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七大魔将『破虎』ビャッコ⑦/狼の鎧

『聞こえるかい、ラスティス』

「うおっ」


 冥狼斬月が鎧となり、いざビャッコとの決着!! そう思った時、鎧から声が聞こえてきた。

 びっくりした……でも、この声って。


『僕の声が聞こえているね。『夜叉神鎧武(やしゃじんがいむ)』が覚醒したことで、僕の意識もようやく安定した。これから、きみをサポートするよ』

「その声、やっぱりお前か」

『あんまり時間がない。一度だけしか説明しないから、よく聞いて』


 俺は刀を構える。

 すると、右前足を失ったビャッコが、顔中に青筋を浮かべ、全身の毛を逆立てる。

 よく見ると、前足はジワジワ生えているようだ。


『クソが!! テメェ、マジでオレを怒らせやがって……喰い殺す!!』

「そうかい。あー……なんか、さっきまで勝てない気してたけど、なんかいけそうだわ」

『ガルァァァァァ!!』


 ビャッコが吠える。

 すると、ルプスレクスの声。


『煽るの上手いね。と……とりあえず説明する。きみが纏っている『夜叉神鎧武(やしゃじんがいむ)』は、見た目は鎧だけど強度に期待はしないでくれ。これはあくまで、きみの動きを補助し、きみにかかる負担を吸収、軽減するための鎧だから。現に、鎧だけど軽いだろう?』

「ああ。服着てるような感じだ」

『今なら、『神開眼』状態でも問題ない。それと……』

「え、うおっ!?」


 なんと、俺の腰に生えている『尾』が伸び、蛇のように動く。

 

『ガルァァァァァ!!』


 ビャッコが地面を抉り、岩や礫を飛ばしてくる。

 すると、尾が勝手に動き、全ての岩や礫を弾き飛ばした。


『この尾、『狼尾刀(ろうびとう)』は僕が動かす。飛び道具や不意打ちくらいなら完全に防御するよ』

「すっげ……」


 尾の先端は灰銀色で、刀を何本も合わせたような複雑な形状をしている。そして、俺の腰付近と太く柔軟性のあるロープみたいなのでくっついていた。どういう原理なのか知らないが、かなりの距離を伸ばせるっぽい……とんでもないな。


『ラスティス。この鎧にはもう一つ、とっておきの機能がある。でも……まずは』

「わかってる。俺の『牙』で、あいつを追い詰める!!」

『ああ、共に行こう』

「おう、相棒!!」


 さっきまでの絶望感が嘘のように、身体が軽かった。

 俺は飛び出す。


「『神開眼』!!」


 世界がスローになる。

 だが、ビャッコの動きはそれでも速い……が!!


「『飛燕・(うずまき)』!!」

『ヌガッ!?』


 飛ぶ斬撃。

 あえて腕を捻ることで、斬撃を渦にして飛ばす。

 渦はビャッコの全身を細かく切り刻む。顔を狙ったので眼も斬れた───が、一瞬で治癒。

 目を潰したことで、俺の姿が一瞬だけ視界から消えた。


『クソが、テメェの位置なんて、匂いで丸わかり───』

「丸わかりだって?」


 俺は、高速で走る。

 確かに俺の位置はわかる。でも……ビャッコの周りをグルグル回るだけ。


『ぬ、ぐ、ぬぉぉぉぉ!!』

「はっはー、猫さんこちら、こっちだぜー」


 ビャッコは前足で地面をバンバン叩き、俺を叩き潰そうとする。だが俺はその前足を華麗に躱し続け、これでもかとビャッコをおちょくった。

 そして、一撃。


「『燐音天消(りんねてんしょう)(まがつ)』!!」

『ヌォァ!?』


 ビャッコの右前足、右後足が塵となって消える。

 まさか、一度使うと一か月は腕が上がらない『燐音天消(りんねてんしょう)』を二回も連続で使えるとは……しかも、腕の負担がほぼない。


『鎧に感謝しなよ、ラスティス』

「ああ、大感謝だ。あとでキスしてやる!!」

『ヌガァァァァ!!』


 ビャッコが地面を転がる。

 前足、後足が再生しない。いや……少しずつだが再生している。

 なんとなく理解した。俺の『燐音天消(りんねてんしょう)』で塵となった手足は再生している。ビャッコが言ってた、バラバラになっても四肢は身体に戻るって。

 つまり、チリくらいに細かく刻めば、再生に時間がかかる。

 

『その間に、核を破壊すれば勝てる。ビャッコの再生は確かに脅威だけど、無敵じゃない。修復の要は核、核が許容できないほどの修復はできないよ』

「だな。じゃあ───……切り札、いくか!!」


 俺は刀を鞘に納め、立ち上がろうとするビャッコの前に来た。


『クソがぁぁぁぁ!! ルプスレクス殺し、テメェだけはァァァァァ!!』

「お前、頑なに俺の名前呼ばないのな。だったら───……会わせてやるよ」

『……あ?』


 俺は、刀を抜き、もう一度……ゆっくりと納刀する。


「『理想領域(ユートピア)』展開」


 そして、カチンと周囲に響くように、鍔を鳴らした。

 すると、ビャッコの領域の内側、俺を起点に領域が展開される。

 そして、俺の身体が光に包まれた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ビャッコの領域の内側から、別の領域が展開……膨らんで、弾けた。


『な……お、オレの領域が、消えた!? それに、この領域……』


 周囲は、暗い。

 今まで戦いを見ていたサティたちは、空を見上げて気付いた。


「よ、夜……? いつの間に?」


 アナスタシアが驚く。

 そして、エミネムは思わずつぶやいた。


「……綺麗」


 空は、満天の星空だ。

 周囲は荒野。だが、緑あふれる美しい荒野だ。

 

「お、おい……あれ」

「……嘘」


 ラストワンが指差した方向を見ると、空に巨大な『満月』が浮かび上がっている。

 そして、荒野の中心にそびえ立つ高台───……そこにいたのは。


『ウォォォォォォォォォォォォォ──────…………ンン……』


 月光を浴び、透き通るような遠吠え。

 恐怖はない。むしろ、月光で輝くその姿から目が離せない。

 高台にいたのは、巨大な銀狼。


『る……ルプスレクス』


 七大魔将『冥狼』ルプスレクス。

 その身に宿す魔獣は『フェンリル』……あまりにも神々しい、神を殺す狼がいた。

 ルプスレクスは高台から飛び降り、ジワジワ再生するビャッコの前に降り立つ。


『久しぶりだね、ビャッコ』

『て、テメェ……生きて』

『生きている、というか……僕の意識は『冥狼斬月』にある。ラスティスが『冥狼斬月』を完全に使いこなしたことで、僕の意識も安定した。『理想領域(ユートピア)』内でなら、こうして本来の姿で戦うこともできるようになったんだ』

『くっ……』


 ビャッコの四肢が回復し、立ち上がる。

 全長四十メートルを超える白虎と銀狼が対峙する。

 だが───サティたちは確信していた。


「……る、ルプスレクスが、勝ちます……よね」

「……ああ」

「……そうね」

「……はい」


 見ただけでわかった。

 冥狼ルプスレクスの放つ『圧』は、ビャッコを遥かに超えていた。


『お、お前……その強さ、まさか、隠してやがったのか!? 魔王に暴走させられたってのは……!!』

『それは本当だよ。まあ、いろいろあったんだ。それよりビャッコ……覚悟はできてるんだよね? もう、以前みたいに見逃しはしないよ』


 ルプスレクスの銀毛が逆立ち、オオカミの牙を剥きだしにする。

 

『ああ、言ってたね……虎の牙は、オオカミごときに負けないって。じゃあ───確かめてみようか』

『ぐ、グ……グォォォォォォォォォォォ!』


 狼と虎。

 巨大な獣の戦いは、一部始終を見ていたサティたちにも表現することが難しいくらい、圧倒的な光景だった。

 そして、数分が経過……ルプスレクスがビャッコの胸に食らいつき、その心臓を噛み千切った。

 

『ガ、ッァ……』

『……さよならビャッコ。まあ、そこそこ強かったよ』


 グジャッ!! と、ビャッコの心臓がルプスレクスに嚙み砕かれた。

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― 新着の感想 ―
萎え萎えご都合主義だわ せめてラプ何とかが死ななければ許容できるのに。 殺す意味なかったやろ絶対。
[良い点] 傷つきはしたけど、誰も死ななかったのはホッとしました。 [気になる点] ラクタパクシャ、復活しないのかな。ルプスレクスがラスティスの刀として復活できたなら、フルーレの刀とかで。フェニックス…
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