第七十四話 シルヴィとの討伐
とある日、リオンとシルヴィは共に魔物の討伐に出向いていた。
今回受けた依頼は、比較的難易度の低いものだ。
そのため戦闘経験を積むことも兼ねて二人が選ばれたのである。
「(それにしても…)」
リオンが周りを見渡すと、そこには大量の魔物がいた。
それらはどれも凶暴そうな見た目をしていた。
その外見は見るからに恐ろしいものだったが、リオンは特に臆することなく冷静に指示を出していた。
「シルヴィ!後ろは頼むぞ!」
そう言って彼は魔物の群れの中へと突っ込んでいった。
剣を構え、次々に斬り伏せてゆく。
その動きには一切の無駄がなく、まるで舞っているかのような美しさがあった。
その光景を見ていたシルヴィは思わず見惚れてしまう。
「(凄い…!)」
彼女は無意識のうちにリオンの動きに合わせていた。
その動きはまるで彼の影のように滑らかであり、ぴたりと彼に寄り添うように動いていた。
それが可能なのは、彼女がリオンのことを信頼している証でもあった。
「(やっぱり凄いな…)」
そんなことを思いながらも、シルヴィは彼をサポートするべく魔法を行使していくのだった。
しばらくすると、魔物たちは全滅していた。どうやら無事に任務を達成したようだ。
ホッと胸を撫で下ろす二人だったが、ふとリオンが口を開く。
「随分腕があがったみたいだね、シルヴィ」
「え?そ、そうかな…」
いきなり褒められて戸惑う彼女だったが、リオンは構わず言葉を続けた。
「うん、前よりもずっと戦いやすいよ。動きも良くなったし、魔法の威力も上がっている気がする。すごい成長だよ」
「(あ、あれ…?なんか照れるな…)」
リオンに褒められて嬉しくなったシルヴィは、頰を赤く染めながら俯く。
そんな彼女の反応を見たリオンは思わず笑みを浮かべてしまった。
ふと視界に大きなものが映った。
それは洞窟のようになっており、中に何かいるようだった。
気になったリオンはその場所へと向かった。
そして中を覗き込むとそこには巨大な魔獣が待ち構えていた。
その見た目はどことなくゴブリンに似ているように思えた。
だが明らかにサイズが違うため、別の種族だということは分かる。
そう判断したリオンは剣を構えると、シルヴィに声をかける。
「気をつけろ!こいつは強敵だ!」
「うん…!」
シルヴィも剣を構えて臨戦態勢に入る。
しかし相手の方が動きが早かった。
突然動き出した魔獣は鋭い爪を振り下ろす。
その瞬間、リオンが素早く反応して攻撃を防いだ。
そこから激しい攻防が始まる。
「(速い…!)」
シルヴィが驚いている間にも戦闘は続いていた。
だが徐々に押されているように見えた。
どうやら相手はかなり素早いようだ。
そう思った瞬間、リオンが反撃に転じた。
「シルヴィ!援護を頼む!」
叫ぶと同時に剣を振るい、魔獣の身体を斬り裂いた。
ように見えたのだが、なんとその攻撃は弾かれてしまった。
「(なっ…!?)」
予想外の事態に困惑するリオンだったが、すぐに思考を切り替えると即座に戦略を組み立て直す。
どうやら皮膚の一部が硬質化しているらしい。
弱点を突けばどうということはない。
そう考え、再度攻撃を仕掛けるのだった。
シルヴィもリオンを援護する。
すると、想像通りダメージを与えられているように思えた。
「(いける!)」
確信を持ったところで、一気に畳み掛けることにした二人は同時に攻撃を繰り出すことにした。
まずはシルヴィが斬りかかる。
「やぁああっ!」
掛け声と共に放たれた一撃は、見事に魔獣の首元にヒットした。
そのまま押し切るように力を込める。
が、次の瞬間だった。
なんと魔獣の腕が伸び、シルヴィに襲いかかったのだ!
ゴブリン型の魔物の攻撃パターンからは逸脱したその技は、完全に意識の外からの攻撃だった。
「危ないっ!!」
それを見たリオンは慌てて彼女を庇うと、代わりに攻撃を受けてしまった。
「ぐあっ…!」
攻撃をまともに受けてしまい、吹き飛ばされてしまうリオン。
地面を転がるように倒れ伏すと、苦しげな声を上げる。
それを見たシルヴィは青ざめた表情になると、慌てて彼に駆け寄った。
「リオンっ!?」
心配そうに声をかける彼女に対して、彼は平気だと告げる。
だがその表情は苦痛に歪んでおり、とても大丈夫そうには見えなかった。
そんな彼の様子を見たシルヴィは泣きそうな顔をしていた。
が、突然ハッとすると何かを思いついたような表情を見せた。
意を決したようにリオンの傍から離れると、魔獣に向かって走り出したのだった。
そして…
「たあっ!」
気合いの入った声と共に、彼女は剣を振り下ろした。
彼女の放ったそれは見事に魔獣に命中したようで、かなりのダメージを与えているようだった。
とうとう力尽きたのか、そのまま地面に倒れ伏すとそのまま絶命してしまった。
それを確認したシルヴィは安堵のため息をつくと、心配そうな表情で駆け寄ってきた。
しかしリオンは苦笑しながら言うのだった。
「大丈夫、少し油断しただけだよ…」
そう言って立ち上がると、身体についた汚れを落とすために水場へと向かった。
そして手を洗うと、布を取り出して傷口に当てる。
応急処置が終わると、リオンはシルヴィに話しかけた。
「ありがとう、助かったよ」
お礼を言われたシルヴィは少し照れくさそうにしていた。
そんな彼女の頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
そんな様子に癒されながらも、リオンはふと気になっていたことを尋ねることにした。
「(そういえば…)」
どうしてあんな無茶をしたんだ?
そう尋ねると、彼女は少し戸惑った様子を見せた。
が、やがて口を開いた。
その内容を聞いて驚いたものの、同時に納得もしていた。
彼女を見つめていると、その視線に気づいた彼女は照れ笑いを浮かべた。
その可愛らしい様子にリオンは思わず笑みを浮かべてしまうのだった…
「(でも無茶だけはしないでほしいな…)」
そんなことを考えているうちに、リオンは無意識のうちにシルヴィを抱きしめていた。
驚いた表情を浮かべる彼女だったが、嫌がる様子はなかった。
むしろ嬉しそうな表情を浮かべているように見える。
そして彼女もリオンの背中に手を回して抱きつき、二人はしばらくの間抱きしめ合うのだった
「(幸せだ…)」
そう考えながら、リオンは彼女を抱きしめ続けていた。
その表情はとても穏やかで優しいものだった。
そんな二人の間を温かい風がそっと吹き抜ける。
まるで二人を応援してくれているかのように感じられるのだった
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