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第六十二話 そのまま死んでなさい


 リオンはイレーネと向かい合っていた。

 彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、こちらを見つめてくる。

 その視線はどこか艶っぽく、見られているだけで心が落ち着かない。

 だが、ここで動揺してしまっては相手の思うつぼだ。

 リオンは必死に耐えていた。

 一方のイレーネは、リオンの態度を見て楽しげにしている。


「あら、意外と頑張るのね」


「…」


「ふふ、じゃあこれはどうかしら」


 そう言うと、彼女は両手を広げた。

 すると、周囲の空気が変わった気がした。

 イレーネを中心に魔力が集まっていくのを感じる。

 彼女は右手をリオンに向けてかざすと、魔法を放った。

 巨大な火の玉が飛んでくる。

 リオンはそれを剣で受け止めるが、威力が強く押し負けてしまう。

 なんとか直撃は免れたが、かなりのダメージを受けてしまった。


「ぐッ…」


 リオンはなんとか体勢を立て直す。

 そして、再び剣を構えた。

 一方、イレーネは余裕の表情だ。


「なかなかやるじゃない」


「…」


「でも、いつまで続くかしらね」


 イレーネはそう言うと、またもやリオンに向かって攻撃を始めた。

 今度は風魔法のようだ。

 先ほどよりもさらに強力な竜巻が巻き起こり、リオンを襲う。

 なんとか回避するが、完全にかわすことはできなかった。


「くッ…」



 リオンは吹き飛ばされそうになるのを堪える。

 しかし、イレーネの攻撃は止まらない。

 今度は炎、水、土、雷などありとあらゆる属性の魔法を使ってきた。

 リオンはそれらを剣一本で捌いていく。

 しかし、徐々に追い詰められていった。

 このままではまずい。

 リオンは焦っていた。

 と、その時…


「ガ―レット」


「なんだよ母さん」


 戦いの最中、イレーネがガ―レットに話しかけた。


「さっき逃げた子、追いかけなさい」


「いま俺、剣持って無いんだけど」


「あなたなら剣が無くても勝てるでしょ」


「へへ、まあな…」


 不敵な笑みを浮かべ、黙って頷くガ―レット。

 そして馬に乗ってシルヴィのあとを追い始めた。


「ガ―レットッ!」


「お前は母さんと戦ってろ!じゃあな!」






 ---------------------





 一方その頃、シルヴィは拝借した馬を駆りメリーランを追っていた。

 魔力の残り香を辿れば探せると思っていた。

 しかし…


「…みつからないな」


 やはり、魔力の痕跡を追うのは難しいようだ。

 だが、諦めるつもりはない。

 そう思いながら、彼女はひたすら馬を走らせた。

 だが、そんな時だった。

 遠くで野営する者たちの気配を感じた。

 恐らく、イレーネの配下の者たちだろう。

 さすがに見つかるのはマズイ。

 そう考えたシルヴィは、アリスたちとの合流を選んだ。

 幸いなことに、彼女はまだ気づかれていないようだ。

 シルヴィはゆっくりと迂回しながら、アリスたちのいる廃村へと向かった。


「確か…このあたりのはず…」


 リオンとヴォルクは途中のキャンプ地として、事前にこの廃村を選択していた。

 もし何かあった時、アリスたちがいるとすればこの廃村だ。

 そして深夜、廃村に到着した。

 パッと見て、アリスたちの姿は無い。

 しかし…


「お前か」


「ええ」


 ヴォルクが物陰から語りかける。

 どうやらシルヴィの読みは正解だったようだ。

 アリスとエリシアもここにいるらしい。

 二人は寝ているという。


「リオンはどうした?」


「ガ―レットたちと決着をつけると…」


 それを聞いて、ヴォルクは黙って頷いた。

 そして、こう続けた。

 お前も休め、と。

 ヴォルクは一人で廃村を出ると、周囲の様子を窺う。

 見張りを続けるようだ。


「大丈夫なんですか?」


「ああ、問題無い」


 そう言いながら、彼は夜空を見上げた。


「とりあえず、今は休もう」



 -----------------------




 リオンはイレーネと向かい合っていた。

 既に何回攻撃を受けただろうか。

 身体中が痛むが、それでもなんとか立ち上がる。

 だが、これ以上戦うのはまずいかもしれない。

 そう思った瞬間、イレーネが言った。


「ねえ、私と一緒に来てくれないかしら」


「えっ…」


 唐突な申し出に戸惑ってしまう。

 彼女の言葉の意味を理解しようと思考を巡らせる。

 だが、その前にイレーネが再び口を開いた。


「ガ―レットの代わりに私の息子にならない?」


「何を言って…」


「だってあなた、ガ―レットに勝ったんでしょう?」


「あ、ああ。武術大会で…」


「だから、強い方がいいじゃない」


 イレーネは続ける。


「きっと楽しいわよ。一緒に暮らしましょう。私はあなたのことを愛してあげる」


 突然の提案に困惑してしまう。

 一体どういう意図があるのか分からない。

 だが、イレーネの言葉にはどこか不思議な魅力があった。

 思わず耳を傾けてしまうような。

 リオンの心は揺れていた。

 しかし…


「俺は行かない」


 リオンは叫んだ。

 この女は狂っている。

 少なくとも、自分が理解だ斬るような思考を持っていない。

 そして、剣を構える。

 イレーネは残念そうな表情を浮かべた。


「どうして?私のことが嫌いなのかしら」


「違う」


「じゃあ好き?」


「それも違う」


 リオンは首を振った。

 そして、イレーネの目を見て言う。


「あんたは俺の敵。それだけだ」


 リオンにとって大切なものを奪った張本人だ。

 許すことなどできない。


「そう…」


 イレーネは悲しげな表情を見せた。


「じゃあ仕方ないわね」


 そう言うと、彼女は両手を広げた。

 そして、魔法を放つ。

 巨大な火の玉が飛んでくるのを、リオンは剣で受け止めた。

 そのまま押し返そうとする。

 すると、火の玉はどんどん大きくなっていった。


「なッ…」


 リオンは慌てて後退しようとする。

 しかし、間に合わない。

 やがて、リオンを飲み込めるほどの大きさにまで成長した。

 このままではまずい。

 しかし、これは逆にチャンスでもあった。

 魔眼の力を使い、全力で火の玉の僅かな隙間を縫うように回避する。

 なんとか回避に成功した。

 だが、安堵する暇はない。

 イレーネは次々と魔法を放ってくる。

 これ以上の長期戦は無理だ。

 そう考えたリオンは勝負に出た。

 一瞬で距離を詰めると、渾身の一撃を繰り出す。



 しかし…



 イレーネはそれを片手で受け止めた。

 驚愕するリオン。

 そんな彼にイレーネは微笑みかけた。

 まるで、彼の行動は全てお見通しだと言わんばかりに。

 次の瞬間、イレーネはもう片方の手で手刀を作ると、それをリオンの腹に叩き込んだ。


「あぐッ…」


 手刀が深々と腹に突き刺さる。

 凄まじい衝撃を受け、吹き飛ばされそうになる。

 しかしイレーネの片手で掴まれているため飛ぶこともできない。

 リオンはそのまま地面に投げ出された。


「ぐぅ…ッ」


 痛みに耐えながら、必死に起き上がろうとする。

 だが、上手くいかない。

 そんな彼に向かって、イレーネがゆっくりと歩いてきた。

 彼女は目の前まで来ると立ち止まり、手を差し伸べる。


「さあ、行きましょう」


「嫌だ」


 彼はその手を振り払った。


「どうして?」


 イレーネが尋ねる。


「俺はまだ戦える」


 リオンは答えた。

 しかしもう戦えるような状態では無いのは明らかだ。


「そう…」


 イレーネは再び悲しい顔を見せると、再びリオンに近づいてきた。

 そして、今度は蹴り飛ばす。

 彼は為す術も無く地面を転がるしかなかった。

 イレーネはふいに立ち止まった。

 そして、こう呟いた。


「じゃあ死んで」


 イレーネはそう言うと、ゆっくりと手を伸ばした。

 そして、リオンの頬を優しく撫でる。

 抵抗しようとするが、体は動いてくれない。

 その様子を見て、イレーネはさらに興奮する。

 彼女は耳元に顔を近づけると、囁くように言った。


「いただきます…」


 その声はとても甘く、そして官能的だった。

 リオンの意識は徐々に薄れていく。


「武術大会で優勝したといっても、こんなものね…」


「うぅ…」


「所詮はお遊びよ」


 そう言ってリオンを蹴り飛ばす。

 魔力を殆ど吸いつくしてしまったようだ。

 彼の顔から精気が失われていく。

 しかし…


「あれ?全部吸い切れなかったわね?」


 なぜかリオンの魔力を全て吸い切ることができなかった。

 いつもならこれだけで相手を死亡させることもできるのだが。

 実際、以前にリオンの妹のルイサにやった時は完全に魔力を吸い切ることができた。

 理由は分からないが、気にすることでもないだろう。


「…まあいいわ。すぐに死ぬでしょう」


「ぐッ…」


「そのまま死んでなさい」


 この荒野は天然の墓場。

 死体は動物と魔物に食い荒らされ、骨も残らない。

 血と体液は砂に染み込み、その跡も残らない。

 何も…


「さようなら、リオン」


「まだだ、俺はまだ戦え…る…!」


面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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