第八十四話 呪われた剣士のマティウス
「…ついてこないほうがよかったんじゃないか?」
「そんなわけにはいきません!」
リオンの隣でアリスは叫ぶ。
彼に言い切られても彼女は譲るつもりは無いようだ。
リオンとアリスは、スレイドの指さした遺跡へ急行するべく山道を駆けていた。
すでに周囲は暗くなり、辺りから闇がせり上がってくるのがわかる。
ここまでくるとさすがに森の中も薄暗く、不気味な雰囲気が漂ってくる。
しかし二人はその中を躊躇うことなく進む。
むしろ、この辺はまだ明るいほうだといえる。
だが決して油断のできる状況ではない。
「私だって守られるだけじゃなく、リオンさんを守ります!」
「アリス…」
「それに…あの時、あの男から感じた魔力!」
「ん?」
「私は感じました。あの男が発する不気味な魔力を」
アリスのその話を聞いてリオンも思い出す。
確かにスレイドという男から感じる異様な雰囲気…
森の中を進みながら、二人は状況を整理する。
まず第一に、あのスレイドという男はガーレットの兄ということだ。
そしてスレイドはかなりの強さを持っている。
それは以前戦ったガーレット、そしてイレーネよりはるかに上だろう。
第二に、リオンとスレイドが戦わなければならない理由。
これはあの男は『ゲーム』と称しており、その理由については説明されていない。
ただ単にリオンと戦うことが目的なのか…
いや、だとしてもわざわざここまでする必要は無いだろう。
そして第三の疑問点。
「なぜエリシアを…」
「わかりません、けど私はあの人がとても危険だと思っています」
アリスの見立ては間違っていないだろう。
あのスレイドという男は、ガーレットとは比べ物にならないほど強い『何か』を持っている。
それはリオンにもわかっていた。
「(これは、戦いで収まるのか…?)」
そう考えるリオン。
だが、今はその疑問を後回しにするしかないだろう。
とにかく今は遺跡に向かうことが最優先である。
二人はさらに森の奥へと足を踏み入れたのだった。
そして…
「ここは…!」
そんなアリスの声と共に、リオンとアリスの二人は立ち止まった。
彼らが立っている場所。
そこに広がっていた光景は…
「ここが遺跡…?」
そう呟くアリスだったが、彼女がそう思うのも無理はないだろう。
石畳が広がる広場。
崩れた石のモニュメントのようなもの。
それらが並ぶ場所だったからだ。
しかし、そこはとてもじゃないが『遺跡』と呼べるような雰囲気ではなかった。
スレイドの気は居も感じない。
いや、むしろこれは…
「…廃墟」
「リオンさんッ!あれは…!」
アリスが叫ぶ。
彼女が指さした先には、一人の男が待っていた。
スレイドと共にいた部下の男、あの黒いローブの青年だ。
青年は二人の気配を感じたのかこちらに振り向く。
「やあ、お待ちしておりましたよ」
そう言ってニコリと微笑む青年。
彼は一体何者か。
そんなことを考えるリオンだが、今は彼の素性などどうでもいいことだ。
それよりも気にすべきは、なぜこの場所に彼がいるのかということだ。
スレイドの姿は見えない。
…これも『ゲーム』の一環ということか。
「…お前か」
「はい」
「エリシアをどこにやった?」
「ああ、その事ですか…」
すると、青年は右手をリオン達のほうに突き出した。
警戒するリオン。
魔法攻撃か、アリスを狙う気か…?
そう考えるも攻撃を仕掛けてくる気配はない。
特に何かをするわけでは無いようだ。
エリシアの身柄はスレイドに渡した。
とだけ言った。
「スレイドさんならこの先の遺跡にいますよ。『彼女』もね」
「なぜわざわざこんなことを?」
「ふふふ、気になりますか?まあその疑問は当然ですね…」
楽しそうに笑う青年だが、次の瞬間にはその表情から笑顔が消える。
いや、消えているのではない。
変わったのだ。
「全ては決闘、ゲームですよ…!」
そう叫ぶと同時に、青年が武器を取り出す。
その武器は、以前イレーネを一撃のもとに切り捨てたあの剣。
そして…
「あ、あれって!?」
アリスが叫ぶ。
そう、その剣はアリスがかつて入手し、自宅に隠していたあの『呪われた剣』だった。
数日前に家に寄った際に盗まれたことに気付いてはいたが、まさかこの青年が持っていたとは…
「ふっ」
そう言って剣を構える青年。
彼のその様子を見てリオンも剣を抜く。
そして彼はアリスに告げた。
「アリス!下がってて!」
「は、はい!」
そう言い残してリオンと青年は対峙する。
呪われた剣を構える青年。
「我が名は『マティウス=モーティヴ』!貴様の首、ここで貰い受けるッ!」
「俺の名はリオン!決闘だと言ったな、いざ勝負!」
こうして、リオンとマティウスとの戦いの火ぶたが切られた。
先手を打ったのはマティウスだった。
彼は呪われた剣でリオンに斬りかかる。
「はぁぁッ!」
気合の入った一撃を放つマティウスだが、その斬撃をリオンは受け流す。
しかし…
「ふふ…!」
不敵な笑みを浮かべるマティウス。
すると次の瞬間には彼の姿が消えていた。
いや、消えたのではない。
リオンの背後に現れたのだ。
そして同時に呪剣の一撃が繰り出される!
「高速移動…ッ!」
なんとか反応して攻撃を防ぎきるリオン。
だが、それでも腕に衝撃が走った。
やはりマティウスは強い。
人間体のバッシュよりも上だろう。
「やるな…」
「そちらこそ」
互いに距離を取る二人。
そして今度は同時に攻撃を仕掛けた。
「うおぉぉッ!」
「はぁぁっ!」
激しい剣の打ち合いが始まる。
しかし戦況は徐々にリオンが不利になっていく。
マティウスの剣撃の重さに思わず顔をしかめるリオン。
だが彼の猛攻は止まらない。
そして…
「終わりだ!」
そう言ってマティウスが剣を振りかぶり、その刃をリオンに向けて振り下ろす。
しかしその時だった!
「なッ!姿が…消え…?」
困惑するマティウス。
リオンの姿が消えていた。
いや、消えたのではない。
マティウスの背後に現れたのだ。
「この技はッ!?」
「さっき使われた『高速移動術』、俺も使わせてもらった…!」
さきほどマティウスが使った高速移動術。
それを瞬時にコピーし、彼の後ろに回ったのだ。
見よう見まねのコピーだったためこの一回しかつかえない。
しかしうまく意表を突くことだけは出来た。
鋭い一撃がマティウスに叩き込まれた。
「うッ…」
そして、次の瞬間には彼は地面に膝をつきそのまま倒れてしまった。
どうやら意識を失ったらしい。
彼の手から剣が零れ落ちる。
「この剣…」
「さわっちゃだめだ、アリス!」
「は、はい!」
あの剣の恐ろしさはリオンもよく知っている。
以前、アリスの家で見た時のことを思い出す。
今になっても、手が震えてくる。
あんなものをずっと保管していたアリスはどれだけの恐怖を覚えていただろうか
「アリスが背負う必要は無いよ…」
そんなに呪われた剣が欲しいのなら、喜んで譲ろう。
倒れるマティウスに向け、剣を蹴り飛ばすリオン。
とりあえず今は進むしかない。
二人は倒れたマティウスを残してさらに遺跡の奥へと足を進めるのだった。
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