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第七十八話 イレーネへの裁き…?

 一方その頃…


 王国の兵士に捕まったイレーネ達。

 これまでに行った数々の犯罪行為が明るみになり、

 王国中に衝撃が走った。

 そしてついに、イレーネ率いる集団への裁きが下されることとなった。

 王国騎士団は、彼女達を裁判にかけるため、王都の広場へ連行をしていた。

 連行された広場には、すでに多くの人々が集まっており、彼女達の姿を見るなり罵声を浴びせ始める。

 それはまるで見世物のようでもあった。


「(ふん、なんとも滑稽な)」


 イレーネは心の中で嘲笑っていた。

 だがここで下手に抵抗すると何をされるかわからないので大人しく従うことにする。

 それにしてもこの大勢の人間どもの前で裁かれることになるとは、なんとも惨めなものだ。


「おい!さっさと歩け!!」


「わかってるわよ」


 兵士の一人が怒鳴るように言ってくるので、仕方なく従うことにした。

 ゆっくりと歩き出すと周りから歓声が上がるのがわかる。

 どうやら自分たちのことを見世物か何かと思っているらしい。

 まったくもって不愉快極まりない光景だ。

 しかし今は耐えるしかないだろう。

 ここで暴れたところで無駄なだけだということは分かっているからだ。

 そうしてしばらく歩いていると、目の前に大きな舞台のようなものが見えてきた。

 恐らくあれが裁判場なのだろうと思い至った瞬間、嫌な予感に襲われた。

 そしてそれは的中することになる。


「これより!主犯及びその取り巻きである者たちに対する裁判を始める!」


 裁判長と思われる男が大声で宣言すると同時に、周囲から歓声が上がった。

 それを聞いてイレーネは心の中で舌打ちをするのだった…


「被告人!前へ出ろ!」


 そう呼ばれ、渋々前に出ることにする。

 それを見た民衆たちは一斉に騒ぎ始めた。

 口々に罵詈雑言を浴びせられながら舞台中央へと連れていかれるイレーネ。

 そして、そこに用意された椅子に座るよう命令される。

 大人しく従うことにして腰を下ろすと、周囲を見渡してみることにした。

 周りを取り囲むように人がおり、皆一様に憎悪に満ちた目でこちらを見ていることがわかる。


「(あぁ…これが民衆というものなのか)」


 そんなことを考えているうちに裁判が始まったようだ。

 まずは罪状を読み上げるところからスタートするらしい。


「被告人・イレーネは、王国民であり王国の法に従わなければならない存在であるにもかかわらず、その法を蔑ろにし、数々の悪事に手を染めてきた。さらに自らの欲望を満たすためだけに罪なき人々を傷つけたことは許されることではない。よって死罪とする」


「(死罪?ふざけるな…私はこれからだという時に!)」


 イレーネは心の中で叫んだ。

 こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。

 まだまだやりたいことがたくさん残っている。

 こんなところで人生が終わるなどあってはならないことだ。

 だがそんな思いも虚しく、判決が下される。

 裁判長が合図を送ると、兵士達によってイレーネの両手に拘束具がかけられた。

 これでもう動くことも逃げることもできないだろう。

 判決は下された、イレーネは数日の拘束の後に刑が下される事となる。

 イレーネは絶望に打ちひしがれながら、その時を待った…





 数日間、イレーネは地下牢に収監された。

 冷たい石畳の上を歩く度にカツン、カツンと音が響く中、イレーネは虚ろな瞳で歩いていた。

 これから自分は殺されるのだということを考えると恐怖で身体が震えた。

 だが今の彼女にはどうすることもできない。


「出ろ」


「…」


 そう言われ、牢を出るイレーネ。

 これから刑場に向かうのだろう。

 イレーネはこれから処刑されるのだ。

 拘束された状態で馬車に乗らされ、連行される。


「おとなしいな、抵抗すると思ったが」


「…」


「まあ、それもできないか」


 イレーネの魔力は現在、使えない様に封印の『枷』がされている。

 だから抵抗したくてもできないのだ。

 馬車にはメリーランも乗っていた。

 彼女はイレーネ程の罪ではないが、禁固刑は免れないだろう。


「…」


 俯くイレーネ。

 これまでのことを反省しているのか?

 いや、違う。

 この状況を逆転する方法を探しているのだ。


「(魔法さえ使えれば…)」


 魔力を溜めることは出来る。

 しかし放つことは出来ない。

 それが封印の『枷』というものだ。

 枷さえ外すことができれば、なんとか鍵を奪うことができれば。

 そう考えるイレーネ。

 しかしそれはまず無理だ。

 鍵は二人の兵士がそれぞれ一つずつもっている。

 今の拘束された状況で二人の兵士から鍵を奪うのは無理だ。

 最悪、鍵を破壊されたらその時点で詰み、だ。


「くぅぅ…」


 静かに唸るイレーネ。

 これまでか…

 そう考えながら。

 そしてしばらく馬車に揺られていると、馬車が止まった。

 目的地に到着したのか?

 いや、どうやら違うようだ。


「うっ…」


 イレーネを監視していた兵士のひとりが、突然頭を押さえて苦しみだした。

 そして次の瞬間にはバタリと倒れ込んでしまったのだ。


「おい!どうした!」


 別の兵士が慌てて駆け寄るが反応はない。

 どうやら気を失っているようだ。一体何があったのだろうか?

 すると今度はまた別の方向からうめき声のようなものが聞こえてきた。

 それもひとりではなく複数。

 何が起きているのかわからず、困惑するイレーネ。

 しかしこれはチャンスだ。

 兵士が持っていた鍵を奪い、手錠を外す。

 そして外へ脱出した。


「これは…」


 魔法が使われた形跡がある。

 イレーネが使ったわけでは無い。

 しかし、拘束から解除されたのも事実。


「これで自由の身よ!」


 周囲を見ると、イレーネを連行していた兵士たちが倒れていた。

 死んでいるわけではないようだが、意識を失っている。

 人気の無い荒野で、馬車は止まっていた。


「一体何が…」


 そう言うイレーネ。

 と、そこに一人の男が現れた。

 背が高く、体格も良い。

 年齢は十代後半くらい。

 顔立ちは整っており、髪は濃い茶色のような赤色をしている。

 そしてまるで闇に溶け込んでいるような、黒いローブを身に纏っている。


「あなたがイレーネ様ですか?」


 若干の北方訛りが混ざったその男。

 彼はかつて、王都でガ―レットと会ったあの男。

 バッシュ・トライアングルとリオンの戦いで崩壊した王都の試合会場。

 そこで魔石を回収していたあの男だ。


「ええそうよ。…これは貴方が?」


「はい。邪魔者達には少しの間、眠ってもらいました。」


「ふふふ、そう…」


 嬉しそうな笑みを浮かべるイレーネ。

 この男が何者かはわからない。

 だが、処刑直前の状態から助かったのも事実。

 そうだ、リスター国にいる知り合いが使いを出してくれたのかもしれない。

 当初、亡命先として考えていた人物だ。

 彼はリスター国でも比較的高い地位にいる。

 これくらいはできるのだろう。

 そう考えていた。


「ふふふ、ははははは!」


 大きな声で笑うイレーネ。

 解放された嬉しさからだろうか。

 そうだ、この男に何か礼をしたい。

 イレーネがこんなことを考えるのは非常に稀だ。

 それほどの悦びを、今の彼女は感じているのだろう。


「ふう、ぜひあなたにはお礼がしたいわ。何がお望みで?」


「あなたの命」


「え?」


「あなたの命を貰い受けたい」





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