第八十話 名も無き港町
森の中の道を進むリオン、アリス、シルヴィ、エリシア。
目的地は、古代遺跡のある南の孤島。
その名を、キシャル島。
この島の遺跡に、貴重な遺産が眠っているという。
ロゼッタからの依頼を受け、それらを調査しに行くのだ。
それ以外にも、島に生息している植物や動物も調査対象とのことだ。
「ふふふ、楽しみです」
そう言いながら、軽い笑みを浮かべるアリス。
彼女は知識欲の塊だ。
だからこそ、色んなところに赴きたいのだろう。
薬師という立場上、知識が増えればそれだけできることも増えていく。
それが楽しくて仕方がないのだ。
そんな彼女にリオンはくすりと笑みを漏らすのだった。
「そろそろかな」
そう言うリオン。
とはいっても、目的地であるキシャル島につくわけでは無い。
その島に行くために、とある小さな港町に寄ったのだ。
「港町に着いたぞ」
キシャル島へ行くための港町にたどり着いた。
名前は無い。
みな、『キシャルの港町』とか、ただ単に『あの港町』とか呼んでいるらしい。
一旦ここで準備をし、船を借りてキシャル島へと向かうのだ。
「で、まずはどうするんだい?」
「とりあえず、今日は一旦休んで明日に島へ向かおうと思う」
シルヴィの問いに対し、リオンが答える。
とりあえずリオンたちは、まず食事をとることにした。
朝から歩きとおしだったこともあった。
それに船に乗るのだ。
体力をつけておかなければ。
「あ、あれ美味しそうです」
とアリスが指さす先には、屋台があった。
そこでは串に刺された魚が焼かれている。
香ばしい匂いが漂ってくる。
「じゃあ、食べよっか」
そんなリオンの言葉と共に、四人で屋台に向かうのであった。
店主から魚の串焼きを買い、それを皆に渡すリオン。
「ん~っ! 美味しいです!」
そんな声と共にアリスは満面の笑みを浮かべる。
「海の魚というのも悪くないな。癖になる」
「うん、美味しいね」
と、シルヴィとエリシアは同意する。
そんな二人も幸せそうな表情を浮かべている。
四人で食べる串焼きは、とても美味しかった。
「おかわりもいいよ」
「あ…でも…」
ふと、アリスが声を漏らす。
そして少し寂しげな表情を浮かべた。
「どうしたの?」
そんなアリスにリオンは問いかける。
すると彼女は少し恥ずかしそうに言った。
「…お小遣い…足りるでしょうか?」
「えっ?」
予想外の答えに、リオンは思わず声を上げる。
そんなリオンの反応にアリスは首をかしげる。
「あ、いや…なんかそんな反応されると思ってなかったからさ」
慌てて弁解するリオン。
そんな彼にアリスは答える。
「あはは…なんだか夢中になっちゃったせいで…」
と照れ笑いをするアリス。
そんなアリスの様子を見て、リオンもまた微笑むのだった。
「そこまで高い物じゃないからさ、好きなだけ買っていいよ」
「じゃあ、もう一個…」
「ははは」
食事を終えた四人は、港に向かった。
明日、船に乗って目的地である島へと向かうのだ。
渡る海をゆっくりと眺めておきたい。
そう考えたからだ。
「綺麗な景色だね」
とリオンが言う。
視線の先には、広大な海が広がっていた。
透き通るような青色の海は、とても美しいものだった。
内陸に住む者にとって、海などめったに見る物では無い。
「本当だね…」
エリシアもそれに同意する。
青い空と青の海。
そのコントラストが美しく、同時に幻想的でもあった。
そんな光景に見惚れる一同だったが…
「おい!」
突然、声をかけられた。
振り返るとそこには荒々しいならず者たちの姿があった。
その姿、どこかで見たことがあるような…
「おい! お前ら!」
そんな叫びと共に、一人の男が前に出てくる。
その顔を見て、リオンは思い出した。
彼は以前、荒野で戦ったことのある男。
「確か盗賊団の…ベルドア!」
そう。
リスターの魔法都市へ向かう途中の荒野で戦ったあの盗賊団。
盗賊団『赤獅子』の首領であるベルドアがそこにいた。
その姿を見て怖がるアリス。
彼女を、自身の後ろへと下がらせるリオン。
「あの時はよくもやってくれたなぁ」
「どうやってここまで…」
そう呟くリオンに、ベルドアは答える。
「決まってるだろ? 仲間がお前らにやられたんだ。だから仇討ちにきたんだよ」
そんなベルドアの言葉に、シルヴィとエリシアが反応する。
そして二人は武器を構えた。
「今度は好き勝手やらせないよ」
「そうだ。貴様ごときに負ける我々ではない」
と、二人はベルドアに言い放つ。
そんな二人を見て、ベルドアはにやりと笑った。
彼の仲間たちも笑みを浮かべる。
そしてリオンたちに向かって、こう言い放ったのだ。
「おっと、今回は助っ人を呼んであるんだ。お前たちを倒すためになぁ!」
そう叫び、ベルドアが指を鳴らすと、一人の青年が現れた。
細身の長身で、大きめの帽子をかぶった青年。
彼は不敵な笑みを浮かべ、リオンたちを見つめていた。
「こいつか?アンタが言っていたのは」
「ああ、頼むぜ。お前には高い金を払っているんだからな」
そう言って、ベルドアは青年の肩を叩く。
青年は帽子を取り、リオンたちに言った。
「恨みは無いが、お前たちには死んでもらう」
と。
「みんな、下がってて」
この青年の相手は自分がする。
リオンはそう決意した。
その意思をくみ取ったシルヴィは無言で下がる。
「アリスちゃん、こっち」
「うん。リオンさん、負けないで」
エリシアとアリスも下がる。
青年は鋭い目つきのまま、無言でリオンたちに近づいてくる。
他のベルドアの部下たちは動く様子を見せない。
全てこの青年に任せる気なのだろう。
「言っておくが、俺は強いぞ」
そんな青年の言葉にリオンは身構える。
そんな彼を見て青年は不敵な笑みを浮かべる。
「行くぜ!」
そう言って、青年は駆け出す。
その動きは素早く、隙のないものだった。
だが…
「(遅い!)」
リオンはその動きを目でしっかりと捉えていた。
そして冷静に攻撃を見切り回避する。
追撃を受け止めようとするが…
「(いや!これはフェイントだ!)」
とっさに身体をそらし回避するリオン。
そんな彼を青年は追撃してくる。
「てあッ!」
青年は武器として、大きめの農業用の鎌を持っていた。
それをリオンに振り下ろす。
しかしその攻撃をリオンは受け止める。
そして青年は再び鎌を振り上げるが…
「(ここだ!)」
リオンはそのタイミングを逃さず、青年の腹部を蹴り上げた。
強烈な一撃を受け、青年は吹き飛ばされる。
しかしすぐに体勢を立て直した。
そんなリオンの姿を見て、シルヴィは感心するよう頷いた。
青年が再び攻撃してくる。
「速い!」
そのスピードは、今まで戦った敵の中でもトップクラスだった。
だがリオンは冷静にその動きを見切り、回避する。
「この動き…どこかで…」
そしてリオンはあることに気づいた。
それは青年の動きだ。
どこかで見たような動きをしているように感じたのだ。
「(そうだ!これは…)」
そこで彼は気づいた。
この青年の動きは…
「この動き…!メルーアの!?」
そう、リオンの友人でもあり、恩人でもある人物。
メルーアの動きにとてもよく似ていたのだ。
その言葉を聞いた青年は驚いたような顔を見せた。
一旦攻撃の手が止まる。
そして…
「お前、あいつを知っているのか…?」
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