第六十七話 決着の時!
「間に合った…ッ!『二回目』も!」
「アナタは!?」
「キョウナ…ッ!」
突然現れた彼女を見て驚くリオン。
イレーネもまた、驚きを隠せない様子だ。
しかしすぐに冷静な顔に戻り、彼女の名前を呼んだ。
名前を呼ばれた彼女はニヤッと笑う。
キョウナはずっとこの時を待っていたのだ。
「(間に合った!)」
とキョウナは心の中で安堵する。
この機会を逃せば次はいつになるか分からない。
だからキョウナは自分から行動に出たのだ。
イレーネが攻撃を仕掛ける前に、先手を打って攻撃した。
彼女とリオンがぶつかり合うと同時に、キョウナは自らの魔力を込めてその一撃を放った。
それによってできた隙をついてリオンの前に飛び出し、彼を守ることに成功したのである。
「キョウナ…どうしてここに?」
キョウナはメリーランのローブを奪い、彼女に成りすましていた。
会話を避けていれば、ガ―レットにばれることは無いと踏んでいた。
「話は後よ」
驚くリオンに、キョウナは振り返って答える。
その表情は真剣なものだった。それはまさに『戦士』としての顔だ。
普段の優しい雰囲気とは違う彼女だが、その勇ましい姿にリオンは心を高鳴らせる。
思わず見惚れてしまった。
「(ああ、そうか…)」
キョウナは自分のことをずっと守ってくれていた。
自分のために命をかけてくれていたのだ。
そして今この瞬間も自分を助けてくれている。
以前の戦いでリオンを助け、クーレス村へ届けてくれたのも…
「(ありがとう)」
心の中でリオンは感謝を告げる。
しかし今は戦いの最中だ。
ゆっくりしている時間は無い。
それに自分が彼女に助けられたのはこれで2度目だ。
だから今度は自分の番である。
リオンは立ち上がり剣を構えた。
「行くぞッ!!」
リオンが走り出すと同時にキョウナもそれに合わせるように走り出す。
二人は同時に攻撃を仕掛けた。
イレーネもまた、その攻撃を迎え撃つべく魔力の剣を構える。
二人の剣が激しくぶつかり合った。
「くっ」
キョウナの鉤爪とリオンの剣。
その攻撃をイレーネは受け止める。
激しい鍔迫り合いが続く中、キョウナは強引に鉤爪を振り抜くと一旦距離を取った。
そして再び斬りかかるが、これも防がれてしまう。
しかしそれでも諦めずに何度も攻め立てる。
リオンもまた負けじとイレーネに攻撃を仕掛けた。
二人の連携攻撃によって徐々に押され始めるイレーネ。
焦りが広がってていくも、冷静に対処していく。
「くッ…邪魔よ!」
「あッ!」
「キョウナ!?」
イレーネの攻撃がキョウナを襲った。
魔力で形成された剣でキョウナに斬りかかった。
なんとか鉤爪で受け止めるも、
完全には防ぎきれず吹き飛ばされてしまう。
地面を転がった後、すぐに起き上がったがダメージが大きいようだ。
イレーネが追撃を仕掛けてくる前にリオンは駆け出す。
キョウナに斬りかかろうとしていた彼女に、リオンも剣を振り抜く。
しかし彼女もそう簡単にやられるわけにはいかない。間一髪のところで回避する。
「はぁ…はぁ…はぁ…くっ…」
イレーネにもかなりの疲労がたまっている。
無理も無いだろう。
リオンとの戦闘が開始してから、もうすでにかなりの時間が経過しているのだから。
そしてキョウナの参戦。
リオンとキョウナの連携攻撃によって追い詰められている。
「くうぅ…」
一方のリオンもそうだ。
魔力が切れかかっているうえに、何度も攻撃を受け続けたことで肉体的にも精神的にも限界が近い。
しかしそれでも戦い続けるしかなかった。
「(ここで諦めるわけにはいかない!)」
リオンは気力を振り絞り剣を握る手に力を込める。
そしてイレーネに向かって駆け出した。
その時だった。
イレーネの視界に映るリオンの姿。
一瞬だが、彼の姿が二人に見えた。
「(まさか…)」
彼女はとっさに剣を横に振るう。
切り裂かれるリオン。
だが、そこには彼の姿はなかった。
確かに切り裂いたはず…
「ッ!?」
しまった!
そう思った時にはもう遅かった。
咄嗟に距離を取ろうとするが間に合わず、魔力の剣で受け流すのが精一杯だった。
しかしそれでも完全に防ぐことはできず、腕に傷を負ってしまう。
「今のは…魔眼の…!」
リオンの魔眼、身体に残った最後の魔力を使い、最後の技を使ったのだ。
自身に使う今までの技とは違う、『相手に使う魔眼』を。
ほんの些細な技だっが、今回は最大限の働きをしてくれた。
最後の魔力を込めたその一撃はイレーネの意識外からの攻撃だった。
「まだだッ!」
「対抗手段が…追いつかない…!」
リオンは休む間も無く連続攻撃を仕掛けていく。
イレーネもなんとか応戦するが、徐々に追い込まれていった。
防戦一方である彼女に対して、リオンは攻撃の手を緩めない。
これ以上の長期戦は不可能だ。
一気にたたみかけるしんない!
「ウオリャアアアアアアアア!!!」
「くうぅぅ!」
リオンの攻撃がクリーンヒットする。
だが、イレーネの攻撃もまた、リオンの攻撃を捉えていた。
魔眼の効果はもう切れている。
イレーネの魔力で形成された剣から放たれる一閃、それが彼の身体を捉えた。
しかし…
「リオンッ!ぎゃっ!」
「キョウナ!」
「邪魔よ!」
彼女がリオンを弾き飛ばし、イレーネの攻撃を受けてしまった。
その場に倒れるキョウナ。
イレーネはそのままリオンに攻撃を再びしかける。
リオンの剣が弾き飛ばされる。
「くあッ…」
弾き飛ばされた剣が地面に突き刺さる。
しかしそれと同時にイレーネの魔力で形成された剣が消え去った。
粉々になる魔力の刃。
魔力が限界を迎えたのだ。
「しまッ…」
「ずあッ!」
リオンはさらに攻撃を仕掛ける。
凄まじい威力の攻撃が命中した。
去る木の一撃では無い、最後に残った武器である『拳』の一撃。
防御しようとした彼女をそのまま弾き飛ばした。
「ああ…」
イレーネの身体が宙を舞う。
そのまま地面へと落下し、倒れたまま動かなかった。
どうやら気を失っているようだ。
それを見たリオンはその場で膝をつく。
それまで騒がしかった荒野に、静寂が戻った。
吹き抜ける風の音までもが騒がしく聞こえるようだ。
「勝った…のか…?」
ホッと胸を撫で下ろすリオン。
そんな彼の隣で、キョウナもまた地面に座り込んでいた。
魔力を使い果たしてしまったようで、ぐったりとしている。
傷は大きいが深いものでは無い、手当てをすれば
大丈夫だろう。
「キョウナ…大丈夫か?」
「ええ、なんとかね」
そう言って笑う彼女だったが、すぐに真剣な表情に戻る。
彼女はゆっくりと立ち上がるとリオンを見た。そして改めて口を開く。
「ありがとうリオン…」
「…こちらこそ」
彼女の感謝の言葉に小さく頷くリオン。
するとキョウナはクスッと笑うと彼の肩にポンと手を置いた。
そして優しく微笑む。
「でも無茶はダメよ?あんまり心配させないでね」
「分かってるさ…」
リオンはそう言って苦笑する。
キョウナはそれを聞き、満足そうに頷いた。
「久しぶりね、こうやって話すの」
「ああ、そうだね。随分と久しぶりだ…」
「ええ…」
キョウナは懐かしそうに目を細める。
そしてリオンもまた、彼女と同じように思い返した。
二人で過ごした日々を…
「あっ…」
キョウナの頬に大きな傷跡があるのが見えた。
以前、魅了の魔法を受けていた際にガ―レットへの忠誠の言葉を彫った刺青があった場所だ。
無理矢理それを消したのだろう。
「…それよりリオン、随分と無茶するわね」
「そうでもないさ」
リオンには最初から作戦があった。
ガ―レットとイレーネ。
二人をこの時間、この場所にひきつけておく作戦が。
「ガ―レットは確実に俺を殺そうとしてくると思っていた。だから『三日後』って条件を付けたんだ」
「どういうこと?何をいってるの?」
「ここでガ―レットたちをひきつけておく、それだけが俺の目的だったんだ。勝敗は究極的には関係なかったんだよ」
「それってどういう…?」
キョウナのその言葉。
その後だった。
静かな荒野に馬の蹄の音が響き渡った。
「呼んだんだ、『応援』を」
元々、ガ―レットは犯罪者として処分されることが決まっていた。
そしてイレーネの若い女性を狙った連続殺人。
王国の兵士を動かすには十分な理由となった。
犯罪者を捕縛するために彼らはやって来た。
「そっか、リオンがこの日のこの時間を指定したのって…」
彼らが到着するまでの時間、それが『三日後』だったのだ。
もし仮にイレーネ達を倒せなかったとしても…
最悪、リオンが死んでも後を託せるように。
シルヴィやアリスたちの姿も見えた。
王国の兵士たちと合流したのだろう。
「ひッ…」
それを見たイレーネが逃げようとする。
しかし…
「逃げないで!」
「うあっ…」
キョウナが彼女の動きを封じた。
その場に崩れ落ちるイレーネ。
完全に意識を失ったようだ。
「おーい!」
「おーい!」
応援の兵士たちに対し手を振るリオンとキョウナ。
二人も疲れ切ったのだろう、その場に座り込んでしまう。
アリスたちもリオンが無事であることを確認するとホッと胸を撫で下ろしていた…
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