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第五十九話 ガーレット、再び

 あれから数日。

 リオンたちはアリスの村で今後の旅のための体制を立て直していた。

 旅のための準備はもちろんのこと、この村の人たちと交流したり、ヴォルクと稽古をしたりと充実した日々を送っていた。

 アリスは改めて故郷の空気を満喫しながら薬の原料を捜し、シルヴィとエリシアも二人を手伝っていた

 そして…


「いいんですか?本当に手伝ってもらって」


「ああ。かまわないぜ!」


 リオンたちは村を出発していた。

 アリス、シルヴィ、エリシア、そしてヴォルクと共に。

 ヴォルクはその姿を大きな狼のそれに変えており、背中にはリオンたちが乗っていた。

 リオンの問いに対し、ヴォルクは元気よく答える。

 その答えを聞いたリオンは安心し、さらに続けた。


「ありがとうございます。じゃあお願いしますね!」


「よろしくね、お父さん!」


「おう!まあ期間限定だがな」


 リオンとアリスの言葉に笑いながら答えるヴォルク。

 彼にも生活がある。

 あくまで次の村まで運んでくれるというものだ。

 とはいえ、もちろんそれだけでもかなり助かるのだが。

 こうしてリオンたちは新たな仲間を加え、旅を再開した。

 ヴォルクは狼の姿のまま、器用に笑っていた。


「この辺りはしばらく荒野が続く。何もない退屈な場所だが我慢してくれ」


「いえ、むしろありがたいですよ」


「そうか、それは良かった」


 ヴォルクはそう言いながら、速度を上げた。

 風を切る音が大きくなる。

 リオンたちは振り落とされないようにしっかり掴まり、ヴォルクにしがみついた。


 やがて、大きな岩が並ぶ岩場地帯へと足を踏み入れた。

 ここは先ほどの荒野のように駆け抜けることは出来ない。

 ゆっくりと進むヴォルク。

 すると、突然何かに気づいたのか、彼は急に立ち止まった。


「どうしたんですか?」


「…血の臭いだ」


 ヴォルクは鼻を鳴らして言った。

 彼は人間よりも嗅覚が優れているようだ。

 そのおかげで、ここまで魔獣に襲われること無くやって来られたのだ。

 リオンはヴォルクの言葉を聞き、緊張の面持ちになる。


「獣ですか?野生動物の…」


「いや、違う。これは人間の…」


「え…」


「しかも複数の血液だ。恐らく、死体もあるだろう」


「そんな…」


「時間もそんなに経過していないみたいだな」


 人間が殺された。

 それも複数人の命を奪うような、強力な力を持つ何者かによって。

 それを理解した瞬間、全員の顔つきが変わった。


「行くぞ」


 ヴォルクは走り出す。

 リオンたちもそれに続く。


「(一体誰がこんなことを…)」


 リオンは考える。

 だがすぐに思考を中断する。

 今は考えている暇など無い。

 現場にたどり着いた時、目の前に広がる光景を見て、リオンたちは絶句した。

 そこはまさに地獄だった。


「酷い…」


「ああ…」


「何だ、これ…」


「うっ…」


 一行は思わず顔を背ける。

 そこには凄惨な光景が広がっていた。

 地面に横たわる数人の死体。

 しかも、よく見るとどれもこれも見覚えのある装備ばかりだ。


「彼らは王国の兵士だな」


 それを見たシルヴィが言った。

 イアース王国の兵士たちだ。

 彼らは何者かと交戦し、殺されたのだ。


「王国の兵士がなんで…?」


「分からない。だが、この先にまだ生存者がいるかもしれない」


「行こう!」


 リオンたちは岩場の奥へ進んでいった。

 進んでいくにつれ、だんだんと血の臭いが強くなっていく。

 そしてついに、生き残りを見つけた。


「おい!大丈夫か!!」


 ヴォルクが大きな声で呼びかける。

 その声に反応して、一人の男がこちらを振り向く。

 その顔は蒼白で、体は傷だらけだった。


「き、君は…」


 男は掠れた声で言葉を紡ぐ。

 しかし途中で力尽きてしまったのか、そのまま倒れ込んでしまった。


「おいっ!!大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄るシルヴィ。

 男を抱き起こす。


「気を失っているだけだ」


「よかった…」


 安堵の声をあげるアリス。

 これ以上死人が増えなかった。

 それだけでも良しとしよう。


「とりあえず、急いでここを離れよう。敵が集まってくるかもしれんからな」


 ヴォルクはそう言って立ち上がる。

 背中に、傷だらけの兵士を乗せる。

 そしてリオンたちを連れてその場を離れようとする。

 しかし…


「よお、久しぶりだなリオン!」


 背後から聞こえた声にリオンの心臓が大きく跳ね上がる。

 恐る恐る振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていた。


「…ガ―レット」


 そこにいたのは、リオンの宿敵であるガ―レットだった。

 黒い鎧に身を包んだ多数の騎兵を連れている。


「…何故ここに?」


 リオンは警戒心を剥き出しにして問いかけた。


「何故ってそりゃあ決まってんじゃねえか!」


 そう言うと、彼は剣を抜いた。

 そしてその剣の先をリオンに向ける。


「お前を殺すためだよ!」


「ッ…!!」


 反射的に身構えるリオン。

 だが、彼が動くより早く、リオンの前にヴォルクが立ちふさがった。

 唸り声をあげ、ガ―レットたちを威嚇する。


「なんだ?ペットでも飼い始めたのか?」


 そう言って逆に挑発し返すガ―レット。

 だが、彼はすぐに興味を失ったのか、リオンの方を向いて口を開いた。


「まあいい。俺はお前さえ殺せればそれでいい」


 ニヤリと笑うガ―レット。

 だが、彼よりもリオンにとってはあの黒い騎兵たちが気になる。

 さきほどの王国兵たちを襲ったのも、おそらく…


「…王国の兵士たちを襲ったのはお前たちか?」


 リオンは怒りを押し殺し、静かに尋ねた。


「ああ、そうだぜ。だがそれがどうした?」


 悪びれることなく答えるガ―レット。

 今、彼は王国から追われる身となっている。

 あの王国兵はその追手だったのだ。

 ガ―レットの言葉を聞いたリオンの表情が変わる。


「…許さない」


「あぁ?」


「絶対にお前を許さない!」


「ハハッ!そうこなくっちゃな!」


 リオンは剣を構える。

 隣にはシルヴィが立つ。

 そして、エリシアとアリスは後方で待機している。


「お父さん!」


 アリスはヴォルクの背中に乗る。

 リオンはチラッと後ろを見る。

 アリスとリオン、二人は黙ってうなずいた。

 それを確認して前を見据えるリオン。


「掴まっていろ、二人とも!」


 アリスとリオン、二人の意思を理解したヴォルク。

 彼はアリスとエリシアを背中に乗せ、全力でこの場から離脱した。

 この人数差では、二人は戦力として心もとないと判断したからだ。

 直接的な戦闘能力の無いアリスと軽戦闘が得意なエリシア。

 相手が騎兵では少々キツイ。ならば、ここはヴォルクに任せて逃げるべきだ。


「おいおい、逃げちまったのかよ。まあいいや。俺の目的はあくまでお前だ」


 ガ―レットはつまらなさそうな顔を浮かべる。

 とはいえ、そのまま見逃すわけもない。

 半数の騎兵がヴォルク達を追っていった。


「さて、始めようか」


 残ったガ―レットの部下の騎兵たちは一斉に武器を構えた。

 ガ―レットは片手を上げる。

 すると、彼の部下たちは左右に広がり始める。

 まるでリオンを囲むように陣形を取りはじめる。

 どうやら何か作戦があるようだ。

 リオンは油断せず、剣を構えて相手の出方を窺う。


「行くぞ!!」


 号令とともに、騎兵たちは突進してきた。

 先頭がリオンに斬りかかる。

 リオンはそれを難無くかわすが、すぐに次の攻撃が飛んできた。


「速い!」


 一瞬のうちに間合いを詰められた。

 リオンが驚いた隙に、さらに他の騎兵たちも追撃を仕掛けてくる。

 四方八方からの攻撃。

 リオンの攻撃はガ―レットに届かない。

 と、その時…


「ボクを忘れないでもらえるかな」


「シルヴィ!」


「リオン、ここはボクに任せて!キミはあいつを!」


 シルヴィは剣を振るいながら叫ぶ。

 彼女は騎兵たちを次々と薙ぎ倒していく。

 その速さはまさに疾風の如く。

 次々と倒れていく部下たちを見て、ガ―レットは舌打ちをする。


「ガ―レット…!」


「リオン…!」



面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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