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第六十五話 狂気の理由

 三日後、クラックビレッジ付近の荒野。

 そこにはイレーネたち三人が立っていた。

 リオンから決闘の申し出を受けたからだ。

 人を通して彼女の元に手紙が届いたのだ。

 彼女にとって、わざわざ受ける必要もなかった。

 しかし…


「今度こそ確実に仕留めてくれよ、母さん」


「ええ、もちろんよ。今度こそ必ず、ね…」


 ガ―レットの言葉に対し、そう答えるイレーネ。

 彼女にとって、現状『最高の息子』であるガ―レットからの頼みだ。

 断るわけがない。


「俺とメリーはあっちで隠れてるから、さ…」


「ええ。ふふふ…」


「いくぞメリー」


 そう言いながらガ―レットたちは近くの威を陰へと潜む。

 そして、彼女はその場でじっと待っていた。

 リオンが来るのを待っているのだ。


「来ないつもりかしら?」


 そんなことを考えていると、遠くに人影が見える。

 どうやら、リオンが来たらしい。


「…」


「あら、生きていたのね」


 あの時、魔力吸収でリオンを殺しきれなかった。

 とはいえ死にかけの状態で荒野に放置したはずだ。

 それで生きているとは半ば信じられなかった。だが、目の前にいる男は間違いなくリオン。

 彼は剣を握り締めていた。

 そんなリオンに対して、イレーネは問いかける。


「どうやって生き延びたのかしら?」


「さあ」


「それにこんな短期間でよく回復できたわね」


「みんなのおかげだよ」


 リオンがここに立っていられる理由。

 アリス、シルヴィ、エリシアから少しずつ魔力を借り受けてきたからだ。

 おかげで、リオンの身体はまだ動く。

 だが、これはあくまで応急措置に過ぎない。


「なるほど、そういうことね…」


 リオンの言葉を聞いてイレーネも察したのだろう。

 彼の身体から、別人の魔力も感じる。

 奇しくも、二人は『同じ状態』になったといえるだろう。


「まあいいわ。来なさい」


「そうさせてもらう!」


 リオンは剣を構えると、一気に距離を詰めた。

 イレーネに向かって何度も斬り付けるが、あっさりと受け止められてしまう。

 彼女は余裕の表情で攻撃を捌く。


「(やはり強い…!)」


 それは最初から分かっていたことだ。

 だが、リオンは諦めなかった。

 みんなと共に練った策、それが通じるか否か。


「はっ!」


「くッ!」


 リオンは果敢に攻め続ける。だが、それでもなお追い詰められていく。

 イレーネの一撃がリオンを吹き飛ばした。

 地面に転がるリオンを見て、彼女は笑う。


「ふふ…それで勝てると思っていたのかしら?」


 やはりダメか…

 そう思った時、声がした。


 "あきらめないで"


 その声は、どこから聞こえてくるのだろう?

 リオンは自分の胸に手を当てて、考える


「(アリス…?)」


 "負けるな"


 リオンはこの声の主を知っていた。


「(シルヴィ…?)」


 それは、ずっと共に旅をした仲間の声だった。


 "頑張って"


 それはエリシアの声。

 みんなからもらった魔力、それがリオンの身体に駆け巡っていくのが分かった。

 リオンは立ち上がり、再び剣を構える。


「(みんな…ありがとう!)」


 そして、イレーネに向かって駆け出した。


「はぁあああッ!!」


 今までよりも強い一撃が繰り出される。

 その瞬間、イレーネの表情が変わったような気がした。

 だが彼女は冷静に対処し、回避する。

 そして隙だらけのリオンに攻撃を仕掛けてきた。


「(しまった…!)」


 リオンはその攻撃を剣で防ごうとするが、間に合わない…

 だが、その直前にシルヴィから借りた低級の風属性の魔法が発動し、イレーネに襲いかかる。

 しかし彼女も風魔法を使えるのか、相殺されてしまった。


「やってくれるわね…」


 イレーネは苛立ったように呟く。

 違う攻撃魔法を放つも、リオンに避けられてしまう。

 リオンに対し、ヴォルクが教えてくれた回避術だ。

 魔力を殆ど使わない、純粋な体術だ。

 とある国の軍隊で採用されている技術だと言っていたが…


「(あの人、なんでこんな技を知ってたんだろう…)」


 リオンはそんなことを考えながら距離をとる。

 そして、今度はイレーネに向かって走り出した。

 彼女は再び攻撃を仕掛けてくるが、低級の風属性の魔法を使ってそれを回避する。


「くっ…!」


 攻撃がなかなか当たらず、苛ついた表情を見せるイレーネ。

 リオンはそんな彼女に対し、剣を振り抜いた。

 イレーネはそれを受け止める。


「そんな攻撃で…」


 彼女は余裕の笑みを浮かべているように見えるが、内心はかなり動揺していた。


「(どういうこと?どうしてこんなに動けるの?)」


 リオンの動きは明らかに最初より良くなっている。

 明らかに別人のようだった。

 そして、リオンが剣を振るう。

 その一撃を防ごうとイレーネは魔法を放つ。

 だがそれをまた避けられてしまった。


「どうしてッ!?」


 予想外の出来事が続き、焦り出すイレーネ。

 大量の火炎弾を呼び出し、雨あられのように放つ。

 炎と衝撃が地面を大きくえぐり取り、荒野に大きな傷跡ができた。

 しかし既にリオンはその地点から離れていた。


「くッ…」


 攻撃を外してしまったこと

 そんな彼女にリオンは魔法攻撃を放った。

 シルヴィの風魔法だ。


「ぐうっ!」


 初めてまともに受けた攻撃に後退るイレーネ。

 リオンが咄嗟に放った物であったため、威力自体はそれほど高いものでは無かった。

 しかし攻撃を受けてしまったという事実にイレーネは苛立つ。

 再び距離を詰め、今度は火炎魔法ではなく水魔法を仕掛けてきた。


「(こんな荒野で水魔法を…?)」


 水魔法は空気が乾燥した場所では、効果が低くなる。

 もちろん、適切な使い方をすればその限りでは無いのだが今回のイレーネはそうでは無い。

 完全に頭に血が上っているようだ。

 デタラメに技を使っているのだろう。

 リオンはそれを避け、距離を取ると今度はヴォルクに教えてもらった剣術で攻める。


「くっ…!」


 連続で繰り出される斬撃に思わず声を漏らすイレーネ。

 だが彼女も負けじと魔法を連発する。

 しかしリオンには当たらない。

 苛ついたまま攻撃を放つイレーネ。

 しかしそんな精神状態では当然攻撃は当たらない。

 そんな負のスパイラルに陥ってしまっているのだ。

 それでもなお、イレーネは攻撃を仕掛けてくる。

 リオンはそれを避けつつ攻撃を続けた。


「(まさか…)」


 リオンは気付く。

 イレーネの動きが鈍ってきていることに。

 おそらく魔力切れが近いのだろう。

 彼女は明らかに疲弊していた。

 冷静に対処すればイレーネに問ってリオンなど敵では無いのかもしれない。

 しかし、今の彼女にはそれができない。


「(やっぱり…)」


 リオンの立てた戦術、それはイレーネから冷静さを失わせること。

 そしてもう一つ、それは魔力切れを狙うこと。

 少なくとも近年、イレーネは本格的な戦闘をしたことが無い。

 十年、あるいはそれ以上か。

 しかし、身体の感覚は全盛期の若い時代のままだ。

 若い時代の感覚のまま、今の身体で魔法を使う。

 その先に待つものは…


「魔力切れだッ!」


 魔法使いは魔力の管理が大切になってくる。

 イレーネのような魔法を連発するタイプは特に。

 若いころの感覚のまま、長期戦を取ってしまったイレーネ。

 まんまとリオンの作戦にはまってしまった、という訳だ。


「魔力がッ…足りない!?」


「だからアンタは血や魔力をルイサ達から奪っていたんだ。『足りなくなる』のを恐れていたから!」

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