一級術師
「お前など、外交班で審議にかけて、社を追放してやる。」
外交班は、もちろん他国との外交も業務のうちだが、主な仕事は社へのスカウト、人事である。
社は年中人手不足だ。
だが男のいうように、たかが四級である明を適当な難癖をつけて追放することなど、造作もないことだろう。
そもそも男は二級、明は四級だ。追放といわず、罪に問い罰することすら、簡単だ。
社は階級主義なのだ。
(――それでも。)
男に蹴飛ばされた、白くて丸くて平べったい、ルンバのような見た目をした式神が、明の視界の端でヨロヨロと動くのが見えた。
明は握る力を強め、ユドウの脂ぎった顔面に向けて思い切り腕を振り上げ――
――その拳は、降ろされなかった。
「いったい、何の騒ぎだよ?」
ため息交じりの声の主に、明の腕は掴まれていた。
男はやれやれと眼鏡を、明を掴んでいない方の手で押さえた。
「……歳国殿。」
「油堂殿、どうかされましたか。そのように感情的になるなんて。」
歳国が苦笑いを浮かべ眉を下げると、油堂は盛大な舌打ちと共に掴んでいた明の髪を離した。
明は痛む頭に手をやろうと思ったが、歳国は明の腕を離さなかった。
それどころか、明の体を引き寄せる形で、もう片方の腕もやんわりと抑え込まれている。
(心配しなくても、もう殴りませんよ。)
そう思いを込めて歳国の腕の中で身じろぐが、やんわりと、だがしっかりと掴まれていて身動きがとれない。
シンプルだが生地の良いスーツと、生真面目そうな眼鏡に、人当たりのよさそうな風貌。そしてそれらすべてとギャップを感じるほど、男の耳には所せましとピアスがつけられている。
シルバーのピアスの中で一つ、控えめにあしらわれた小さな石の色は、青。
この場を収めるために呼ばれたのだろうこの男は、明と同い年であるが、一級の色を身に着けた術師。
油堂より、階級が上だ。