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第七十話 新たなる冒険の扉

 数日後…

 兵士たちの捜索により、ガ―レットの死体が発見された。

 どうやら荒野の獣たちに喰われらしく、彼の身体は大きく欠損していたという。

 ボロボロになった彼の身体は回収され布に包まれた。

 そして、木箱に入れられそのまま運ばれていった。

 犯罪者ガ―レットの死んだ証だ。

 証拠として回収しなければならない。

 メリーランは少し離れた廃屋に拘束されていた。

 キョウナによって魔法を使えない状態にされ、ここに閉じ込められていたのだ。

 そして…


「さあ、歩け」


「わかってるわよ」


 イレーネは兵士に捕縛され、牢獄送りとなった。

 私兵を率いての私闘はもちろん、リオンの証言によるルイサの殺害。

 そして不自然に焼け落ちた彼女の屋敷。

 彼女とガ―レットの周りで行方不明になる少女たち。

 本格的な調査をすれば、余罪はたくさん出てくるだろう。


「ふん…」


 イレーネは不満げな表情を浮かべる。

 だが、そんな彼女に構うことなく兵士は連行していった。

 彼女の率いていた兵士たちも同様に捕縛された。

 連行されるイレーネの配下の兵士たち。

 イレーネの兵士たちは皆、彼女を慕っている者ばかりだった。

 そんな彼らの証言により、今まで見逃されていたのだ。

 しかし今回ばかりはそうもいかないだろう。


「ようやく終わった…」


 キョウナは小さく呟いた。

 ガ―レットの存在が彼女を縛っていた。

 肉体は解放されたし魅了の魔法も解けた。

 だが、精神的な意味ではまだ縛られ続けていた。

 しかし、もう彼女を縛るものは存在しない。

 これで自由の身だ。


「やっぱり行くのか?キョウナ」


 クーレス村にて、一通りの治療を受けたリオン。

 身体に包帯を巻き、まだ本調子ではないようだった。

 そして彼の仲間たち。

 アリス、シルヴィ、エリシア、ヴォルク、ロゼッタ。

 皆に見送られながら、キョウナは新たなる冒険の扉を開こうとしていた。


「うん。いろいろ考えた結果!」


 キョウナは満面の笑みを浮かべる。

 その瞳には決意が満ちていた。

 彼女の決意が揺らぐことはないのだろう。

 その場にいるだれもがそう考えていた。

 しかし…


「以前のことを気にしているのかい?」


 シルヴィが言った。

 以前、ガ―レットの魅了にかかっていた時のこと。

 その時のキョウナの言動。

 それが彼女の中で引っかかっているのではないか。

 シルヴィはそう考えていた。

 しかし、それはどうやら違ったようだ。


「それは別に気にしてないよ」


「本当に?」


「うん。あの時の私は正気じゃなかったし、もう割り切ってる」


 そう言ってキョウナはシルヴィに笑いかける。

 そんな彼女の笑顔を見て、シルヴィは安心したような表情を浮かべた。


「じゃあ、どうしてですか?」


 アリスは問いかける。

 彼女たちの疑問ももっともだ。

 キョウナがあえて一人で冒険に出る理由は何なのだろうか。

 それが気になっていたのだ。

 するとキョウナは照れくさそうに頬をかいた。

 そして恥ずかしそうに口を開く。

 その表情はどこか嬉しそうだった。


「私は冒険者として世界を回りたい…!」


 それがキョウナの答えだった。

 かつてリオンと出会った時のことを思い出す。

 あの時の彼女はまだ幼く、冒険というものに憧れを抱いていただけだった。

 ただ漠然とした憧れだった。

 しかし今は違う。

 自分の意思で、改めて冒険者になることを選んだのだ。

 そんな彼女の気持ちを理解してか、仲間たちは皆納得がいったような表情を浮かべた。


「心機一転、一から出直すことにするわ」


 そう言って笑うキョウナ。

 その表情はどこか晴れやかだった。


「そっか…それなら仕方ないね」


 シルヴィも納得したように頷いた。

 彼女は人一倍、仲間のことを想っている。

 そんな彼女が止めるはずがないのだ。

 彼女の答えを聞いたヴォルクは笑みを浮かべた。


「ふん、小童が一人前の口を利く」


「なによぉ!おじさん!」


 ヴォルクの言葉に反論するキョウナ。

 その言葉にヴォルクはピクリと眉を吊り上げた。

 そしてゆっくりと手を上げ、キョウナの頭に手を置いた。


「…?」


「お前たちに何があったかは知らんが、決意は本物みたいだな」


 そう言って、キョウナの頭を優しく撫でるヴォルク。

 その言葉にはどこか温かさがあった。


「ちょ…!な、なによぉ…!」


 そんな彼の態度に驚くキョウナ。

 恥ずかしさからか頬が赤く染まる。

 そんな彼女の反応を見て、ヴォルクは口元に笑みを浮かべた。

 そして彼女の頭から手を離した。


「精々、足掻くことだな」


 そう言って笑うヴォルク。

 彼の言葉にはどこか優しさがあった。


「それにしても、キョウナ?」


「はい?」


「旅には必要な物があるだろう」


 そんな様子を見ていたロゼッタが言った。

 彼女が言う必要な物、それはつまり『お金』だ。

 しかし、キョウナは首を横に振った。

 彼女は既に準備をしていたようだ。

 それを見たロゼッタは小さく笑みを浮かべた。

 どうやらすべてを察したようだ。


「心配は不要か」


「ええ」


 ロゼッタの言葉に頷くキョウナ。

 それを見て、一同は笑みを浮かべた。

 これから彼女が旅立つことに期待しているのだろう。

 そんな皆の様子を見た後、キョウナはリオンに視線を向けた。

 イレーネとの戦いでボロボロになった彼。

 治療こそ受けているが、まだ完治しているわけではない。


「リオン…傷は大丈夫?」


 心配そうに声をかけるキョウナ。

 それに対して、リオンは小さく笑みを浮かべた。

 その表情からは痛みなど微塵も感じさせない。

 彼は笑顔を浮かべたまま口を開いた。


「大丈夫だよ。この通り元気さ」


 そう言うリオン。

 そんな彼の様子を見て、キョウナは安心したように微笑んだ。


「そっか…よかった」


 彼女の瞳にはリオンの笑顔が映っている。

 彼はキョウナにとって頼れる相棒であり、仲間である存在だ。

 そんな彼の無事な姿を見れたことが嬉しかったのだろう。

 彼女は満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ…そろそろ行くよ!」


 そう言ってキョウナは仲間たちに背を向けた。

 そんな彼女をシルヴィたちは笑顔で送り出す。


「そうか…」


 そんなキョウナを見て、リオンは静かに呟く。

 彼らの間には友情という絆が生まれていたのかもしれない。

 いや、それ以上の何かかもしれない。

 それは誰にも分からないことだろう。

 だが、彼らが互いに信頼しあっていたことは紛れもない事実だ。

 だからこそ、彼らは笑顔で別れることができるのだろう。


「また会おう!」


「うん、いつかまた、どこかで!」


 リオンは右手を出す。

 キョウナもそれに答えた。

 そして互いに握手を交わした後、二人は別々の道を進んでいくのだった。


「(さよなら)」


 心の中で別れを告げるキョウナ。

 彼女は振り返ることなく歩いていく。

 彼女の目には新たなる未来が映っていた。

 キョウナは一歩、また一歩と進んでいくのだった。

面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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[良い点] キョナとレオンが出会う時間は予想よりも早いかもしれない。彼女は過去の過ちのせいで、レオンと一緒にいないことを選択しました。でも今のレオンは彼は彼女を許しました。また会ったらキョナが危険に遭…
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