掃除班
浄化班。大層な名前だが、所属するほとんどが明と同じ特別な力を何も持たず、病を視認することすらできない四級官。
病は穢れから産まれる。
社において、清潔に保つことは、極めて重要であるのだが――
「おい四級!ぼさっとするな!」
明が頭上を見上げると、小太りの体をてかてかと妙に光るスーツに押し込めた中年の男が、スーツに負けず劣らずテカテカと油の光る顔をしかめている。
明が無心で、長い長い廊下に雑巾をかけていたところ、この男のつま先にぶつかったのだ。
「申し訳ございません。」
明は立ち上がり、素直に頭を下げた。
雑巾がけしているのは見えていただろうに。ちょっと横によけてくれれば、とは思うが、こういうタイプにはとっとと謝る方が早く収まると明は知っていた。
だが、ちょうど虫の居所が悪かったらしい。男は大きな舌打ちを皮切りに、掃除班の四級風情が、といった内容で明をなじりだした。
頭を下げた視界の端で、ルンバがオロオロしているのが見える。明は平べったい友人を安心させるために、片目を瞑り小さく舌を出した。
伝わったようで、ルンバの動きは大人しくなったが、心配そうに見上げている。
まあこの友人には、顔も表情もないのだが。
やけに人間くさい仕草をするので、ない表情がある気がするのだ。
(面倒な人にぶつかっちゃったな。)
ちらっと見た男のネクタイピンには、見せびらかすようにやけに大きい赤い石がついていた。この男は外交班の二級官なのだろう。
班ごとに象徴する装飾品があり、階級によって色がある。
ちなみに明の長い髪を束ねている髪紐は白であり、これは浄化班の四級官であることを示している。服は小袖と袴、社での平均的な装いである。
社において清潔に保つことは、極めて重要である。
あるのだが、所属する官はほとんどが最下層である四級。掃除班と揶揄されることも多い。
べつに、それで何も間違いではないしな、と明は思う。
だからといって、好き勝手になじられるいわれはないとも思うのだが。
「~~~だろう!?」
「はい。申し訳ございません。」
ただ高圧的に人をなじり、自分の偉さを誇示したいだけの男の話はもはや少しも頭に入っていない。それがバレないよう、タイミングを見計らって謝罪の言葉を挟み込む。
(一種のリズムゲーだ。)
男の声が無駄に大きいせいで、遠巻きに人が集まりだしている中、明は、そんなのんきなことを考えていた。