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第六十八話 捕縛のイレーネ、逃亡のガ―レット

 リオンが呼んだ援軍が到着した。

 彼らはガ―レットとイレーネの捕縛、そしてリオンを介抱するために集まった。

 駆けつけた兵士たちによって連行される二人。

 リオンはその様子をぼんやりと見つめていた。

 そんな時である。


「ん?」


 リオンを呼ぶ声。

 振り向くとそこには見覚えのある顔があった。

 そう、シルヴィだ。

 アリスとエリシアも一緒だ。

 ヴォルクと共にここにやって来たのだ。


「リオン…」


「…ッ」


 少し泣きそうな顔をしていた彼女だが、すぐに笑顔を浮かべるとリオンに抱きついた。

 突然の行動に驚くリオン。

 しかし…


「(温かいな…)」


 彼女の体温を感じて安心することができた。

 リオンはそっと彼女の頭を撫でながら微笑む。


「ありがとう、リオン。無事で」


 シルヴィは嬉しそうに微笑むと小さな声で呟いた。

 その声はとても小さなものだったが、リオンの耳に確かに届いたのだった。

 それを見ていたキョウナは少し複雑そうな顔をしていた。

 そんな彼女にアリスが話しかけた。


「あ、あの…」


「うん?」


「ありがとうございます、リオンさんを助けてくれて…」


「いいの、私は当然のことをしただけだから」


 そう言って笑うキョウナ。

 そんな彼女に対してアリスは頭を下げた。


「でもリオンさんとキョウナさんは本当に凄いです。あんな強敵と戦って勝ったんですから…」


「ふふ、そうかもね。でも…」


 キョウナは真剣な顔で言う。

 その瞳にはどこか羨望のようなものがあるように思えた。

 そして彼女はハッキリと告げる。

 リオンが本当に強いのは『心』なのだと。


「私がリオンのことを好きになったのも、彼が強いからじゃないわ」


「えっ!?」


 突然の告白に驚くアリス。

 そんな反応を見てキョウナはクスクスと笑った。

 そして続けるように話す。


「リオンはね…誰よりも優しくて、そして誰よりも強い心を持っているの」


 彼の強さは心の強さ。

 キョウナはリオンのことを思い出しながら話す。

 初めて会った時、彼はどこか弱々しい印象を受けた。

 だが時間が経つにつれてその考えは変わっていった。

 彼の心の強さに触れ、惹かれていく自分がいた。

 そしていつしかキョウナにとってリオンはかけがえのない存在になっていたのだ。

 そんなリオンがみんなを守るために戦う姿。

 その心の強さを見た時、キョウナは彼に対する想いがより一層強くなった。


「リオンはね、『守る』ために戦い続けたの」


 イレーネとの戦いの中で、リオンは何度も彼女やアリスを守ろうとしていた。

 そして最後に倒れそうになった時でさえ。


「アリスちゃん」


「はい?」


 キョウナはアリスに向かって言う。

 彼女は優しく微笑むとこう言った。


「リオンのそばにいてあげて」


 キョウナはアリスに向かって言う。

 彼女は優しく微笑むとこう言った。


「リオンのそばにいてあげて」


「ッ!はい!」


 キョウナは理解していた。

 彼女たちと一緒にいたほうが、リオンは幸せなのだろうということを。

 でも、それでも私はリオンのことが好きだ。

 キョウナもまたリオンのことが好きなのだ。

 そんな想いが溢れそうになるが必死に堪えた。

 今はその時では無い、そう自分に言い聞かせながら。


「そうだ、アリスちゃん」


「はい?」


「この服の持ち主…メリーランのことなんだけど…」


 キョウナによると、メリーランは岩場に拘束してあるという。

 ガ―レットたちとの移動中に休憩している所を、キョウナが襲って服を奪い取ったらしい。

 そんな彼女たちとは別に、イレーネは兵士たちに拘束されていた。

 兵士たちに抵抗している様子もなく、大人しく従っているようだ。


「貴様ら…この私に向かってこんなことをして許されると思っているのか!?」


「ええ、思っているよ」


 イレーネの問いに答えたのはシルヴィだった。

 彼女は鋭い眼光でイレーネを見つめている。

 その表情からは怒りと侮蔑が感じられた。


「私はあなたのことが許せない」


「なにッ?」


「あなたは多くの人を悲しませた。その罪を償ってもらうわ」


 これからイレーネ達は裁かれる。

 その結果、彼女は重い罰を受けることになるだろう。

 しかしシルヴィはそれでも許すつもりはなかった。

 それだけの仕打ちを彼女は受けたのだ。

 リオンも、キョウナも…そしてアリス達もイレーネに対して強い怒りを抱いている。

 特にリオンはイレーネに殺されかけたのだ。


「あなたは許されないことをした。一生かけて償うべきよ」


 そのまま拘束され、連行されるイレーネ。

 しかし、彼女は笑っていた。

 縛られているにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべている。

 そして…


「邪魔よ!」


 兵士たちの一瞬の隙を突き、兵士が持っていた剣を奪い取った。

 そして、その場にいたエリシアへと突進した。

 この場にいる者の中で一番、人質に使いやすい。

 そう判断したのだろう。


「うわーッ!?」


 突然のことに驚くエリシア。

 そんな彼女の首にイレーネは剣を突き付けた。


「離せよおばさん!」


「動くな!」


 イレーネはそう叫ぶと周囲を見渡した。

 もう魔力は使い果たした、何とか人質を取って逃げるしかない。

 だがそんなイレーネを嘲笑うかのように一人の女性が声を上げた。


「動くなだって?それはこちらのセリフだよ」


 聞き覚えのある声だった。

 少し低い女性の声、その声の主は…


「ロゼッタ・ミレニア!?」


 ゴールドバクトの錬金術師、ロゼッタ・ミレニア。

 リオンの師匠でもある彼女もこの場に来ていたのだ。

 彼女はゆっくりと歩いてくるとイレーネの腕を掴んだ。

 抵抗しようとするイレーネを、そのまま関節を極めると地面に組み伏せた。


「がっ…」


 という苦しげな声を漏らすイレーネ。


「大人しくしときな」


「…くっ!」


 冷たい口調でそう告げるロゼッタ。

 イレーネは何も言えずただ歯を食い縛ることしかできなかった。

 捕まっていたエリシアも解放された。

 そのことに安堵しつつ、リオンはロゼッタに声をかける。


「ロゼッタさん来てくれたんですね…」


「当たり前だろ?弟子が危ないってのに来ない奴がいるかい?」


 そう言って笑うロゼッタ。

 そんな彼女の笑顔を見てホッと胸を撫で下ろすリオン。


「(流石だ…)」


 師匠であるロゼッタ。

 彼女の実力は折り紙つきだ。

 その強さを改めて実感するリオンだった。


「くっ…ロゼッタ、またしてもお前はッ…」


「…黙ってな」


「がッ!?」


 騒ぎ立てるイレーネの腹を殴りつけるロゼッタ。

 そのままイレーネは完全に気を失った。

 いそいで兵士が駆け寄りイレーネを連れて行った。


「大丈夫かい?」


 ロゼッタが心配そうにエリシアに声をかける。

 エリシアは涙目になりながらもコクンと頷いた。

 そんな様子を見て、ホッとするロゼッタ。


「ロゼッタさん、なぜここに?」


 リオンが言った。

 基本的にゴールドバクトから動かない彼女がここにいるのは珍しい。

 その質問に対してロゼッタは答えた。

 彼女はエリシアのことを見ながら口を開く。

 どうやらここ最近、彼女はたまたま近くの街に滞在していたようだ。

 王国の兵士たちからイレーネとガ―レットの話を聞き、心配になって駆け付けてくれたのだという。

 そして…


「(まさかリオンくんが狙われるとは思わなかったねぇ…)」


 ロゼッタもまたリオンの身に起こったことを知り驚愕していた。

 同時に彼女たちを守ろうと決意する。

 しかし…


「(まさかこんなことになるなんてね…)」


 ロゼッタは内心、複雑な感情を抱いていた。

 目の前にいる少年たちのことを思い返す。

 リオンはロゼッタの弟子だ。

 最初にあった時と比べると、随分と強くなった。

 それでもまだ未熟な部分も多いが、ロゼッタにとってはとても可愛く思える弟子なのである。

 そんなリオンのことをイレーネは狙っていた。

 しかも今回は王国の兵士たちまでも巻き込んでしまったのだ。

 とはいえ、これでイレーネ達を捕えることができた。

 だが…


「うわあ!」


 兵士の叫び声が聞こえた。

 なんとガ―レットが馬を奪い取り逃走を図ったのだ。

 いそいで兵士たちが追跡を図るも、

 相手は馬だ。

 どんどん距離を離される。

 しかし…


「ガ―レットは私の攻撃でかなりの傷を負っている…」


「そういえば…」


「リオン、あいつって治癒魔法は使えなかったよね」


「あ、ああ。あれだけの傷を治す魔法は使えないはずだけど」


「じゃあ…」


 キョウナは言った。

 彼女の攻撃はガ―レットの身体を大きく傷つけている。

 鉤爪はほぼ彼の身体を貫通していた。

 ガ―レットは兵士たちに拘束され、治療を受ける間もなく逃亡した。

 そして彼は治療魔法を使えない…


「たぶん、あいつの身体はもう…そう長くは…」


面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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