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閑話①/七大魔将

 魔界。

 魔界の領地は八つに分割され、それぞれ『七大魔将』と『魔王』で統治している。

 七つの領地にはそれぞれ、七大魔将が守護する一族が住んでいる。

 

 『龍』の一族が住まう『滅龍』

 『魚』の一族が住まう『海蛸』

 『鳥』の一族が住まう『天翼』

 『虎』の一族が住まう『破虎』

 『動物』と『獣』が住まう『緑鹿』

 『蛇』と『虫』が住まう『地蛇』

 そして、『狼』がかつて住んでいた『冥狼』だ。


 現在、『冥狼』と『破虎』は魔王によって管理されている。かつてはビャッコがもぬけの殻となっていた『冥狼』を奪い、そこに住んでいた魔獣などを支配下に置いていた……が、今は魔王により統治され、穏やかな大地に戻っている。

 そして今……『魔王』が管理する領地、純粋な『魔族』が住まう『魔界都市ヨグソトス』の中心にある『魔王城』に、ラクタパクシャは来ていた。

 到着するなり、案内されたのは玉座の間。

 玉座の間には、ラクタパクシャと二人しかいない。


「おお、ラクタパクシャ殿……もうお怪我はよろしいので?」

「シンクレティコ。心配しなくても、すでに回復している」


 七大魔将『緑鹿』シンクレティコ。

 緑色のローブに、アカザの木を削った杖を持つ老人。七大魔将で最も古くから存在する魔族。

 禿げ上がった頭には鹿のように枝分かれしたツノが二本生えていた。顔はしわくちゃで、目元は垂れ下がり、立派な髭が床に付きそうなくらい伸びている。


「ふぉふぉふぉ、聞きましたぞ。あなたの『フェニックス』は、死しても蘇る力とか……いやはや、羨ましいですなあ」

「……死なないとわからない力だ。二度目があるのか、これっきりなのか」

「ふむふむ。じつに興味深い」

「…………」


 ラクタパクシャは、この老人があまり好きではない。

 古くから存在する魔族であり敬意は払っている……が、どこか舐め回すような視線が気持ち悪い。

 すると、横からドスドスと歩いて来る男がいた。


「だっはっは!! ラクタパクシャ、生きててよかったぜ。うんうん、よかったよかった、さあ一杯!!」

「……ポセイドン。ここで酒は飲むな」

「いやいや、嬉しいことがあったのだ。飲まなきゃ損だ!!」


 『海蛸』ポセイドン。

 筋骨隆々。青い坊主頭にもじゃもじゃのヒゲ。背中には大樽を背負い、手にも同じ大きさの樽を持ち、がぶがぶと飲んでいる……中身は当然、酒である。

 筋骨隆々だが、お腹だけはでっぷりと出ている。妙に馴れ馴れしく、ラクタパクシャはポセイドンのこともあまり好きではない。

 だが、他のメンツはまだ来ていないので聞く。


「……他の連中は?」

「まだ来ていませんな。ワシが一番、ポセイドン殿が二番でしたな」

「うんうん。時間までまだ余裕、一杯飲む時間すらある。わっはっは」


 もう少し後で来ればよかった、と後悔した。

 だが、扉が開き一人の女性が入ってくる。


「───…………あら、四番目。不吉な数字ね。ふふっ」


 褐色の肌、灰色の髪、赤い瞳の女性だ。

 漆黒のドレスは身体にフィットするようなデザインで、大きく開いた胸元、スリットの入ったスカートと、男を誘うようなデザイン。

 そして女の身体には、黒い蛇が巻き付いていた。蛇は舌を出し入れし、女の首に巻き付いては頭を寄せて甘えている。


「ミドガルズオルム、久しぶり」

「久しぶりね、ラクタパクシャ……ふふ、生きてて嬉しいわ」

「ああ」


 ミドガルズオルムはラクタパクシャに近づき、髪を掬って匂いを嗅いだ。


「甘い香り……そして、燃え上がるような情熱の香り。あなた……恋をしている?」

「……触るな」


 ラクタパクシャは、ミドガルズオルムの手を払いのける。

 ミドガルズオルム。馴れ馴れく身体に触れてくるので好きではない。

 少し距離を取ると、豪快に扉が開いた。

 入ってきたのは、豪勢な鎧を身に纏い、大剣を背負った女。


「あれ、私が最後? まあいいわ。真の強者は遅れてくるモノだしね」


 金髪をなびかせる美女、カジャクト。

 七大魔将最強『滅龍』カジャクトは、周囲をキョロキョロしながら言う。


「魔王様、まだ来ていないのね」

「ええ。ふふ、真の強者は遅れて来るモノでしょう?」

「その通り。ふふふ、ミドガルズオルム、わかっているじゃない」


 ラクタパクシャは、カジャクトも好きではない。

 何というか……どこか、馬鹿っぽい。嬉しそうにニコニコして腕を組み、今か今かと魔王の到着を待っている……つまりラクタパクシャは、七大魔将たちが好きではなかった。

 それから数分……扉が開いた。


「───……!!」


 入ってきたのは、真っ白なローブ、白い髪、白い肌、青い瞳をした青年。

 ラクタパクシャたちは並び、一斉に跪く。

 そして、白い青年……アザトースは玉座に腰かける。


「面を上げよ」


 ラクタパクシャたちが顔を上げると、そこにいたのは───……『魔王』だった。

 

「さて、これより……我々の進むべき道について、話をしよう」


 ◇◇◇◇◇◇


 アザトース。

 前魔王の一人息子にして、新たな魔王。

 若い……だが、その覇気、その威圧感は、前魔王に勝るとも劣らず。

 アザトースは、七大魔将たちを見回して言う。


「まず一つ……父の悲願であった人間界侵攻だが、正直なところ余はどうでもいい」


 この言葉に誰も反応することはなかった。

 ラクタパクシャは内心、喜んだかもしれない。


「だが、父の腕を食い千切った『冥狼』……奴だけは許せん。余が直々に滅する」

「お言葉ですが、魔王様」


 と、シンクレティコが言う。

 アザトースの言葉を遮る形だが、アザトースは特に何も言わない。


「今の魔王様では厳しいかと……ルプスレクスの強さは誰もが知っています。今では『剣』となった姿ですが、使い手の実力も並みではないかと」

「知っておる。それに……今は、父から受け継いだ『力』を飼いならしている最中だ。まだ少し時間が必要になるがな」

「となると、やはり……」

「今はまだ何もせん。まあ……お前たちが遊びたいなら好きにしろ。人間界侵攻をするもいい、そして……ビャッコのように、余を狙い魔王の座を奪うのもな」


 空気が張り詰めた。

 ラクタパクシャは思った。


(……人間界侵攻。アザトース様は興味がないと言った……そのことを面白くないと思う者がいる)


 ラクタパクシャは、シンクレティコを見た。

 だが、シンクレティコの表情はわからない。完全な無表情であり、無言である。


「ラクタパクシャよ」

「……はい」

「そなたは、人間界によき知人がいるようだな」

「……」

「ふ、そいつに伝えておけ。余が完全となるまで、鍛えておけ……とな」

「……よろしいのですか?」

「ああ。余は、父の力、そして余の力で、ルプスレクスを打ち破ろう。あの『神殺しの牙』は存在してはならん。だが……あれを超えることができれば、余は真の魔王となれる」

「……はっ」


 アザトースは、どこか満足そうに微笑んでいる。

 すると、カジャクトが挙手。


「魔王様、よろしいでしょうか!!」

「……なんだ」

「魔王様が完全となるまでの間、この『滅龍』カジャクトがルプスレクスを討ち取っても問題ないでしょうか?」


 アザトースを除く全員が『何言ってんだこいつ』みたいな目で見ていた。たった今、アザトースは『ルプスレクスは魔王とアザトースの手で倒す』と言ったばかりなのだ。

 すると、アザトースは笑った。


「はっはっは!! 面白いことを言う……カジャクト、できるのか? 『神殺しの牙』フェンリルを宿すルプスレクスを殺せるのか?」

「できます。この『滅龍』カジャクトならきっと」

「ふ……ビャッコですら敵わなかった存在だぞ?」

「お忘れですか? ビャッコは私より遥か格下……何を勘違いしていたのか、自分が七大魔将最強と思っていた愚か者です」

「確かにな。いいだろう……カジャクト、やってみせろ」

「はっ!!」


 こうして、七大魔将『滅龍』カジャクトが動き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 アザトースが玉座から去り、残ったのは七大魔将たち。


「というわけで、私は人間界に行く。シンクレティコ、『入口』を頼む」

「……すぐには不可能ですな。準備が必要です」

「なにぃ? じゃあラクタパクシャ、運んでくれ」

「嫌よ。私の部下じゃあなたを運べないし、私がする理由はないわ」

「むむ……」

「はっはっは!! 胸糞悪いが、ワシの船じゃまだ無理だ」

「私も無理……ふふ」

「む、むむむ……」


 カジャクトはプルプル震える。シンクレティコ、ラクタパクシャが頼みの綱だったのだろう。

 というか、カジャクトは人間界に行く手段を何も持っていない。


「シンクレティコ、準備までどれくらいかかる?」

「うーむ、半年ほどですかなあ」

「はぁ!? そんなにかかるの!?」

「たぶんそのくらいですな。一年かかるかもしれませんの」

「むぅぅ……もういい!! 自分で何とかする!!」


 そう言い、カジャクトは出て行った。

 七大魔将最強ではあるが、どこか子供っぽく、キレやすい。


(……ラスティスに伝えなきゃね)


 そう思い、ラクタパクシャは自分の領地に戻るのだった。

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― 新着の感想 ―
次のハーレム要員ですね、わかります
[良い点] 七大魔将最強『滅龍』 今までの話の中だと狼の方が強いのでは?(現存している、という意味なら間違いではないでしょうが
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