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第五十三話 王国最高の『魔力』

 ガ―レットの母親、イレーネ。

 彼女の住む屋敷の隠し部屋。

 紅く染まったその部屋に一人佇むイレーネ。

 その周囲には人一人分の肉塊が転がっている。


「ふぅ。やっぱり若い女の子は最高ね」


 そう言って、彼女は満足げな笑みを浮かべる。

 そして、ゆっくりとその場を後にした。

 後片付けはいつも通り、執事に命令する。

 彼らにとっても、この光景はありふれたモノだった。


「今回はいつもより派手にやってるなあ」


「さっさと片付けるぞ」


「おう」


 彼らは慣れた手つきで死体を処理する。

 肉塊を木箱に詰め、血を洗い流す。

 床や壁についた血痕なども綺麗に掃除された。

 そして、何事もなかったかのように元の状態に戻る。

 イレーネの使った刃物も、綺麗に拭かれ元の状態に戻る。


「この箱はいつも通りでいいか?」


「ああ。穴掘って火つけて埋める」


「了解」


 そう言うと、執事の男達は作業に取り掛かった。

 裏の山に穴を掘り、そこに肉塊の入った箱を入れる。

 さらに、火を使って燃やす。

 こうして、証拠は完全に隠滅されるのだ。


 一方のイレーネ。

 既に傾きかけた日を眺めながら、茶を飲んでいる。

 まるで何事も無かったかのように。

 しかしその身体は、以前よりも若くなっているようにも見えた。

 その姿はとても楽しげだった。

 と、そこへ…


「終わったか?」


 そう言って現れたのは、息子のガ―レットだった。

 彼はイレーネの隣に座り紅茶を飲む。

 イレーネはそんな彼を見て微笑んだ。

 二人は普通の親子という関係には見えない。

 どちらかと言えば、かなり歪んだ関係といえるだろう。

 イレーネは、そんなことを全く気にしていないようだ。


「ええ、終わったわよ」


「これで当分の間は大丈夫だろ」


「そうねぇ」


 そう言いつつ、イレーネは空になったカップを置く。

 すると、それに合わせるようにして新しいお茶が注がれる。


「ありがとう」


 イレーネはそう言いつつ、そのお茶を一口飲む。

 そして、小さく息を吐いた。


「ふふ…」


「どうした?急に笑い出して」


「いや、いい息子をもったなぁって思って」


「そうかい…」


「あなたは私にとって最高の息子だわぁ」


 イレーネは笑顔のまま、そう言った。

 そんな彼女に対し、ガ―レットは何も言わなかった。

 無言の時間が過ぎていく。

 やがて、ガ―レットが口を開いた。


「なあ、母さん…」


「何かしら?」


「実は母さんに頼みたい事があってさ…」


「あら、なにかしら?」


 ガ―レットは、これまでのことを話した。

 リオンとの確執。

 彼に王都レッドパルサードでの武術大会で敗北したこと。

 魔獣バッシュ・トライアングルのこと…


「母さんの力を借りたい」


 ガ―レットは真剣な目でイレーネを見つめた。

 それに対し、彼女は…


「…私の息子に対してなんてことを!」


 ガ―レットの言葉を聞き、怒りに震えるイレーネ。

 彼女は持っていたカップを握りつぶす。


「だからそのために力を…」


「絶対に許さないわ…」


「おい、聞いてるのか!?」


「ふふ、もちろんよぉ」


 イレーネは笑っていた。

 だがその目は笑っていない。

 彼女の心にあるのはただ一つ。

 息子を傷つけた男への復讐だけ。

 そのためなら何でもするつもりだった。

 イレーネは自分の手をじっと見つめた。

 その手は微かに光っているように見える。

 それは魔力による光であった。

 彼女は自分の魔力を高めていた。


「では、その邪魔な連中を排除しましょう」


「分かってるじゃないか」


「ええ、当然でしょう?」


 イレーネの顔に浮かぶのは不敵な笑み。

 そして、その瞳の奥に見えるのは狂気の光だった。

 ガ―レットの母親であるイレーネ、彼女の秘めたる魔力は王国最強。

 オーバーパワーの醜悪なる魔力。

 その力は計り知れない。

 そして、彼女は静かに笑うのだった。



 一方その頃。

 魔術師の少女メリーランは、この屋敷の別館で一人、休んでいた。

 執事が持ってきた食事を静かに食べ、部屋に置かれていた本を読む。

 たまに散歩に行く。

 この屋敷に来て数日、そんな生活をしていた。


「暇ですね…」


 彼女はぼんやりと天井を見ていた。

 ガ―レットが、ルイサを母親にあわせると言っていた。

 しかしここ数日の間、進展が無い。

 メリーランはガ―レットのことが好きだ。

 でも、今の彼はどこかおかしい。

 いつもの彼とは明らかに違う。

 あの日からずっと、彼は何かを考えている様子だった。


「何をするつもりなんですか?」


 そう呟くも、返事は無い。

 この場には自分しかいないからだ。

 寂しさを感じつつも、今は待つしかないと自分に言い聞かせる。


「早く会いたいです…」


 そう言って目を閉じた。

 静かな夜が続く。

 それからさらに数日後。

 ようやく、その時が来た。


「やっと来ましたか」


 部屋の扉がノックされる。

 すぐに誰か分かった。

 待ち焦がれていた相手だ。


「入ってください」


「ああ」


 ゆっくりとドアが開かれる。

 そこから現れたのはガ―レットだった。

 彼は短く答えた。

 少し疲れているように見えた。


「どうかされたんですか?」


「いや、なんでもない…」


 そう言うと、彼は近くの椅子に座った。

 メリーランは立ち上がり、彼の元へ向かう。


「そういえば、ルイサは…」


「ああ、あいつなら…」


 ガ―レットは、ルイサは逃げたとだけ言った。

 イレーネと意見の違いから言い争いになり、出て行った、と。

 それを聞いたメリーランは、心配そうな表情を浮かべる。


「大丈夫でしょうか…」


「さあな…」


「きっと大丈夫ですよ」


 そう言いつつ、彼女は微笑んだ。

 その笑顔を見て、ガ―レットも安心したようだ。


「そうだな…」


 そう言って小さく笑みをこぼした。


「それで、どうしたんですか?わざわざこんな所まで来て」


「お前に会いに来たんだよ」


「私に…?」


 意外な言葉に驚くメリーラン。

 何故だろう?と考えているうちに、ふと思い出した。


「(そう言えば、ガ―レットさんは私のことを…)」


 初めて会った時、彼は自分のことを好きだと言った。

 とても嬉しかった。

 今でも覚えている。

 だから、彼が自分のことを気にかけてくれるのは嬉しい。

 でも、それだけではないような気がする。

 何かを隠しているように感じたのだ。

 それが何なのかは分からない。

 それでも、いつか話してくれると信じて待とうと思った。


「ありがとうございます…」


「いや、気にしないでくれ…」


「はい…」


 会話が途切れる。

 二人の間に沈黙が流れる。

 だが、不思議とその時間は苦痛ではなかった。

 やがて、ガ―レットが口を開く。


「なあ、メリーラン」


「はい」


「俺と一緒に酒でも飲まないか?」


「お酒を…ですか?」


 彼にしては珍しい提案だ。

 そう感じるメリーラン。

 二人だけで飲食をするなどいつ以来だろうか。

 彼女は記憶を探ってみる。

 思い出されるのは、子供の頃に一緒に遊んだこと。

 あの時は楽しかった。

 だが、いつしか疎遠になっていった。


「いいですね」


 メリーランは笑みを浮かべた。

 久しぶりにガ―レットとゆっくり話しがしたい。

 そんな思いがあった。

 二人だけの酒宴は、ガ―レットが先に眠りに落ちるまで続いた。


「あーもういいわ。俺、先に寝る」


「そうですか、いっしょに…」


「一人で寝る、もう少し飲んでろよ」


 そうとだけ言って、ガ―レットは部屋から出て行った。

 部屋には、メリーラン一人だけが残されていた。


「はぅ…」


 ため息をつく彼女。

 窓の外を見ると月明かりが見える。

 彼女はしばらく外を眺めていた。

 そして、酒を片付けると、ベッドに向かった。


「ん…」


 小さな声を出し、寝返りを打つ。

 そのまま目を閉じる。

 彼女は眠ろうと努力する。

 しかし、なかなか眠れなかった。


「ガ―レットさんの様子がおかしかった…?」


 彼女は考える。

 先ほどのやり取りについてだ。

 何か隠し事をしているのではないか、と思うも答えは出ない。

 ただ、不安な気持ちだけは強くなっていく。


「どうして何も教えてくれないのでしょう…」


 彼女は呟く。

 しかし、当然のことながら返事は無い。


「私は、あなたのことが好きなんですよ…」


 メリーランは目を閉じたまま、そっと手を伸ばす。

 そして、その手が隣の空いた空間に触れる。

 メリーランは何も言わず、ただじっとしていた。

 その顔には悲しみの色が浮かんでいた。


面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルイサは食われて終わりですか。
[良い点] いつものように、良い章です。良いリズムと運が続くことを願っています。私はあなたを100%サポートしています。また、このアークが最後のガーレットゴミであることを願っています。 それでついにレ…
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