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第八十五話 復讐のズィルバー

スレイドと部下の巨漢は森の中の遺跡にたどり着いた。

朽ち果てた石造りの建造物。

ところどころに草が生い茂り、遺跡は長い年月の間放置されていたことがうかがえる。


「そのガキは石壇にでも置いておけ」


そう言われ、巨漢は担いでいたエリシアを遺跡の石壇に置いた。

深い気絶だ、しばらく彼女は目を覚まさないだろう。

スレイドは遺跡の中に入ると、そのまま地下へ降りていく。

そしてある部屋に入ったところで足を止めた。

その部屋は広く天井も高く、壁一面には壁画が描かれている。

そこに描かれていたものは…


「これは…」


人のような形をした何かだった。

いや、人ではないのかもしれない。

その壁画に描かれているそれは、おおよそ人とはかけ離れた姿をしている。


「悪魔…?」


部下の巨漢がそう呟く。

しかしスレイドは何も言わなかった。

先に進む二人。

そして…


「これはおもしろい」


スレイドが壁画の一部に触れる。

すると、壁画が淡い光を放ち始めた。

魔力に反応して、壁が光ると言うしかけのようだ。

まだその機能は生きているらしい。


「どうやら照明設備のようだな」


そしてさらに進む。

そこは回廊だった。

歩くたびに鈍い音が反響した。

そんな光景が続いていると、不意にスレイドの足が止まった。


「なにか?」


「見ろ」


彼は指をさし前方を指す。

そこに何かがいた。

それは…


「よお、遅かったじゃないか」


遺跡の奥にある間に座る一人の男。

それは、あの港町でリオンと出会ったあの男。

傭兵ズィルバーだった。


「よお大将、こんな悪趣味な遺跡に何の用だい?」


「この遺跡の造形は我らが先祖の血肉から生み出されたものだ。無下にはできまい」


「へ、意味の分からないことを…」


ズィルバーは舌打ちをし、スレイドの方を睨む。

だがスレイドに動く気配はない。

ただじっと、腕を組みながらその場に立ち尽くしていた。


「…俺が誰か気にならないのか?」


「知らん。興味も無い」


ズィルバーの問いに対し、スレイドはそう言い放つ。

たとえ相手がだれであろうと、目的の前では意味が無い。

スレイドの態度にズィルバーは小さくため息をつく。


「…まあいいさ」


そう言いながら、遺跡に転がっていた金属製の置物を手に取るズィルバー。

儀式の供物か何かだろうか。

壺のような形のそれは、どことなく武器のようにも見えた。

そして…


「お前はここで…死ぬんだしな!」


そう言った瞬間、ズィルバーの姿が消えた。

いや、そう見えただけだ。

彼の姿が残像を残しながら高速で移動し、その勢いのままスレイドに襲い掛かる。

しかし…


「遅い」


そんなズィルバーの攻撃が当たるはずも無く、彼はあっさりとかわした。

ズィルバーの攻撃は空を切り、遺跡の壁を破壊する。

金属製の置物を、棍棒のように使った攻撃だ。


「破壊力は高い。相当な手慣れのようだな」


「ああそうだ。お前を殺すために、今日まで鍛え上げたからな!」


「ほう」


「俺は、お前がかつて滅ぼした村の生き残りだ」


そう語るズィルバーの顔は、怒りに満ち溢れていた。


「お前をこの手で殺すためにッ!!」


ズィルバーはスレイドに向けて再び襲い掛かった。

かつて彼の村はスレイドが滅ぼした。

その復讐を果たすために彼は今日まで生きてきたのだ。

そのために強くなった。

そして今日がその日だ。

だが、スレイドは鼻で笑った。

それはズィルバーを嘲笑うかのように。


「くだらん」


「なんだと!?」


まるで彼のことなど眼中に無いように。

いや、実際そうなのだろう。

彼にとっては取るに足らない相手なのだ。

そんなスレイドの態度が気に障ったのか、ズィルバーはさらに激昂する。

そして再びスレイドに向かって攻撃を繰り出すのだった。


「そんな感情など、俺にはどうでもいいことだ」


次の瞬間、ズィルバーの蹴りが空を切る。

態勢を立て直し、一旦スレイドと距離をとる。

幸いなことにこの遺跡内はそこそこ広い。

戦うには申し分ないと言える。

と、その時…


「…おい、何の冗談だッ!?」


ズィルバーが叫ぶ。

スレイドは後ろに下がり、その代わりに部下の巨漢が彼の前に出た。


「この男は、俺ほどではないが腕が立つ。お前の遊び相手としてはちょうどいいだろう」


「ふざけるなッ!」


ズィルバーの叫びに対し、スレイドはため息をつく。

巨漢はズィルバーを見据えると、ゆっくりと構える。

だがズィルバーの方も準備万端だった。

先程よりもさらに早く…

いや、残像を残すほどの速さで突進する。

対して、巨漢の方はその場から一歩も動かない。

互いの距離はみるみる縮まり、やがて二人はぶつかりあった。


「ぐッ…!」


苦悶の表情を浮かべるのはズィルバー。

巨漢は微動だにしていない。

ただ拳を突き出しただけの一撃で、ズィルバーを吹き飛ばしたのだ。

彼はそのまま壁に激突し、遺跡の壁を崩しながらその奥へと転がっていった。

一方の巨漢は全く無傷だった。

そんな光景を見てスレイドが口を開く。


「この程度の相手に何を手間取る?」


「申し訳ありません」


「まあいい…これで邪魔者は消えたな」


そう言ってスレイドは部屋を後にする

地下遺跡から地上へとでる二人。

しかし…


「待てよ…何逃げてんだよ」


遺跡の中からズィルバーが追ってくる。

あの巨漢が相手ならば、狭い遺跡よりも、広い地上の方が戦いやすい。

そう考えたズィルバーは戦場を地上へ変えたのだ。


「しぶといな」


「あまり俺を舐めるなよッ!!」


ズィルバーは巨漢に襲い掛かる。

だが…

スレイドは興味が無いといった様子でそれを眺める。

ズィルバーの攻撃を避けようともしない。

彼の一撃が巨漢の顔面に炸裂する。

その衝撃で巨漢がよろめいた。


「やったか!?」


だが巨漢は何事も無かったかのように元の姿勢に戻る。

そしてズィルバーの首を右手でつかむと、そのまま持ち上げた。


「ぐッ…あ…」


「チィッ!」


巨漢はズィルバーを地面に叩きつける。

そしてそのまま彼の頭を踏みつけようとした。

だが…


「ぐッ…」


身体を転がし、その攻撃を回避するズィルバー。

巨漢の脚はそのまま地面の石畳を砕く。

あんなものを喰らってはひとたまりもない。

ズィルバーは立ち上がり、再び構える。


「なにをしている、早く片付けろ」


スレイドの声を聞き、巨漢がズィルバーに突進する。

巨漢の右拳がズィルバーに襲い掛かる。

それをかわすズィルバーだったが、完全には避けきれず、彼の頬に切り傷が入る。

さらに巨漢は左拳を繰り出す。

その攻撃も何とか回避するズィルバーだったが、ついには腹部に一撃をくらってしまう。

そのまま吹き飛ばされるが、空中で体勢を整えて着地した。

そして…


「くッ…こいつは使いたくなかったが…」


「殺す…ッ!」


「仕方がねェ!」


ズィルバーが懐から何かを取り出した。

複数の小さな瓶、それを勢いよく巨漢へと投げつけた。

それは彼が自作した爆薬。

先日、酒場で手に入れた酒の瓶を使い、作ったものだった。


「ぬうッ!?」


「テルーブ国の特製火薬だ、受け取れ!」


さすがの巨漢も、こんな手をズィルバーが使ってくるとは思ってもいなかった。

瓶が割れ、中に入っていた爆薬が巨漢に襲い掛かる。


「ぐああああああッ!?」


強力な爆薬をもろに受けたのだ。

ダメージは半端な物では無い。

激痛に悶える巨漢、だが彼は生きていた。

ボロボロの身体のまま、ズィルバーへと突進してくる。

自身が生き残ることなど考えてもいない特攻じみた行為。


「うおおッ!!」


ズィルバーの渾身の一撃。

巨漢はそれをかわしきれず、脇腹に直撃する。

そしてそのまま地面に倒れ込んだ。

そんな彼をズィルバーは睨みつけた。


「次はテメエだ…!」


面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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