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第四十九話 ルイサとイレーネ


 一方その頃、ガ―レット。


 ここにはバッシュのことで騒ぐうるさい市民もいない。

 王都のようなギスギスした雰囲気も無いので快適だった。


 彼は屋敷の離れにある自室で過ごしていた。

 それにしても、ここは静かすぎる。

 王都と違って娯楽施設が全然ないのだ。

 暇を持て余していたガ―レットだったが…


「…町にでも行ってみるか」


 寂れた町だが、一応市場はある。

 そこならば退屈しないだろうと思ったのだ。

 そしてガ―レットは外出の準備をする。

 しかし…

 ドアをノックする音が聞こえてきた。


「ガ―レットさん」


「おお、メリーか」


「町にでも行きませんか?暇ですし」


「ああ、ちょうど俺もそう思ってたところだ」


 メリーランに誘われ、町の方へ出かけることになった。

 外に出ると、空は曇っていた。

 今にも雨が降りそうだ。

 そんな中、二人は並んで歩く。

 いつも通り、無言で歩いている。

 しかしその沈黙を破ったのはガ―レットの方だった。


「なあ、メリー」


「はい?」


「お前は親に顔出さなくていいのか?」


 メリーランの実家は山を越えた別の村にある。

 少し遠いが、いけないわけでは無い。

 しかし、彼女は首を横に振った。


「今はちょっと、気分じゃなくて…」


「そうか」


 それ以上、二人の会話は続かなかった。

 しばらく歩いて町の入口まで来た。

 相変わらず活気が無い。

 それでも、人が全く居ないというわけではない。

 市場にはそこそこ人が居るようだ。

 ガ―レットとメリーランは市場を散策することにした。

 市場には野菜や果物を売っている店が多い。

 他に雑貨屋なども並んでいる。

 メリーランはその中を歩きながら物色していく。


「何か欲しいものでもあるんですか?」


「いや、特に無いな…」


「そうですか…」


 ガ―レットは特に興味の無い様子で答える。

 そんな彼を見て、メリーランは困ってしまう。

 彼女も特に買いたいものがあるわけではなかった。

 適当にぶらついていただけなのだ。

 しかし、このまま何も買わずに帰るのもどうかと思うので、とりあえず気になったものを買った。

 一部の魔法の媒体に使う、干しガエルと木の実の粉。

 と、そんな時…


「お、なかなかいい女じゃん」


 市場にいた一人の田舎少女に目をつけたガ―レット。

 メリーランはすぐに察した。

 また、良からぬことを考えていると。


「(ああもう!またこの人は!)」


 内心呆れながらも、仕方なく彼に付き合うことにする。


「なぁ、俺たちと一緒に遊ばないか?」


 そういうガ―レット。

 彼は『魅了』の魔法が使える。

 その力で女性を自分の思い通りに操れるのだ。


「え?」


 少し驚いたように振り返る少女。

 ガ―レットは、その田舎少女の瞳をじっと見つめる。

 ただ、じっと彼女を見つめるだけだ。

 彼女の瞳を、『吸い込まれそうなほどに』じっと見つめる。

 そして、そう言いながら彼女の腰に手を伸ばす。


「きゃあっ!」


 思わず悲鳴を上げる彼女。

 しかし、すぐにその声を止めた。

 ガ―レットの手を振り払おうとした手を慌てて引っ込める。


「ん?」


「あ、ご、ごめんなさい。いきなり触られたからびっくりして…」


 そう言いながら、その田舎少女は頭を下げながら去っていった。

『魅了』の魔法は使っていたはずだ。

 しかし、効かなかった。


「なんだ、効き目が…」


 ガ―レットは気づいていなかった。

『魅了』の魔法は自身の感情の状態によってその効力が上下する。

 リオンとの戦いの敗北やバッシュの一件。

 王都から逃亡同然の形でこの田舎に来たということが、彼の精神状態に大きく影響しているのだ。

 今のガ―レットの精神力は、普段よりも弱まっていた。

 その結果がこれだ。


「くそッ!」


 思わず大声を上げるガ―レット。

 今まで忘れようとしていたことが、一気にあふれ出す。

 彼はそのまま近くの壁を思い切り殴った。

 鈍い痛みが拳に広がる。


「痛ッ!」


「そっちは折れたほうの腕じゃないですか!なにしてるんですか!?」


 メリーランが叫ぶ。

 リオンとの試合で折られた腕。

 そちらの腕を、ガ―レットは壁に叩きつけてしまったのだ。

 治癒魔法で治療自体はしていたが、完全に治っていたわけでは無い。


「うるせぇ!お前には関係ねぇだろうが!!」


「…ッ!」


 ガ―レットは怒鳴りつける。

 その迫力に押され、何も言えなくなるメリーラン。

 ガ―レットはそのままどこかへ行ってしまった。

 一人残されたメリーラン。

 彼女は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。





-------------------





 ルイサ、そしてガ―レットの母親であるイレーネ。

 二人はとても仲が良く見えた。

 今日もお茶を楽しんだりと楽しそうだ。


「どうぞ」


 イレーネに仕える青年が茶を出す。

 用意された菓子と茶を囲むルイサとイレーネ。

 そんな中、ルイサはふと気になっていたことをイレーネに尋ねた。


「この屋敷にいる人って私たち以外はみんな男の人なんですか?」


 イレーネに仕えている者はなぜか皆、年頃の少年から青年ばかり。

 それ以外の男性はいないし、女性もいない。

 労働力としては有能かもしれないが、それ以外の仕事をする者も年頃の少年から青年ばかり。


「ええ、そうよ」


 そう言うイレーネ。

 それがさも、当然であるかのように。

 まあいろいろ理由もあるのだろう。

 それを察して、ルイサはそれ以上は追及しなかった。


「あなたみたいな子とお茶を楽しむなんて『久しぶり』ねぇ」


「ふふふ」


「以前、別の女の子たちとも、よくこうしてたんだけど…」


「へぇ、そうなんですね」


「その子たちはもう、みんなここにいないけどね…」


「…」


 イレーネの言葉を聞いて、ルイサの表情が曇る。

 触れてはいけない話題だったのかもしれない。

 その様子に気づいて、イレーネはすぐに話題を変える。

 そのおかげで、ルイサの表情は元に戻った。


「ごめんなさいね、変なこと言っちゃって…」


「いいえ、大丈夫です」


 ルイサは明るく答えたが、内心はあまり穏やかではなかった。

 イレーネという女性はとても優しい女性だが、どこか得体のしれない恐さがある。

 ただ、それが何かわからないので、余計にもやもやするという感じだ。

 そんなことを考えていると、イレーネの方から話しかけてきた。


「ところで、『アレ』とはどうなの?」


「…ガ―レット様のことですか?」


「そうよ」


「ガ―レット様は素敵な方ですよ。とても優しくしてくれていますし…」


「本当にそれだけなの?」


「どういうことでしょうか…?」


「そのままの意味だけど…」


 意味深な笑みを浮かべながら話すイレーネを見て、ルイサは嫌な予感がしていた。

 彼女の言葉の真意がよくわからなかったからだ。

 しかし、その真意はすぐわかった。

 イレーネはルイサの目をじっと見つめる。

 その目を見て、ルイサは背筋が凍るような感覚に襲われた。

 まるで蛇に見つめられらような気分だ。

 その目に見つめられると、嘘をつけない気がしてくる。


「(なんだろう、この人…)」


「ねぇ、ルイサちゃん?」


「え?あ、はい!」


「あなたの本音を聞きたいのよ」


「私は…」


 ルイサは考える。

 自分が思っていることを正直に話すべきなのかと。

 しかし、ここで話さなかったとしても、いずれはバレてしまう気がする。

 それならば、今ここで話してしまった方がいいと思った。


「私は…ガ―レット様に好意を抱いています…」


「あらあら、やっぱりそうなのね」


「でも、まだ恋人とかそういう関係ではありません…」


「あら、そうなのね」


 ルイサはうつむきながらも、自分の想いを伝える。

 それに対し、イレーネは特に驚いた様子を見せない。

 むしろ、予想通りといった反応だ。

 ルイサがそう答えることを最初から知っていたかのようだった。


「うふふ、じゃあこれから頑張らないとね♪」


「え?あ、はい!そうですね」


「うふふ…」


 イレーネはそう言うと、クスリと笑う。

 その笑顔を見た瞬間、ルイサは寒気を覚えた。

 彼女はただ優しいだけではない。

 何かを隠しているのではないか、と。

 何か不穏な物を感じるルイサだった…



面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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