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第七十一話 夢の世界の冒険(前編)

 あのイレーネたちとの戦いから半年後…

 リオン、アリス、シルヴィたちはゴールドバクトの村で修業を続けながら過ごしていた。

 特に行く当ての無かったエリシアも、特別について来ていた。

 この村は以前に比べて大きく変わった。

 村を囲む大きな柵ができ、畑や家畜小屋も拡張されたのだ。

 また、村人たちが交代で見張りを行い、夜盗やモンスターの襲撃に備えるようになったのだ。

 これらはリオンたちが滞在していたからこそできたものだ。

 彼らの協力がなければ、これほど早く村を発展させることはできなかっただろう。

 そして…


「ふう…」


 研究資料を片付けるロゼッタ。

 彼女の本業は錬金術だが、薬学、呪術、魔術とあらゆるジャンルの学問を学んでいた。

 彼女が今研究している薬は、村の医療費を減らすためのものらしい。

 この村の近くで取れる薬草を原料とした、安価で簡単に作れる傷薬だ。


「それにしても、彼らは随分と強くなったものだねぇ…」


 そう言いながら、ロゼッタは窓の外を眺める。

 そこではリオンとエリシアが二人で実戦形式の稽古をしていた。

 あくまで稽古であるため、リオンは魔眼の能力は使っていないが。

 以前はそこそこ互角の戦いだったが、今はリオンの方が押しているように見える。

 それほどまでに二人は強くなったのだ。

 しかし、エリシアはそれでも諦めずに食らいついている。


「(どちらも素晴らしい才能だねぇ…)」


 そんな二人をロゼッタは静かに見守っていた。

 一方、アリスもロゼッタの元で差の才能を伸ばし続けていた。

 そして…


「おーい!」


 シルヴィが魔物の討伐から戻ってきた。

 彼女の実力も飛躍的に上昇している。

 もし、今のシルヴィが半年前のリオンと戦ったらどうなるか。

 その場合、シルヴィが勝つだろう。

 それほどまでに彼女は強くなったと言えるだろう。


「ただいまー!」


 そして何より、彼女はいつも笑顔で帰ってくるのだ。

 それが彼女にとって一番の幸せなのかもしれない。

 今日もまた新たな依頼をこなしてきたようだ。

 アリスはシルヴィに駆け寄ると、真っ先に声をかけた。

 そんな様子を見て、ロゼッタはクスリと小さく笑った。

 シルヴィもそんなアリスの姿を愛おしそうに見つめていた。


「おかえり、シルヴィ」


「うん!ただいま!」


 そんな二人の様子を見て、リオンたちは思わず笑みを浮かべていた。

 この村では毎日が充実している。それは彼らの努力の結果なのだ。

 そんな彼らに対し、ロゼッタがある提案をした。


「ちょっと変わった稽古をつけてみないかい?リオン」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるロゼッタ。

 そんな彼女の手には一冊の本があった。

 何かあったのだろうか?

 そんな疑問を抱きつつ、リオンは問いかけることにした。


「変わった稽古って?」


 すると、ロゼッタはドヤ顔で胸を張った。


「錬金術と呪術の合成…さ!」


 それを聞いて、アリスたちは興味津々といった様子だ。

 そしてシルヴィも目を輝かせている。


「この触媒を使った呪術を使うことで、キミたちの精神は一時的に『時の旅』に出ることができる」


 ロゼッタは説明を始めた。

 錬金術と呪術は、本来相反する属性のものである。

 しかしロゼッタが独自に研究を重ね、それを融合させることで新たな力を生み出すことに成功したのだ。

 そしてそれが精神だけを切り離すという特殊な力だった。

 これは現在の錬金術では不可能な技術である。

 つまり彼女が生み出した独自のものだということだ。

 エリシアは目を輝かせながら尋ねた。


「具体的にどうやって使うの?」


 その質問に対し、ロゼッタは答えた。


「まず、この触媒を指に着けて」


 そう言ってロゼッタが取り出したのは指輪だった。

 それは金色のリングで、中心には赤い宝石が埋め込まれているものだった。

 その宝石はまるで炎のように煌めいている。

 それを受け取ったリオンたちは、それぞれ指に装着した。

 それを見たロゼッタは説明を再開する。

 精神だけを切り離して時の狭間に送る、それは夢という形を取って現れるらしい。


「この夢は、現実とほぼ同じ世界を再現することができるのさ」


 ロゼッタの言葉に驚きを隠せない一同。

 つまり夢の中とはいえ、現実世界と全く同じ体験ができるということだ。

 そんな素晴らしい能力を持つ指輪が目の前にあることに興奮を隠しきれないリオンたち。


「とはいえ、あくまで夢だ。実際に行くわけではないからな」


「つまり…どういうこと?」


「まあわかりやすく言うと、あくまで夢を見るだけ。つまり、肉体はここに残ったままだ」


 ロゼッタはそう言った。

 しかし、それでも凄いことに変わりはなかった。

 そんなロゼッタの説明を聞いていたエリシアは興味津々といった様子で尋ねた。

 シルヴィも興味深そうにしている。

 彼女らの瞳には好奇心の光が宿っていた。

 一方、リオンは少し緊張した面持ちだ。


「わ、私はいいです」


 アリスはそう言った。

 彼女の本業はあくまで薬師。

 肉体を鍛えることは得意ではない。

 なのでアリスは遠慮したようだ。

 そんなアリスを見て、ロゼッタは笑った。


「もちろん強制はしないよ。リオンはどうだい?」


「…分かりました」


 リオンは少し考えた後、頷いた。

 彼はこれまでの旅で随分と成長したが、それでもまだ成長の余地がある。

 だからこそ、彼は夢の世界とやらに興味を持っていたのだ。


「それじゃあ三人が参加ってことでいいね?」


 そう言ってロゼッタは全員の指を確認した後、触媒を指輪に嵌めていく。

 そしてそれをシルヴィたちに渡していった。

 リオン、シルヴィ、エリシアが指に着けた後、ロゼッタは指輪の宝石に魔力を込める。

 すると、宝石から黒いモヤが噴き出し始めた。

 それは徐々に形を成していき、やがて大きな扉となった。


「準備はいいかい?」


 ロゼッタの言葉に頷く一同。

 それを見た彼女はゆっくりと扉を開かせた。

 次の瞬間、目の前に広がる光景を見て、リオンたちは驚愕した。

 そこは町の中だった。

 煉瓦造りの町で、綺麗に整備された水路が幾つも流れている。


「凄い…」


 リオンはそう呟きながら周囲を見回す。

 ここが夢の中なのか?

 そんな疑問を抱きつつ、リオンたちは周囲を探索する。

 立派な町だが、人影は全くない。

 あくまで夢の中だからだろうか。

 しばらく歩くと、立派な屋敷が見えてきた。


「あの屋敷に行ってみる?」


「うん!」


 シルヴィが提案すると、エリシアは同意した。

 リオンもそれに同意した。三人は屋敷の扉を開き、中に入ることにした。

 内装は豪華だが、どこか不気味な感じがする。

 まるで幽霊屋敷にでも迷い込んだような雰囲気だ。


「…本当に夢なの?」

 エリシアもこの異様な状況に困惑していた。

 しかし、そんな彼女に対してシルヴィはいつもと変わらない様子で話しかけた。


「大丈夫?何か気になることでもあった?」


「…ううん、何でもない」


 シルヴィに心配をかけまいと平静を装うエリシア。

 そんな彼女たちとは対照的に、リオンたちは屋敷の中を調べ始めていた。

 シルヴィは歩きながらも辺りを見回している。

 エリシアはそんなシルヴィの服の裾を、無意識のうちに掴んで歩いていた。


「(なんだか不気味だなぁ。早く出たい)」


 そう考えていると、ふと視線を感じた気がした。

 振り返ってみるが、誰もいない。気のせいか。

 エリシアがそう考えていたその時だった。


「うわッ!」


 突然、シルヴィが悲鳴をあげた。

 何者かの気配を感じる、誰かから攻撃を受けたのだ。

 シルヴィは瞬時に後ろに跳んだ。

 なんとか攻撃を避けることができたが、このまま屋敷の中にいるのはマズイ。

 一旦、屋敷の外に出るべきだ。

 屋敷の入口に辿り着いたシルヴィたちは外に出た。

 すると、そこには複数の人影があったのだ。


「侵入者か?大人しく我々に従え」


 そう言って、集団の中から一人の女性が進み出た。

 その姿を見た瞬間、リオンたちは驚愕した。

 何故ならその女性はアリスと瓜二つだったからだ。


面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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