第五十七話 アリスの生まれ故郷
リスターの魔法都市を出発したリオンたち。
イアース王国を目指して進むリオン、アリス、シルヴィ、エリシア。
しかしその前に、どうしてもよりたい場所がある。
アリスがそう言ったのだ。
「いいですか…?」
「ああいいよ。急ぐ旅でもないし」
「ありがとうございます、リオンさん!」
この近くにある村が目的地。
そこはアリスの育った村。
彼女はそう言った。
「アリスってあの森の近くの生まれじゃないんだ?」
リオンが言った。
彼女と初めて出会った森、てっきりあの近くがアリスの故郷だと思っていた。
しかしどうやら違ったようだ。
「ええ。仕事のためにあの森に住んでいただけです」
「そうだったんだ」
「はい。それにしても暑い…」
そう言って、アリスはローブを脱いだ。
露出度の高い服に、豊満な胸元が強調される。
その視線に気付いたのか、エリシアは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あらぁ? そんなに見つめちゃってぇ~」
「いや…見ていないぞ?」
「ウソつきぃ~♪」
「…」
楽しそうにしているエリシアを見て、リオンは苦笑いした。
ふと、シルヴィが真剣な表情で言った。
「で、アリスの故郷の村というのはどこにあるんだ?」
「あの村はね、この荒野の端っこにあるの」
「うん、なるほど…」
アリスの説明を聞きながら、シルヴィは地図を広げた。
現在地を確認するためだ。
意外と、すでにアリスの村の近くにいるようだ。
この調子なら、日が暮れる前にはたどり着けるだろう。
「へえ、結構近いな。これならすぐに着く」
「そうだね。ありがとうシルヴィちゃん」
和やかな雰囲気が流れる。
そうして荒野を進むリオン一行。
特に問題も無く、アリスの育った村にたどり着いた。
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「おおー! ここがアリスちゃんの生まれた村か!」
エリシアが嬉しそうにはしゃぐ。
村の周囲には柵があり、門があった。
門の横には小さな小屋があって、そこには老人がいた。
「おや? 旅人さんかね?」
「お久しぶりです!村長さん!」
「…アリスちゃんか!?こりゃあ驚いた!」
「ふふふ。お元気そうで」
アリスが元気よく挨拶をした。
老人の名はゴドフリーというらしい。
彼はニコニコしながら話しかけてきた。
「いやあ久しぶりだねぇ」
それからアリスは、今までの旅の話をする。
ゴドフリーはとても喜んだ様子だった。
そして、リオン達のことも紹介してくれた。
彼らはアリスと一緒に旅をしている仲間なのだと。
するとゴドフリーは、とても感心したように言った。
どうやらリオン達のことを、若いながらも腕利きの冒険者だと見抜いているようだ。
「ほっほう! なるほどなぁ。いや、実に素晴らしい!」
「いえいえ。俺達はまだまだですよ」
謙遜するリオンだったが、ゴドフリーは褒め続ける。
「いやいや! 立派なことだよ!」
そうこうしているうちに、すっかり日が落ちてしまった。
これ以上は危険だということになり、今日は休むことになった。
アリスの家へと案内される。
そこは他の家より少し大きいだけの、ごく普通の民家だ。
「ただいまー」
アリスには両親はいない。
その代わりに、彼女の世話をしていたという『おじさん』がいるという。
家の中から生活音がする。
夕食を準備する音だ、誰かが料理を作っている。
「おじさーん、帰って来たよー」
アリスが家の中に声を投げる。
リオンたちは、アリスの育ての親がどんな人物なのかが気になっているようだった。
しばらく待つと、一人の男が姿を現した。
目は眠たげに細められていて、どこかやる気を感じさせない。
服装もくたびれたシャツにズボンと、冴えない風貌だ。
しかし、その姿をみてリオンたちは思わず息を飲んだ。
「…アリスか。無事で良かった」
アリスの育ての親。
狼のような鋭い目つきに、引き締まった肉体。
いや、その姿は狼の獣人そのものだ。
「…ッ!」
シルヴィはその姿を見て、ある者のことを思い出した。
王都でリオンと戦った魔獣人の少女バッシュのことを。
しかし、この人物がバッシュとはまるで違うということも理解できた。
なぜならば、彼の纏う気配は一般人のそれだからだ。
つまり、魔族であるがその性質は一般人と同じということだ。
「おじさん紹介するね。こちらが冒険者のリオンさん。で…」
アリスがリオンを紹介すると、続いてシルヴィたちを紹介した。
リオンたちも自己紹介をして、頭を下げる。
アリスは彼らの素性を説明してくれた。
彼らのおかげで旅が続けられていることなどを。
すると、男は言った。
「…そうか。それは感謝せねばならんな」
エリシアがシルヴィの後ろからひょっこりと顔を出した。
彼女は緊張した面持ちで男を見つめる。
「おっと、自己紹介がまだだったな。オレは『ヴォルク』。見ての通り、狼の魔獣人だ」
やはりそうだ。
この男の人は、あの時の女の子とは違う。
そう思うと、なぜか胸がチクリと痛んだ。
シルヴィがそんなことを考えていると、リオンが口を開いた。
「ヴォルクさん、突然押しかけてしまってすみません」
「なに構わんさ。それにしても、君たちがアリスと共に旅をしてくれて本当に助かった」
「いえ。俺たちは当然のことしかしてないです」
むしろ自分たちがアリスにいつも助けられている。
そう言うリオン。
彼女がいなければ、これほどスムーズに旅は出来なかっただろう。
特にリオンは、彼女がいなければどうなっていたか…
「ふむ。君は謙虚だな。遠慮はいらない、ゆっくりしていってくれ」
そう言って家の中に入ろうとするヴォルクを、アリスが呼び止めた。
彼女はリオンたちを、まずは自分の部屋に招きたいと言ったのだ。
「ああいいぞ。部屋はそのままにしてある」
「ありがとう、おじさん!」
「オレは料理を作ってくる。客人に、ご馳走をな」
そう言って家の奥へ戻っていくヴォルク。
リオンたちが家に入ると、アリスの部屋へと案内された。
そこは質素な部屋だ。
ベッドや机などの最低限のものしか置いていない。
アリスが家を出た時から、何も変わっていない。
するとエリシアが、ワクワクした様子で言う。
「ねぇアリスちゃん。聞かせてくれる? アリスちゃんのこれまでの話を!」
「うん!いいよ!」
こうして、アリスの過去の話が始まった。
アリスは、物心ついた時から両親はいなかった。
その代わり、彼女の世話をしていたのが『おじさん』だったという。
彼はアリスにとって、家族であり、先生でもあった。
彼に読み書きを教えてもらったり、様々な知識を教わったりしていたらしい。
「私が薬師をしてるのも、今思うとそれがルーツになっていると思います」
そう言うアリスの顔は、とても優しい表情だった。
彼女が作った薬は、多くの命を救うだろう。
そう確信できるような、温かな笑顔だった。
それからもアリスの話は続く。
おじさんは、彼女にたくさんのことを教えた。
薬草の種類や効能、動物や植物の生態など。
また、人体の構造に関する知識も学んだ。
「なるほど、それが今のアリスのルーツなんだ」
「はい!」
シルヴィの言葉に、元気よく返事をするアリス。
次に彼女は、自分を育ててくれたおじさんについて語った。
いつもやる気の感じられない人だったらしい。
しかし、いざという時は頼りになる人で、とても強い人だという。
さらに、料理も上手だという。
「おじさんの作る料理は美味しいんですよ!」
「へぇ、そうなんだ」
「はい! 特にお肉を使った料理が得意なんです!」
シルヴィは思った。
「(なんか、お母さんみたいだなぁ…)」
アリスの育ての親『おじさん』は、どうやら彼女のことを溺愛しているようだ。
その証拠に、昔のアリスが風邪をひいて倒れた時はかなり心配したらしい。
「あ、でもおじさんはちょっと過保護なところがあって…」
アリスが少し困ったように言った。
だが、その声色には嬉しさが滲んでいる。
そして、アリスは育ての親であるおじさんのことを自慢げに語る。
その口調からは、彼を尊敬していることがよく分かった。
シルヴィたちは、そんな彼女の姿に微笑ましくなった。
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