第八十一話 傭兵ズィルバー・ライヤー
「この動き…!メルーアの!?」
「お前、あいつを知っているのか…?」
リオンのその言葉を聞いた青年は驚いたような顔を見せた。
そして青年はそう問いかけてきた。
リオンはその問いには答えず、逆に問いかけた。
すると青年は静かに語り始めたのだ。
メルーアと一時期、手を組んで戦っていたということを。
「俺の名前はズィルバー。『ズィルバー・ライヤー』だ」
青年はそう名乗った。
その名前にはリオンも覚えがある。
メルーアと共に戦っていた傭兵の一人だ。
「おい、さっさと戦え!」
その様子を見ていたベルドアが叫ぶ。
しかしそんな彼にズィルバーが歩み寄っていく。
そして…
「悪いが気が変わった」
そう言ってベルドアを殴り飛ばすズィルバー。
どうやら戦う気を完全に無くしたらしい。
「契約は破棄だ」
彼のその言葉を聞き、ベルドアの一味は逃げ出していった。
その後ろ姿を見ながらズィルバーは笑う。
そしてリオンにこう言い放ったのだ。
「メシでも喰いながらいろいろ話さないか?」
と。
リオンたちはさきほど屋台で小さな魚を食べただけだったため、まだ腹には余裕がある。
ズィルバーはリオンたちを港から少し離れた場所に案内した。
そこは小さな酒場だった。
二人はカウンター席に座り、料理を頼む。
出てきたのは魚の塩焼きと肉のシチューだった。
早速、リオンたちは食事を始めた。
そんな彼らを見てズィルバーが言う。
リスターの魔法都市で起きた事件を話すズィルバーの表情はどこか楽しげだった。
そんな彼の話を聞きながら、リオンは思うのだった。
(この人は悪い人じゃない)と。
「それにしても、農業用の鎌を武器に使うのは珍しいですね…」
ズィルバーが武器として使っていた農業用の大きな鎌。
リオンはそのことが気になっていた。
そういったものを武器として使う者は珍しい。
魔法を使う者ならば、杖の代わりに使うことも無くは無いが…
「俺は武器にこだわりは無いんだ。使える物は何でも使う」
そう言ってズィルバーは笑う。
確かに彼ならば何でも使いこなせそうだ。
リオンは彼の才能に感心した。
そんな会話をしながら食事を続ける一行。
そんな中…
「…?」
ふと、食事をするエリシアに視線を移すズィルバー。
しかしすぐにその視線を戻した。そして食事を再開するのだった。
他の者は誰も気づいていない。
そんな彼の様子を見て、シルヴィは考える。
「(彼は…)
ズィルバーに感じていた違和感の正体がわかった気がする。
彼は確かに強いのだろう。
しかしそれ以上に何かを隠しているように感じたのだ。
「おっと、少し話がそれたな」
とズィルバーは話を戻し話を続ける。
メルーアの仲間たちと一緒に旅をしていたことや、彼自身も傭兵として戦いに参加していたこと。
そんな彼の話を聞きながらリオンは思った。
「(そうだ!)」
そう考えたリオンはあることを思いついたのだ。
それはズィルバーに協力を求めることだったのだが…
「まあ、協力したいところなんだが…」
ズィルバーはそう言って頭を掻いた。
そんな彼を見てリオンは言う。
「何か問題があるんですか?」
「ああ、実はな…」
ズィルバーは少し困った顔をしていたが、やがて口を開いた。
どうやら別の仕事があるらしい。
そのため手伝うことは出来ないとのこと。
「まあ、傭兵は仕事だからな。仕方ねぇさ」
そう言って笑うズィルバーにリオンは言った。
「あの…また会えますか?」
と。
そんなリオンの言葉にズィルバーは少し驚いたような表情を見せたがすぐに笑みを浮かべる。
そして言ったのだ。
「さあ、もう二度と会うことも無いかもしれんな」
そう言うと、ズィルバーは席から立ち上がった。
既に食事を終えたらしい。
「金は俺に払わせてくれ」
そう言って店の店主に金を出すズィルバー。
そのついでに、小さな瓶に入った酒を何個か買っていった。
後で飲むのだろうか。
そんなズィルバーを見送りつつ、リオンは思う。
「(また会えると良いんだけど…)」
ズィルバーとの出会いはリオンにとって忘れられないものになっただろう。
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ちょうどその頃、先ほどリオン達を襲撃したベルドアの部下達は逃げて散り散りになっていた。
一部はそのまま逃げだし、また一部は安酒を飲み酔いつぶれていた。
そして…
「かぁ~ッ!やってられねぇ!」
そのことをただ一人嘆く者がいた。
盗賊団『赤獅子』の首領であるベルドアだ。
金はズィルバーに先払いで渡してしまった。
リオンを倒すために大金をはたいたのだが、結局はムダ金となってしまった。
「これじゃあしばらく女も抱けねえ!まったく面倒なことになったぜ…」
町の酒屋で安酒を買いそれを飲みながら、彼はあても無く道を練り歩いていた。
周囲から見れば単なる酔っ払いかチンピラかなにかに見えていたのだろう。
ふと気が付くと彼は町の外れにある墓地に足を運んでいた。
ここはあまり人も来ない静かな場所だ、これからのことを考えるのにも都合がいい。
「暫くは本業の方に精を出すしかねぇなぁ…」
本業と言っても、当然盗賊行為だが。
そう思って酒を口に運ぼうとしたその時、誰かと肩がぶつかった。
こんな町の外れで人と出会うのは珍しい。
「おい、どこ見て歩いてやがる!」
苛立った声で怒鳴るベルドア。
思わず腰の刀に手を伸ばしかけるも、ぶつかった相手を見て彼はすぐその手を止めた。
ベルドアがぶつかった相手は、背が高く、体格も良い。
年齢は十代後半くらい。
顔立ちは整っており、髪は濃い茶色のような赤色をしている。
そしてまるで黒いローブを身に纏っている。
「チッ、若造が…」
自身の言葉で、再び先ほどのリオンとズィルバーのことを思い出すベルドア。
それを忘れようと手に持っていた安酒を再び一気に口に運ぶ。
一方でその男の髪が静かに風になびく。
「ふふふ…」
「あ、どっか行け!消えろ!」
そう言い放つベルドア。
しかし男はその場から動こうとはしない。
彼の瞳が何かを感じさせる。
「ッ…!」
安酒がもたらした悪酔いが一気にベルドアの身体から消えていく。
目の前にいる男から何か妙な気配を感じ、彼と距離をとる。
背中を向けてはいけない、そう彼の本能か告げていた。
「お前…何者だ!」
今まで感じたことの無い恐怖にその場を動くことすらできないベルドア。
彼は度胸も人一倍持っているつもりだ。
しかし…
「(こいつ…!?)」
「ここは墓場だ、ちょうどいい…」
その言葉と共に、彼は鞘から一本の剣を取り出した。
ローブに隠れていたため、ベルドアも彼が剣を持っていることを見落としていたのだ。
「な、なんだ!その剣は!?」
鞘に入った見た目、は何の変哲もない普通の剣。
だが、鞘から少しだけ引き抜くとそれは一変。
その刀身には禍々しい模様が浮かび上がっていた。
「呪われし剣、と言ったところです」
「…ッ!」
この瞬間、ベルドアは理解した。
このままでは確実に『斬られる』、何としてでもこの場から逃げなくては。
そう考えるが身体かまるで金縛りにあったかのように動かない。
「姿を見られた以上、お前はここで…」
そう言って彼がベルドアの下にゆっくりと歩み寄ってくる。
このままでは…
「クッ…オラァ!」
男が喋ったその一瞬の隙を突き、ベルドアは最後の賭けに出た。
一瞬の隙を突き行動を起こすことが彼の最も得意とすることの一つ。
自身がいつも持ち歩いている爆弾を自分と彼の立っているちょうど中央部分に投げ炸裂させたのだ。
元々は破壊活動などに使用する爆弾であり、破壊力は非常に高い。
しかし仮に投げつけたとしても恐らく通用しない。
そうベルドアの勘が告げていた。
「これは…!」
男は剣の刀身で爆風を全て防いだ。
しかしその視界は少しの間奪われてしまう。
爆風が全て晴れたとき、その場からベルドアの姿が消えていた。
彼の前には爆発によって大きくえぐられた地面が残るのみ。
「逃げ方だけは一流か」
ベルドアはその僅かな時間を使いその場から逃れたのだ。
自身の爆弾により多量の傷を負いながらの手痛い代償と共に、だが。
「どうせ遠くには逃げられん。追うか…」
そう言いかけたその時だった。
彼に何者かが告げる。
「追うな」
と。
「遊び過ぎだ」
何者かがさらに続ける。
それを聞き、男は剣をしまった…
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