第八十二話 島へ…
古代遺跡のある南の孤島。
その名を、キシャル島。
この島の遺跡に、貴重な遺産が眠っている。
ロゼッタからの依頼を受け、それらを調査しに行くのだ。
それ以外にも、島に生息している植物や動物も調査対象だ。
「この島かぁ。例の火山島って」
「そうみたいだな」
「よし、船を泊めるぞ」
キシャル島。
火山島にしては広く、自然の多い島だといえる。
一行は船でこの島へとやって来た。
「アリス、エリシアは?」
「ちょっと船に酔っちゃったみたいね…」
「うぅ~…」
船の中から苦しそうな声をあげて出てくるエリシア。
船から降りて深呼吸を続ける。
彼らがこの島を訪れた理由。
当然、無意味に来たわけでは無い。
それは…
「この島に強大な古代魔法が眠っているというのは本当なのかな?」
「伝承の通りなら、そうですね」
「ただの火山島にしか見えないが」
「島のあちこちに小さな遺跡があるの。きっと昔の人が使っていたのね」
シルヴィのその問いに対し、そう答えるアリス。
この島には、かつての古代魔法の痕跡が眠るといわれている。
島の各地にある遺跡を巡り、その位置を紙に纏めていく。
今は古い地図と照らし合わせ、あくまで簡易的な地図を作っているだけ。
本格的な調査では無い。
それでもある程度時間がかかり、数時間が過ぎた。
「あっちに屋根のある遺跡もあるみたい。拠点として使いましょう」
「つかってもいいのかな?」
「壊さなければ大丈夫ですよ」
リオンの問いに対しそう言うアリス。
この辺りにあるのは岩で造られた大きな遺跡が多い。
滅多なことでは壊れることは無いだろう。
既に日も沈みかけているため、今日はここで休息。
明日から本格的な調査をすることに。
ついでに食事の用意もする。
「アリス、荷物はここでいいか?」
「はい。そこにおいてもらえると助かります」
「ありがとうございます、リオンさん」
まずはこの遺跡を拠点とする。
その中から食料の入った袋を取り出しアリスに手渡すエリシア。
「はい!」
「ありがとう、エリシアちゃん」
「僕はは食料を探してくるよ。川魚くらいはいるだろう」
そう言ってシルヴィは釣竿と籠を持つ。
そして少し離れた川へと向かっていった。
「俺も何か探してくるよ」
リオンも林を回り、薪となる枝を集めることに。
ついでに食料になりそうな物も集めて回る。
木の実や野草、小動物などだ。
そしてある程度時間が過ぎ、リオンは拠点の遺跡へ戻ってきた。
「いろいろと取ってきたよ」
既にアリスは小さな鍋で水を沸かしていた。
その横ではエリシアが持ってきた食料の調理をしていた。
以前の旅の中で多少の調理を教わっていたらしい。
「変な物を料理してない?」
「してないよー」
エリシアが笑いながら言った。
以前、変な物を使った料理をしていただけに少し心配だった。
味は文句なしなのだが…
「もう日も落ちかけてるし、今日は…」
今日はここで休息を取りね明日に調査を再開しよう。
アリスがそう言いかけたその時だった。
なにやら妙な気配を感じた。
野良動物などでは無い。
もっと別の何か。
敵意を持つ人間の気配だ。
「リオンさん、どうしたの?」
「…少し離れててくれ!エリシアと一緒に!」
そう言ってあたりを見まわすリオン。
アリスは彼の言葉を受け物陰に隠れる。
そしてそれと共に謎の人物たちが物陰から姿を現した。
「お前たち何者だ?」
突然アリスたちの前に現れた謎の三人組。
突如現れた謎の三人組。
黒いローブの青年。
小柄な少女。
全身にトライバル柄の刺青をいれた巨漢。
「単なる旅人ってわけなさそうだな」
「まあな」
「へへへ…」
「ふふふ…」
三人の目には明らかに敵意が込められている。
そして突然、リオンに襲いかかった。
巨漢が頭を狙って殴り掛かってきた。
それを避けできる限りアリスたちから離れる。
しかしそれが隙となってしまった。
青年と少女の二人に腕の間接を極めかけられる。
「しまッ…!?」
急いで彼を蹴り飛ばし腕を引っ込める。
そして返す刀で巨漢の顔面に拳を叩きこむ。
そのまま叩きつけただけなので全力を込めたわけではない。
しかしいい感じに虚をつく形となった。
そのまま顔を抑えながら倒れる巨漢。
「うぅ…」
「答えろ、何故俺たちを襲う?」
そう問いかける。
しかしそれを聞きながらも不敵に笑い続ける青年と少女。
間違いなく敵意を持っているこの二人。
物取りとはまた違うようだ。
と、その時…
「やだ、離して!離してよ!」
「黙れ」
刺青の巨漢がエリシアを捕えた。
倒れたふりをして少しずつ近づいていたのだ。
気配を悟られることなく、正確にそれをこなす。
この巨漢、見た目よりもずっと慎重な男のようだ。
「…ッ!」
「離せ、離せよ!」
「うっ」
エリシアを睨み付け、黙らせようとする刺青の巨漢。
それでも静かにしないエリシアに苛立ちを覚えたのだろう。
刺青の巨漢は片手で抱えた彼女を無理矢理気絶させた。
それを見たアリスが叫ぶ。
「あなた達は一体なんなの!?」
「下がってアリス!」
「あまり手荒なことは…」
出来るだけ話し合いで解決したい。
そう考えたのだろう。
謎の三人組に対し、ゆっくりと歩み寄るアリス。
しかし三人組にそのような考えは無かったようだ。
刺青の巨漢はアリスを蹴り飛ばし、思い切り遺跡の壁に叩きつけた。
「死んだな。あの女」
青年がそう呟く。
叩きつけられた先の壁は砕けている。
石が砕けるほどの衝撃だ。
人間が叩きつけられればどうなるか。
まず間違いなく骨は砕けた。
内臓も無事では済まない、確実に助からない…
「痛たたた…」
「何…ッ!?」
「私じゃなかったら死んでたわよ…」
アリスの意味深な言葉。
彼女が軽傷で済んでいるという事実。
それに驚く三人。
「大丈夫か、アリス!?」
「はい、リオンさん。それより…」
視線を三人組へ向ける二人。
確かにアリスの言うとおり。
見る限り、アリスは本当に大きな負傷はしていないようだ。
軽い擦り傷のみで済んでいる。
どうやら平和的解決は無理だ。
と、そこにあの男が戻ってきた。
「何をしている…ッ!」
籠いっぱいの魚と釣竿。
それをその場に静かに歩み寄るシルヴィ。
ちょうど食料の調達を終え戻ってきたのだ。
エリシアを捕える謎の青年を鋭く睨み付ける。
それに威圧される青年。
「あの方の命令でな…」
「事情など知らん。はやくエリシアを返せ!」
怒りの混じった声でそう言うシルヴィ。
剣こそ抜いてはいないが、いつでもすぐに抜ける態勢。
相手もそう易々とエリシアを返すわけがない。
シルヴィとアリスが謎の三人と対峙する。
しかし…
「フハハ…」
「チィッッ!、エリシアを返せ!!」
謎の青年と少女。
その二人はエリシアを担ぎその場から全力で離脱した。
舌打ちをしつつ、それを追いかけるシルヴィ。
何か目的があるのかもしれない。
警戒をしつつ追跡をする。
と、その時…
「貴様が『リオン』という男か」
その場に現れたその男。
完全に気配を殺し、ここまで誰にも気づかれずに来たのだろう。
先ほどの巨漢と似たような技。
だがこの男の方が確実に数段上。
恐らくこの謎の集団のリーダー格、なのだろう。
「お前はッ…!?」
長い髪、鋭く冷たいその眼光。
比較的身長の高いシルヴィよりもさらに一回りは大きいその身体。
防具の間から僅かに見えるその身体は一切無駄の無い筋肉で覆われていた。
そしてこの佇まい。
恐るべき実力を持っているであろうことが容易に想像できる。
「どうした?何を驚いている」
これまで出会ってきたどんな人物とも違う。
そう感じていた。
だがそれと同時に、この男からある者を連想していた。
この場にいるはずもない人間を。
それは…
「ガ―レット…!?」
この場にいるわけがない人物の名を上げるリオン。
目の前にいる謎の人物。
この男の目的は…?
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