンが存在し、ダンジョンにしかない財宝や魔獣の素材を求め、ダンジョンに入る者たち……『冒険者』がいる。
一説では、ダンジョンは一種の『理想領域』でありボス魔獣が生み出しているとか、大昔の魔族が設置したものとか言われてるが……俺としては最高の修行場だ。
「昔俺も、高難易度ダンジョンにいくつも潜って魔獣と戦いまくったもんだ。踏破したダンジョンが五十を超えたくらいで、冒険者ギルドから『これ以上あんたに踏破されると冒険者たちの存在意義がなくなる』って言われてやめたこともあったっけ」
「そ、そうなんですね……」
「昨日、ケインくんから上がって来た報告では、すでに二十くらいのダンジョンが見つかった。フローネに調べさせて、難易度を測ってもらう」
「……じゃあ、私たちは」
「ダンジョン狩り。ふふふ、鍛えるぞ」
ここまで話すと、フルーレの剣がドバトの剣に弾かれ飛んだ。
「くっ……」
「ふむ。なかなか……正直、剣技だけでは勝てんかと思ったぞ」
「……面白いわね。もう一度!!」
「おーい、次はエミネムだぞ。戻って来い」
今日は一日、ドバトにひたすら稽古してもらった。
ダンジョン狩り……さてさて、楽しみになってきたぜ。





