第六十六話 激突、そして…
魔法使いは魔力の管理が大切だ。
イレーネのような魔法を連発するタイプは特に。
しかし、彼女は若いころの感覚のまま長期戦を取ってしまった。
その結果、魔力切れを起こしてしまったという訳だ。
若い肉体には、魔力は有り余っている。
しかし年老いた精神では…
「な、に…これは…?」
困惑するイレーネに対して、リオンは告げる。
「もう魔力の残量がないんだろう?ほとんど…」
「…ッ!!」
図星を突かれたイレーネの表情が一変する。
先程までの余裕を持った笑みではなく、焦りと恐怖が入り混じったような表情をしていた。
「魔力の残量が少ない状態で、魔力を節約して戦っていたんだ。だから俺の剣でも十分戦えていた」
リオンの言葉にイレーネは何も言えなくなる。
図星だった。自身ではまだ戦えると思っていた。
だが、実際にはそうではなかったのだ。
イレーネは諦めたように笑い出した。
「ふふ…ふふふふふ」
「?」
突然笑い出す彼女に困惑するリオンだったが、すぐにその理由を知ることになる。
「(あの魔力の流れ…!)」
「ふふふ…」
不気味に笑うイレーネ。
その表情は今までに見たことがないくらい不気味であり、そして美しかった。
「良いわよ…良いわ!こんなに追い詰められたのは久しぶりよ!!」
彼女は身体から魔力を絞り出す。
そして魔力で硬質の刃を形成した。
魔力で作られた即席の刃だ。
しかし攻撃性能は十分にある。
「まだ魔力が残っていたかッ」
「ええ。けど、もう魔力の無駄遣いはできないわね」
イレーネは魔力の刃を構え、斬りかかってきた。
リオンはその斬撃を受け止める。
だが、魔力を使ったことで力が弱まっているのか、徐々に押し込まれてしまう。
「くっ…!」
リオンは更に力を込める。イレーネはそれを見て、笑った。
そしてリオンの腹に蹴りを入れる。
その衝撃でリオンは吹き飛ばされた。
しかし、すぐに態勢を立て直すと再び走り出した。
魔力をほぼ使い果たした状態にもかかわらず、彼女は強い輝きを放っているように見える。
まるでこれが本来の彼女の姿だと言わんばかりに…
だがそれでもなお勝てるという確信が彼女にはあった。
「ふふふ…」
リオンの攻撃をかわすイレーネ。
そしてカウンターを仕掛けてくる。
しかし、今度の攻撃は簡単にいなされてしまった。
再び距離を取られるイレーネだが、今度は距離を詰めようとはせずその場で立ち止まったままだ。
彼女は魔力により形成された刃を構える。
「ふふ…」
「何を…」
リオンは警戒する。しかし、次の瞬間にはイレーネが目の前にいた。
「(速いっ!?)」
「ずあッ!」
「くッ…」
とっさに防御の姿勢をとるリオン。
彼女の一撃がリオンを襲う。
辛うじて受け止めることができたものの、衝撃で吹き飛ばされてしまった。
そのまま地面を転がるリオンに追撃を仕掛けるイレーネ。
「(まだ、まだだ…!!)」
リオンは痛みに耐えて立ち上がると、イレーネに向かって駆け出す。
そして魔力を込めた一撃を放った。
だが、その攻撃をイレーネはあっさりと受け止めると今度は逆に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、リオンはこれを回避した。
「やるわね…」
イレーネは余裕の表情で微笑む。
そして攻撃を繰り出してきたが、今度はリオンもそれを受け止めた。
お互いに剣をぶつけ合う形になる。
力ではほぼ互角のようだ。
両者一歩も引かずに鍔迫り合いを続けるうちに、二人の間で再び魔力が高まっていく。
「はああっ!!」
「うおおおおっ!!」
剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
二人の力は拮抗しており、どちらも一歩も譲らない様子だ。
しかしリオンの方は徐々に押され始めているように見える。
イレーネの表情からはまだまだ余裕を感じるのだが…
「(もっと、もっとだ…!!)」
リオンは更に力を込める。そして遂にイレーネを押し込んだ。
イレーネの表情が歪むが、それでもなお彼女は倒れない。
しかしリオンにとってはそれこそが狙いだった。
「(今だッ!!)」
剣から放った魔力の斬撃。
それがイレーネに向かって飛んでいった。
「なっ!?」
予想外の攻撃に驚きを隠せないイレーネ。
彼女は咄嵯に身を翻して避けようとしたが、若干遅かったようだ。
衝撃でバランスを崩す彼女だったが、なんとか踏みとどまる。しかしその表情は苦痛に満ちていた。
「くっ…この程度じゃ倒れないわよぉ?」
そう言って挑発してくるが、その息はかなり乱れているように見える。
どうやら今の一撃が効いているようだ。
リオンはさらに畳みかけるべく、再び攻撃を仕掛けた。
だが、その攻撃はあっさりと受け止められてしまう。
そして今度は反撃のチャンスとばかりに、イレーネが連続で斬りつけてきた。
「くっ…!」
リオンはその攻撃をなんとか防いでいくが、やはり押され気味だ。
そしてついに致命的な隙を突かれてしまう。
イレーネの一撃がリオンの右腕を斬り裂いたのだ。
傷口から鮮血が流れ出す。
「しまった…ッ!」
焦るリオンに容赦なく追撃を仕掛けてくるイレーネ。
彼女は更に魔力を込めた一撃を放つ。
リオンはなんとかそれを受け止め、体勢を立て直す。
一進一退の攻防を繰り広げるリオンとイレーネ。
二人の攻防は全くの互角だった。
互いに相手の動きを読み合い、そして最適な行動を起こしていく。
だが、徐々にリオンの方が押され始めていた。
「(クッ…!まだまだ…)」
心の中で悪態をつくがどうしようもない。
リオンの息は荒くなり、身体中に傷やあざがある。
しかしイレーネの方も同じような状態だった。
お互いにもう余裕は無いだろう。
だが、ここで負けるわけにはいかないのだ。
肩で息をするリオンとイレーネ。
二人は互いに剣を構えた。
二人の距離は僅かな距離だ。
次の瞬間にはお互いの剣がぶつかり合った
その二人の戦いを少し離れたところから眺める二人。
ガ―レットたちだ。
「ほぉ、リオンのヤツ、なかなかやるじゃないか」
「…」
「まあ、この調子なら母さんが勝つだろうけどな。そう思うだろメリー?」
そう言うガ―レット。
これまで自分の邪魔を散々してきたリオン。
彼が倒れる姿をこの目で見れるのだ。
これほど嬉しいことは無い。
「まあ、母さんが負けそうなら…」
そう言いながら、彼は剣を取り出す。
イレーネとの戦いで消耗したリオンならば自分でも勝てる。
そう考えているのだろう。
「へへへ…」
「…」
「なあメリー、お前はどっちが勝つと思う?」
「リオン…ッ!」
「え…?」
その時だった。
ローブを脱ぎ捨てた彼女は、ガ―レットに勢いよく斬りかかった。
完全なる意識外からの一撃だった。
ガ―レットはそれをもろに受けてしまった。
「がッ…お前ッ…メリーじゃ…」
その身体に大きな傷を受け、倒れるガ―レット。
彼女の愛用する武器、『鉤爪』から放たれた攻撃で。
そして彼女はそのままの勢いでリオンの元へと向かう。
振り下ろされるイレーネの剣を受け止めるリオン。
だが、重い衝撃に耐えきれず吹き飛ばされてしまった。
地面を転がりながら体勢を立て直そうとするが、そこで追撃が来る。
「しまっ…」
リオンの視界に入ったのは、彼女の剣。
それはまっすぐにこちらに向かって振り下ろされようとしていた。
リオンは思わず目をつぶってしまう。
だが、いつまで経っても次の一撃が来ないことに気づき目を開いた時
──そこには彼女の姿があった。
「間に合った…ッ!『二回目』も!」
「アナタは!?」
「キョウナ…ッ!」
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